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リンクリングトラウム  作者: 田川 竜
第六章 Dear My Brother
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Dear My Brother(3)

二人にも頷いてみせると、陽千香は奈緒に続いて教室を出た。吹き抜けを挟んで反対側の廊下にある職員室に行くと、四人揃ってその扉をくぐる。

「――ですから、そこを何とか……!」

中に入ると、陽千香達の耳に聞き覚えのある声が届いた。首を(めぐ)らせて声の元を辿(たど)れば、ちょうど守山の席の前に、見知った少年が立っていた。

「あれ? けーすけじゃん」

驚いた様子で奈緒が声を上げた。そういえば、彼女は圭介とは知り合いだった。彼女が紹介してくれたから、陽千香は圭介と出会えたのだ。

「陽千香先輩、奈緒先輩! ……と、お友達もご一緒で」

陽千香達が近付いて行くと、圭介は目を丸くしてこちらを見てから、軽い会釈(えしゃく)に続けて言った。

「もしかして、守山先生にご用事ですか? 僕の方はもうちょっと時間かかるので、何でしたらお先にどうぞ」

「何だ? 仲良しが揃って、俺に用なのか?」

何やら圭介と話し込んでいたらしい守山が、椅子の向きを変えてこちらに向き直る。先を(ゆず)ってくれた圭介に礼を言うと、陽千香は守山の顔を見つめながら言った。

「はい。守山先生に、一つお願いがあって」

「お願い……?」

片眉を跳ね上げて呟いた彼に、横から割り込んだ奈緒が手を合わせながら言った。

「モリちゃんお願いっ! 志筑君の住所教えて!」

「はぁ?」

守山は呆気に取られたように漏らして、陽千香達の顔を順繰(じゅんぐ)りに見回した。ついでに圭介にも視線を向けた彼は、呆れた様子で頭を掻き回しながら言った。

「お前達までそんなこと言い出すのか?」

「……お前達、"まで"?」

その奇妙な言い回しに、隣の明美と顔を見合わせる。陽千香は訊ねた。

「あの、先生……"まで"っていうのは、いったい……?」

「ちょうど薬袋から、同じ頼みごとをされて弱ってたところだ。いったい何だっていうんだ? 志筑の住所がどうかしたのか?」

わけが分からないといった風に肩を(すく)める守山から目を離し、圭介の方を見る。陽千香と視線が合うと、彼はイタズラでもバレたような顔で笑いながら頭を掻いてみせた。

「いや~……陽千香先輩がだいぶ参ってる様子だったので……何かできることがあればな~、と思いまして。僕がお役に立てるのなんて、情報収集と交渉事くらいですし……」

「圭介くん……」

蒼真の連絡先を調べるために、わざわざ守山に直談判(じかだんぱん)しに来てくれたのか。思わぬ心遣いに、胸の辺りがじんと熱くなる。圭介の行動力に背中を押された陽千香は、守山に向き直って頭を下げた。

「良くないお願いをしてるのは分かってます。でも、どうしても彼と連絡を取りたいんです。志筑くん、電話もメールも反応がなくて……もう先生くらいしか頼れる人がいないんです」

「……そう言われてもな」

守山は、困り果てた様子で頭に手を乗せて(うな)っている。やはり正攻法では厳しいだろうか。陽千香が横目に見ると、奈緒は任せろというように笑ってみせた。

「ちょっとモリちゃん、察してよね。陽千香みたいなマジメな娘が、無理を承知でわざわざ頼み込んでるんだよ? よっぽど深~いワケがあるんだと思わない?」

奈緒は(ひじ)でぐりぐりと守山の二の腕を押しながら、芝居がかった調子で囁いた。奈緒の雰囲気に圧されたのか、守山が彼女に合わせて声を潜めながら訊ねる。

「……何だ? わけって」

「訊いちゃう? モリちゃんそれ訊いちゃうの? お願いだから空気読んでよ。年頃の女の子が特定の男子に会いたがる理由なんて一つしかなくない?」

……自分のためにやってくれていることは分かっている。だからといって本人を目の前にこんな恥ずかしい話をしないでほしい。穴があったら入りたい気持ちを必死に我慢して、陽千香はその場に立ち続ける。

「え、え? 陽千香先輩、もしかして……?」

横で聞いていた圭介が、奈緒と陽千香を交互に見ながら驚いたように声を漏らす。恥ずかしくて死にそうになっていたところへ、有紀の冷静な助け船が入った。

「紳士たるもの、余計な聞き耳は立てないこと。よろしい……?」

「聞いてません。ボク、何にも聞こえてませんので、はい」

有紀の背後にちらつく陽炎(かげろう)に恐れをなし、圭介が耳を(ふさ)いでそっぽを向く。ちょっと申し訳ないような気もするが、陽千香はこれで一安心だ。奈緒の交渉が終わるのを、気を紛らわせながら待つこと暫し。やがて不自然な咳払いとともに、守山がこちらに向き直った。その横では、奈緒が親指を立てながらニッと笑ってみせていた。

「あー……何だ。いくら頼まれても、教えられんものは教えられん。が、そういえば志筑に郵送しないといけない書類があった気がする……ちょっと、待ってなさい」

守山はそう言い置いて席を立つと、職員室の壁際に並んだラックから分厚い冊子を取って戻ってきた。冊子をめくって目当てのページを探し出すと、机の引き出しから封筒を取り出し、そこに何かを書き写していく。作業が終わると、守山は文字を書いた面が表になるように机上に置き、陽千香達の顔を見回して言った。

「今から住所録を棚に戻してくる。一瞬席から離れるが、くれぐれも、この封筒には手を触れるなよ。良いか? 絶対だぞ」

力いっぱい念を押した守山が席を立つと、奈緒はすかさずスマートフォンを取り出した。カメラを起動して封筒の文字をパシャリ。守山が背を向けている間にスマートフォンをポケットにしまい込み、何食わぬ顔で守山が戻るのを出迎える。

「触らなかっただろうな?」

封筒を引き出しにしまいながら言った守山に、奈緒はあっけらかんと答えた。

「当ったり前じゃん。バッチリだよ」

「……奈緒先輩、すごい。新聞部に欲しいです」

「やめた方が良いと思うけどな~……」

感心したように零す圭介を、明美が苦笑交じりに眺めている。満面の笑顔でブイサインを送る奈緒の姿に、有紀が苦い顔で息を吐いていた。

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