第1話 天使
異世界ものですが「転生」ではありません。
「……どこだよ、ここ」
目の前に広がっているのは、田舎のような風景。畑があって、古めかしい民家が何軒か建っている、田舎のような場所。
でも俺がいたのはこんな場所じゃない。都会のど真ん中の、新しくできたばかりの教会のはずだ。幹線道路沿いの、少なくともこんな草原はなかったはずだ。
何かの勘違いであってほしい。そう思いつつ馬鹿でかい扉を閉めて、開ける。だが残酷にも結果は同じだった。
振り返って教会の中を見渡す。ここは変わってないのだ。変わっているのは外だけ――
「いや、なんだあれ……?」
一つだけ違うものが、十字架のステンドグラスの下、女神像の足元に飾られていた。何やら細長い棒のようなものが、さっきまではなかったのにそこにある。
不思議に思って近寄ってみる。足音が木霊し、自分一人しかいないことを実感させてくる。
主祭壇の裏に回り、その棒を取る。木の枠に丸い鉄の棒が嵌め込まれ、指を掛けるような金具がある。これはまるで――
「……銃?」
エアガンか何かなのだろうか。見た目は西部劇に出てきそうな感じだ。詳しく調べるため隅々まで見たが、見つけたのは英語の1文のみ。
「Winchester M1866……」
ウィンチェスターというのは知らないから置いておいて、1866というのは製造年だとすると、約150年も前になる。
誰かがいたずらで置いたのか、それとも元からある装飾品なのか。
訳も分からずその銃を睨んでいた、その時。
「うわ、なんだ――!?」
英文が光りだし、銃が震えだす。どうしていいかもわからず元あった女神像の足元へ戻す。そんなことで何が変わるわけでもなく、銃の震えも光も収まるどころか勢いを増していく。
がたがたと銃が鳴り続ける度に、焦りは増していく。
『なんだよこれ、どうすりゃいいんだよ!?』
慌てふためくが何かができるはずもなく、事の成り行きを見守るしかない。やがて教会全体を包むほど光が強くなり、両手で目をふさぐ。
うるさかった銃の音が段々と弱くなり、消えた頃にそっと目を開けてみると、あの眩しかった光が嘘のように消えていた。
「……気のせい、か?」
就職活動で疲れていたのだろうか。それにしては疲れすぎだろう、こんな幻覚に幻聴を覚えるなんて。そうだ、さっきの外の風景も幻覚だったに違いない。帰ったらすぐに病院に行かなくては。
そうと決まれば、この教会に長居する理由はない。とりあえず目を覆った腕を降ろす。が、そこには思いがけない光景が広がっていた。
「…………」
俺には、天使がいるのかと思った。これ以上無いほどの純白の衣、整形手術をしたほうが崩れるのではと思うほど整った顔、祈りを捧げるためだけに作られたのかと錯覚するまでの華奢な指。西洋の天使を思わせる、絶世の美人という言葉では足りないほどの――だめだ、表現が浮かばない。
呆気に取られるとは、まさにこのことだろう。
「ありがとうございます……マイ、マスター」
頭の中がごちゃごちゃしている。事実だけを見て整理しよう。
俺の目の前に、俺をマスターと仰ぎ、跪き祈りを捧げている女性がいる。