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リンクリングトラウム  作者: 田川 竜
第六章 Dear My Brother
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Dear My Brother(10)

饒舌(じょうぜつ)に語りながら、少年は自分の髪を一房(ひとふさ)摘まんでみせた。「ま、いっか」と軽く言ってそれを弾くと、再びこちらに視線を向ける。

「いらっしゃい。歓迎するよ、兄貴」

「……蒼司……」

気安い口調で呼びかける蒼司に対し、蒼真の呟きは苦しげだった。身体が微かに震えている。蒼司と相対するというだけで、彼には相当の勇気が要るだろう。少しでも蒼真を支えたくて、陽千香は彼の背にそっと手を触れた。

刹那、ぞっと肌が(あわ)立つような感覚に見舞われる。慌てて視線を巡らすと、蒼司が面白くなさそうな顔でこちらを見ていた。陽千香が蒼真から手を離すと同時、彼はついと目を背け、再び子供っぽい笑顔を浮かべて明るく言い放った。

「兄貴と遊ぶの楽しみにしてたんだー。何して遊ぼっか?」

「蒼司……遊びに来たわけじゃないんだ……」

蒼真がゆるゆると頭を振るが、蒼司はくすりと嗤ってそれを拒む。

「ダメだよ。ここは俺の世界なんだから、俺のワガママは聞いてくれなきゃ。……と、その前に……」

蒼司は首を巡らせて、蒼真以外のメンバーを見回した。陽千香が眉をひそめていると、彼は冷たい笑みを浮かべて口の中で囁いた。

「邪魔な人達はあっちに行っててもらおうかな」

ぐん、と身体が引っ張られる感覚を覚えたのはその時だった。まるで吸い寄せられるように体育館の壁に激突した陽千香は、背中を強かに打ち付けて息を詰まらせた。その場に膝をついて咳き込む陽千香の視界には、同じように壁際にうずくまっている仲間達の姿が映っていた。

「よせ蒼司!!」

少し離れた所から、蒼真の焦った声が聞こえる。顔を上げると、一人だけ舞台の前に取り残された蒼真が、蒼司を睨みながら立っていた。

蒼司は()ねたような顔をして言った。

「久し振りの兄弟の再会を邪魔するなんてブスイじゃない。俺あの人達に興味ないし、あの人達には"みんな"と遊んでてもらうことにするよ」

「……"みんな"?」

蒼真の怪訝(けげん)そうな呟きを境に、周囲に嫌な気配が満ちた。うなじのあたりが焦げ付くような感覚――悪魔の殺気。

立ち上がって剣を構えた陽千香は、目の前の空間が奇妙に歪んでいくのを見た。水面(みなも)に石を投じた時のように細かく波紋を描くそこから、黒い何かが次々と這い出てくる。

枯れ木を思わせる干乾びた四肢と、落ち窪んだ眼窩(がんか)に光る獰猛(どうもう)な目、腰より下に伸びている巨大な蛇。その足元に群がっているのは、素早く動く小柄な影。狼を思わせる姿の、四足の獣。見覚えのあるそれらは、かつて倒してきたのと同型の悪魔だった。

悪魔達がこちらの姿を認めて唸り声を上げ始める。じりじりと後退しながら、一番近くにいたあやめに合流すると、彼女は顔色を青ざめさせながら言った。

「まだいます……」

「え?」

「あの奥に、まだいます……!」

あやめの視線を追いかけて、歪んだ空間の奥を睨む。波紋の向こうから(にじ)んでくるように、どこかで聞いたような音が聞こえてくる。薄い紙を(こす)り合わせるような(さざなみ)の音。氾濫(はんらん)した川が押し寄せるような水流の音。不気味な鳥の鳴き声に、激しい炎が()ぜる音。

「どうして……全部倒したはずじゃ……!?」

「別に驚くようなことじゃないよ」

陽千香の漏らした呟きに、蒼司が笑いながら言った。

「俺が願いを叶えると、彼ら力を蓄えて分裂するみたい。お姉さん達が倒してきたのはコピーの方だよ。オリジナルはこっち」

「蒼司、お前……こいつらが何なのか分かってるのか……!?」

蒼真の問いに、蒼司は答える。

「トモダチだよ。何でも願いを叶えてくれる、ね」

その無邪気な笑顔は、陽千香の目には狂気を帯びているように見えた。

耳を裂くような鋭い威嚇(いかく)音。蛇の本体が頭をもたげ、巨大な口をこちらに向ける。こうなってはやむを得ない。蒼司と話す前に、まずはこの悪魔達をどうにかしなければ。狼が地面を蹴るのと同時、陽千香はあやめの風を伴って走り出した。

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