エピローグ ~夕焼け小焼け~(5)
目の前に、キラキラと七色に輝く光が見えた。
明滅を繰り返すその光から視線を逸らして周囲を見ると、豪奢な装飾の施された何かの装置が浮かび上がってくる。
白や黒の馬が何頭も並び、その間を小さな馬車が走っている。それらは円を描くように同じ場所を回りながら、ゆったりした動きで上下動を繰り返していた。
メリーゴーラウンド。大人も子供も楽しめる、遊園地の定番アトラクションだ。賑やかなメロディに合わせて動く木馬を眺めながら、陽千香はぼんやりと考える。
――遊園地かぁ……良いなぁ……。
蒼真のぎこちなさがもう少し薄らいできたら、いずれ一緒に行ってみたいと思っている場所の一つだ。こういうのんびりした乗り物も良いが、ジェットコースターのような絶叫系に乗せたらどういう反応をするかも見てみたい。それから何と言ってもお化け屋敷だ。正直陽千香は苦手だが、蒼真と一緒なら入ってみても良い。ああ、想像するだけで何だか楽しい……?
「……え? 遊園地?」
はたと気が付いて辺りを見回す。正面のメリーゴーラウンドを視界から外すと、奥にコーヒーカップのアトラクションが見える。さらに遠くを見れば、観覧車の巨大な影と、ジェットコースターのレールらしき曲線が空いっぱいにうねっていた。
陽千香は混乱する頭を必死に落ち着けて、直前の自分の記憶を思い出していた。
蒼司の見舞いから帰った後は、普段どおり家に帰って食事の支度をしたはずだ。珍しく早く帰った父も交えて家族一緒に夕食を済ませ、宿題の後で風呂に入った。寝る支度を整えてベッドに入り、明かりを消して目を閉じて――そして今。
「……ま、まさか……」
顔を引き攣らせていると、どこからか聞き覚えのある声が陽千香の名を呼んだ。
『陽千香~っ!!』
幼い少女を思わせる甲高い響き。それは銀色の翼をはばたかせ、結構な勢いで陽千香の顔面に突撃してきた。視界を覆ったその物体を慎重に剥がして目の前にかざすと、晴れた空のような青い瞳が瞬いた。
『数日振りですわね、陽千香っ!』
「リヒトっ! あ、あなた、どうしてここに……!?」
次はいつ会えるとも知れなかったはずの彼女が、いったい何故。戸惑う陽千香に、リヒトは至極当然のような顔をして答える。
『どうしても何も、ここは界境世界ですもの。わたくしがいるのは当然ですわ』
「だ、だって……蒼司くんは解放されたじゃないの!?」
今日だって、陽千香は蒼司の元気な姿を見てきている。奇跡的に目を覚ました彼は、一日でも早く自分の足で歩けるようにと、日々現実世界で奮闘中だ。
しかし、リヒトは呆れたように首を振った。
『悪魔に囚われている人が蒼司さんだけだなんて誰が言いましたの? 悪魔は世の中に掃いて捨てるほど湧いてますし、その犠牲者だって大勢いるんですのよ。我々御使いはてんてこ舞いですわ』
「で、でも……蒼司くんを助けて以来、ずっと界境世界には繋がらなかったのに……」
だからこそ、自分達はもう神子の任を解かれたと思っていたのに。陽千香の問いに、リヒトは再会してから初めて気まずそうに表情を歪め、乾いた笑いを零しながら言った。
『それが、その~……最初はそのつもりだったんですのよ? こんな危険なお役目を、貴女方にずっと押し付けるのは申し訳ないですし。ただ、何というか……悪魔に対する切り札になるほど、魂の輝きが強い人間というのもなかなか稀でして。代わりを探そうにも、そう簡単に見つかるものではないと言いますか』
歯切れの悪いその物言いに、陽千香は全てを悟った。
「……つまり、継続ってこと?」
その言葉に、リヒトはペロリと舌を出しながら笑った。
彼女の苦難は、一通の手紙を開封したところから始まった。そしてその苦難は、まだ暫くは続きそうなのだった。
まずはここまで読んでくださった方に最大限の感謝を。
あらためまして、田川竜と申します。この度は、こんな隅っこに転がしてある文章に長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
このお話は、昔参加していたリレー小説(って今時通じるのかしら。。)のエッセンスをほんの少しお借りして、自分流に新しく書き起こしたものです。当時は自分の力不足をはじめ、いろんな要因が重なって完結させることができませんでしたが、今頃になって「もう一度書きたい」と思い立ちました。正直、当時の内容はさっぱり忘れてしまったので、かすっている要素は"高校生が悪魔と戦う"、"パートナーに天使が付く"くらいなもんなのですが、ひとまず自分なりのエンディングを迎えられて満足しました。
投稿に関しては、実はこういうサイトにアップするのは初めてだったりするので、お作法等で至らぬ点もあったかと思います。(予約投稿は何回かミスりましたしねっ!) せっかくユーザ登録したので、もうちょっといろいろ機能使いこなせるようになりたいなぁ、なんて思っております。
さて、『リンクリングトラウム』の連載はこれでひとまず終了ですが、実は今こっそり続きを書いております。読者さんなんてほとんどいないんですが、良いんです。自分が楽しいだけの自己満足なので。
途中、気分転換と称して別の小説を書き始めてみたり、積んであるゲームの消化に勤しんでみたりと、寄り道が多いので前途多難です。きっと忘れた頃にひっそりアップすると思います。
それでは、またご縁がありましたらお目にかかりましょう。
本当にありがとうございました。




