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リンクリングトラウム  作者: 田川 竜
第六章 Dear My Brother
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Dear My Brother(11)

ひりつくような殺気を飛ばし、悪魔が仲間達に襲い掛かる。自分も加勢するべく(きびす)を返した蒼真は、弾かれるような感覚に思わずたたらを踏んだ。すぐ目の前に何かある。視覚では捉えられないが、この感覚には覚えがある。初めてここに呼ばれた日、学校の外に出ようとした蒼真を(はば)んだ見えない壁だ。

ついさっきまでこんなものはなかった。今忽然(こつぜん)と現れたのだとしたら、そんなことができる奴は一人しかいない。蒼真は振り返り、そこに立つ弟の顔を見る。自分の姿を()したという彼は、自分が絶対にしないような愉しそうな表情を浮かべて言った。

「邪魔者は"みんな"に任せておけば大丈夫。さ、遊ぼ。何して遊ぶ?」

その言葉に、蒼真は拳を握り締めた。誰に対しても人懐こくて、いつだって周りに好かれていた蒼司が、人を化け物に襲わせておいて平然と笑っているとは。こいつがこんな風になったのは、やはり自分のせいなのだろうか。罪悪感に囚われかけた思考を振り払い、蒼真は蒼司を睨み付ける。

「……俺はお前を助けるためにここまで来た。あいつらだって同じだ。なのに悪魔に襲わせるなんて、いったいどういうつもりなんだ……!?」

蒼真の問いかけに、蒼司はおかしそうに笑った。

「どういうつもりって、それはこっちの台詞だよ。俺から夢を取り上げてどうする気? また独りぼっちの暗闇に戻れとでも言うつもりなの?」

じくり、と胸の深いところが痛む。覚悟していたこととはいえ、こうして面と向かって責められるのはキツい。それでも、蒼司を失うよりはよほどマシだ。蒼司を鋭く睨み返し、動揺を押し隠しながらさらに問う。

「あいつらが、親切で願いを叶えてるとでも思うのか?」

「どうだって良いよそんなの」

質問への回答を拒むように首を振ると、蒼司は少し寂しそうな顔をしてこちらに訊ね返してきた。

「寒くて、真っ暗で、何の音も聞こえない。そんな場所にずっと独りぼっちでいる気持ち、兄貴に解る? 解んないでしょ? "みんな"はさ、そんな俺に手を差し伸べてくれたんだよ。あったかい居場所も、楽しい話し相手も、俺が欲しがるものは何でもくれた。"みんな"の目的なんてどうでも良い。俺はもう、あんな所には戻りたくない」

「蒼司……!」

「"みんな"のおかげなんだよ! "みんな"が願いを叶えてくれたから、俺はこうして笑っていられる。"みんな"がいたから、兄貴とだってこうしてまた話せたんじゃない! ずっと続けば良いと思うのはいけないこと? 兄貴に、ずっとここにいてほしいと思うのは間違いなの? 俺はそうは思わないよ。ねぇ、遊ぼう? ここに残って俺と遊ぼうよ。兄貴だって、また俺と一緒にいられたら嬉しいでしょ……?」

囁くような蒼司の声。背筋に寒気を覚えながら、蒼真は蒼司の顔を見つめた。

ずっとここに残るということが何を意味するのか、蒼司が分かっていないとは思えない。蒼真の知っている蒼司であれば、間違ってもこんなことを言うはずはない。だが目の前にいる少年は、決して悪魔が見せた幻などではない。双子だからこそ分かる。こいつは間違いなく自分の弟だ。

暗闇の中で孤独に過ごす無限の時間が、蒼司の精神を(むしば)んでしまった。蒼真が罪悪感に囚われ続けてきたのと同じように、蒼司もまた、暗闇の狂気に囚われてしまっている。

背後から高い悲鳴が聞こえた。慌てて振り返ると、水の悪魔に足をすくわれたあやめが床に倒れて引き()られているところだった。助けに入った圭介のおかげで、すぐに拘束は解かれたようだったが、防御の要であるあやめの風が途切れたのは明らかに痛手だった。風の加護のもとで遊撃として動いていた良一が悪魔の標的となり、その援護に回った貴則の優位が徐々に崩れていく。あやめの立て直しのために圭介が守備に追われる(かたわ)らで、孤立した陽千香が追い込まれていくのが分かった。

蒼司と話をする前に、まずあちらをどうにかしなければまずい。見えない壁を()め付けてから、蒼真は宙を漂う相棒を見やった。

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