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なぜかうちの店が異世界に転移したんですけど誰か説明お願いします【和風納涼短編~王国兵士の納涼~】

作者: 蒼井茜

本作はあらすじにも書いた通り外伝扱いです。

本編との矛盾が生じていたら申し訳ありません。


 吐き気すら覚えるほどの熱気に襲われる今日この頃。

 私、蒼井茜と御坂亮平こと亮君は王様牛耳る国のおひざ元に来ていました。

 ここはお城の一角にある、兵士の訓練場らしいです。


「こんなに暑いのに……皆さん元気ですね」


 私が周囲を見渡すと兵士の皆さんが剣を振ったり、走ったりしているのが目に映ります。

 しかも皆さん鎧を着こんでの完全装備。

 おそらく日差しを受けた鎧で鉄板焼きにされて、籠った熱で蒸し焼きにされるという、まさに地獄といってもよい状況でしょう。


「この国の訓練は他の国と比べても厳しいからねぇ。

いやぁ懐かしいわ」


 そう言ってのけた亮君は、お店から持ってきた缶ジュースをぐびぐびと飲んでいました。

 たぶん引退した運動部の先輩ってこんな感じなんでしょうね。


「それで、今日はここで訓練している人たちが? 」


「うん、こいつら。

そろそろころ合いだと思うよ」


「集合! 」


 亮君とそんな話をしていると、豪華な鎧を身に纏った男性が声を張り上げます。

 おそらく隊長さんとか、教導官とか、そう言う偉い人なんでしょう。

 とりあえず隊長さんと呼んでおきましょう。


「注目! 本日この場にお客人が来ている! 全員敬礼! 」


 隊長さんの号令で皆さん一糸乱れぬ敬礼を披露してくれました。

 日本にいたころは、こういう光景をテレビで見たことがありましたけど……実際目の当たりにすると圧巻ですね。


「あーお客人から貴様らに伝達事項がある! 心して聞くように! 」


「あ、もういいのか?

えーと、人によってはお久しぶり……でいいのか、御坂亮平だ。

今回は国王陛下の依頼でここにきている、全員楽にしてくれ」


 そうはいったものの、兵士の皆さんは直立不動のまま話を聞いています。

 まぁ国の一番偉い人の依頼で、なんて言われたら肩の力を抜くなんてできませんよね。


「とりあえず倒れられても困るんで株とくらいは外してくれ……よし、そんじゃ続けるぞ。

えーと、以来のないようなんだが兵士の士気低下と、訓練の精度が落ちてきているって話を受けた。

十中八九この暑さが原因だろうということで、国王陛下は交代で兵士に休息を与えるように提案してきた。

ただ休ませるだけでは今まで通りで意味がないので、休暇とは違うけどな」


 先日うちのお店に来た時に相談されたんですよね。

 士気が下がって、訓練も結果につながらないって。

 なので正確に言うならこちらが提案して、王様が依頼を出した、というのが正しいんです。


「まずやってもらいたいのは鎧はいつも通り、手入れをして所定の場所に置いてきてくれ。

剣だけは持参してくれよ、街の外に出るからそれくらいの備えは必要だ。

その後は各自、東の湖に集合、時間は今から3時間後ってところか……各自質問は?

無いな、なら行動開始! 」


 一瞬あっけにとられた様子でしたが、皆さん慌てて駆けていきました。

 今の時間から考えると、鎧の手入れをして、軽くお昼を食べて、それから湖に行ってと……結構ギリギリなんでしょうね。

 私たちは一足先に向かって準備を売る必要がありますしね。


「あー、茜さんからも何か言った方がよかったかな」


「いえ、私は口下手なので……。

それよりもそんな簡単に行ける場所なんですか? 東の湖って」


「ん? 歩いて20分くらいかな……茜さんのお店からなら10分くらい。

というか知らなかった? 」


「知りませんでしたよ、企画は全部亮君と王様に丸投げしていたので。

私が考えたのはメニューだけですよ」


「あーそういえば……」


 今回王様の依頼は納涼、ということだったので私たちは持ちうる知識を総動員してそれにこたえようとしました。

 中には技術的に無理だったり、逆効果になりそうなこともあったのですがどうにかこうにか実行にこぎつけることができました。

 多少の無茶はしたんですけどね。


「まったく……それじゃあ先に逝っていましょうか、準備もありますしね」


 亮君の手を取って、目的地へ向かって歩みを進めます。


「茜さん、そっち逆方向」


 まずはお城から出ないといけませんね……。



 それから一時間ほど、少し寄り道をしながら目的の湖にたどり着きました。

 そこには大きな船が一隻、木の質感から真新しいものだと判ります。

 

「えーと……これ全部がそうですか? 」


「うん、まさかここまで本格的になるとは思わなかったけど……そうみたい」


 そこに鎮座している船と、そして湖わきに建っている小屋を眺めて亮君は言葉を濁します。

 というか私もこの状況に思考が追いつかないです。

 この船は、私たちが王様に提案したもののひとつです。

 船の上に小屋を取って付けたようなそれは、日本ではなじみ深い屋形船です。

 障子もこちらから提供することでしっかりと再現しているんですが……想像以上に立派な出来栄えです。

 というか屋形船というより館クルーザーと言ってもいい大きさです。


「たぶん、これ兵士たちは納涼ついでの実験で、それ以降は工業の一つにするんじゃないかな……。

あの頭でっかちの貴族共をだまくらかすには、それくらいの方便が必要だろうし」


「あぁ……なるほど」


 船を作るとなるとかなりの金額になりますし、これだけの大きさを短期間でとなると相当な負担だったでしょう。

 それをやるには、それ相応の見返りが必要だったはずです。


「あ、それより食材」


 用意された食材の確認のため、一隻一隻、しっかりと見て回ります。

 その中にはこちらが指定した食材や器具がちゃんと用意されていました。

 ガスコンロなどはこちらから手配しておきましたが、土鍋などは向こうが用意してくれたものです。


「いけそう? 」


「そうですね、これなら大丈夫でしょう」


 一つ一つを確認する時間はありませんが、これなら問題はないでしょう。

 船の底部に用意された食材は、氷なども併用して鮮度が保たれていますし……それに絞めに用意した物は専用の箱でキンキンに冷やされています。

 ほかにも重要なものは、方法は違えどそれぞれが充分に冷えているはずです。


「それはよかった……と丁度集まってきたらしいな」


 船の外に目を向けた亮君が、そう言ったので合わせてそちらを見ると兵士さん達が汗をかきながら集合していました。

 船に関してはあまり驚いていない様子ですね。


「あー、少し準備するから水浴びでもしててくれ。

こっちのことは気にしないでいいから」


 窓から亮君が呼びかけた瞬間、兵士の皆さんは剣を放り投げて湖に飛び込んでいきました。

 たっぷり汗をかいた後なので、気持ちがいいのでしょう。

 あちこちから感嘆の声が上がっています。

 また剣を投げるなという怒声も聞こえましたが、その人も次の瞬間には感嘆の声を上げていました。

 さて、こちらは準備を……ん?


「どうしました? 亮君」


「いや、茜さんの水着姿がみてみたいなぁ……と」


「水着……ここ数年来ていませんでしたね。

流石にデザインも古いし、体型も……ちょっとだけ、ちょっとだけお肉がついてしまったのでさすがにもう着れませんね」


「Tシャツで飛び込んでも……」


 思わず胸元に手を当てて身をよじります。

 亮君が何を考えて鼻の下を伸ばしているのかが、手に取るようにわかってしまったので。


「そんなこと言っている人にはビールあげませんよ」


「あ、嘘で……はないんだけど一生懸命働くから許して! 」


「現地は取りましたからね、じゃあまずは……」


 それからは調理や、準備で駆け回ることとなりましたが無事本番へとこぎつけることができました。

 少し問題があったとすれば、遊び疲れた兵士の皆さんがぐったりしていたことくらいでしょう。

 

「皆さん、こちらの服に着替えてくださいねー。

亮君が着方を教えてくれるので、着替えたら中に入ってきてくださーい」


 皆さんに用意したのは浴衣です、お祭りとかできるような本格的なものではなく、旅館などで寝間着代わりに使われる簡易的なものです。

 こちらの技術で作ったもので、すでに試験的に販売開始しているそうです。


 それから10分ほどで兵士の皆さんが屋形船の中に入ってきました。

 干物結び方がおかしかったり、はだけていたりという点には目を瞑りつつ、順番に席に座っていただきます。

 屋形船ですので、当然畳が敷かれています。


「それではみなさん、こちらの器具ですがこのつまみを回すと火が付きますのでやってみてください」


 用意したのは鍋料理、それも唐辛子をふんだんに聞かせた激辛です。

 あらかじめ準備は落ちらで済ませて、軽く調理を済ませていたのであとは温めるだけという状態です。

 本当なら目の前で作るべきなんですが、さすがに私たち二人だけでそれは無理でした……。

 なので次回以降はこの兵士さん達にも協力してもらうかもしれませんね。


「瓶に入っているのはお酒ですので、酔っぱらいすぎないようにしてくださいねー。

酔った方は水に飛び込まないようにしてください、危ないですからね」


「それとお前ら、辛いの苦手なやつは……頑張って食えよ。

俺が保証してやる、これ食ったらその後は天国のような涼しさだぞ」


 亮君の言葉に、ちらほらと本当に死ぬんじゃ……という不吉な言葉が聞こえてきましたが聞かなかったことにしましょう。

 程よく煮えてきたところで、皆さん恐る恐る鍋料理を食べ始めます。

 亮君から聞いたのですが、貴族の皆さんは同じ鍋から直接取って、というのは気が引けるそうですが兵士ともなれば行軍などでこの程度当たり前だそうです。


「かっら! 」

「この酒、弱いけど冷えててしみわたる! 」

「汗が噴き出るがこの服は楽でいいな」

「辛い後に酒で冷やす! この組み合わせが溜まらねえ! 」


 料理を食べ始めたことで皆さん汗をかき始めました。

 少し部屋の中が蒸してきたので、もう一度声をかけます。


「皆さん、その紙張りの窓を開けてみてください」


 障子と言っても伝わらないので、そう呼びかけると近くにいた人たちがガラガラと窓を開けていきました。

 それから感嘆のため息が。

 窓から差し込む、湖に冷やされた風が屋形船の中を通り抜けていきます。


「これは、本当に天国のようだ……」

「夏って、こんなに涼しかったんだな……」

「酒! 飲まずにはいられない! 」


 皆さん食べては飲んで、飲んでは食べて、歌って踊ってと納涼を楽しんでくれているようです。

 私の隣でビールを飲みながら唐辛子鍋を食べている亮君も、少し満足そうにしていました。

 私も、子の際なので普段はあまり飲まないお酒を少しいただきます。

 ……ところでちらちらこっちを見ているのはなぜでしょう。

 よく見ると兵士の皆さんもこちらを……?


「茜さん、暑いかもしれないけどこれ着てて」


 そう言って亮君に渡されたのは上着でした。

 なぜでしょう、風通しを良くしたとはいえ、熱気がこもっているので蒸し暑いのですが……。


「大きな声では言えないけど、お酒と熱気で上気した頬と、はだけてはいないけど浴衣の裾から除く脚や首が……その、男やもめには目に毒だから」


 ……あぁ、そういうことですか。

 無粋な話です、けど明日からは私はいつも通りの格好で対応しましょう。

 この兵士さん参加納涼船は、10日間続く予定ですからね。

 初日は難点も、良点もわかったので良しとしておきましょう。

 上着を着て、鍋を頬張って、お酒をきゅっとあおります。

 明日は冷酒も用意しようと心に決めながら。

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[気になる点] 株とくらいは外してくれ →兜 [一言] いつの間に短編集が! 屋形船、いいですなあ。
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