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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#2 鬼哭啾々
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最終話

 かくして宴会はお開きとなり、仲居さんたちがやってきて後片付けをし、ついでに宴会場だった男性部屋のとこの準備をしてくれた。

 青唐辛子さんは女性部屋へと戻り、オレとオレンジハイタワーさんの男性陣は部屋の支度ができるまで邪魔なので、いったんそこから出た。

 オレンジハイタワーさんは寝る前にもういちど風呂に浸かると言い、オレも誘われたのだがオレはことわった。

 そんなわけで、オレはロビーでタバコを吸って時間をつぶすことにした。

 ロビーへ行くとそこには先客がいた。女性部屋へ戻ったとばかり思っていた青唐辛子さんだった。


「あ、どうも」

 オレがあいさつすると、さきにタバコを吸っていた彼女は無言で会釈した。

 微妙な空気だった。まったく会話がないのもヘンだ。かと言って、なにを話せばいいか、さっぱり思い浮かばない。

「……怖く、ありませんか」

 意外にも青唐辛子さんのほうから話しかけてきた。

「怖い?」

「ええ。だって、れふとすたっふさん、今日1日の記憶を失くしてしまったんでしょう?」


 れふとすたっふ、というのはオレのペンネームだ。いまはそういうことに、なっている。本当は「ほっとケーキ」なんだけどね!

「そうですね……。でも大怪我したりとか、金品を盗まれたりしなくて助かりました」

 オレはつとめて常識的な受け答えをした。昼間の災難を、小規模なアクシデントとして片付けようとしたのだ。

 だが、どうなんだろう。記憶を失くすというのは、あるいは、肉体的金銭的ダメージよりもデカいのかもしれない。

 実感がわかなかった、というのが正直なところだ。


 青唐辛子さんはタバコを灰皿でもみ消すと立ち上がった。

「それじゃ、私は失礼します。おやすみなさい」

「……おやすみなさい」

 いまの会話は何だったんだ? どうも自由すぎる彼女のペースには、ついて行けない。

「あ、ひとつだけ言っておきます」

 去り際に彼女はオレの目をじっと見て言った。

「女性部屋は、けっして覗かないように」



 はああ!?



 なんだそりゃ。なぜオレが、そんなことを? 完全にエロ枠だと思われているのだろうか。かりにも昼間遭難してるんだぞ、オレは。

 オレの返答を待たずに彼女は去って行った。

 意味がわからなかった。だがさすがに、これは気分がわるかった。そんな気分のままこの旅は終わった。



 あの、けったいな旅行から帰ってきて1週間が経った。

 その日、何気なくテレビをつけたオレは、たまたま流れたニュースに目を奪われた。

 F県で旅行にきていた男女3名が行方不明になった、というニュースだった。3名の顔写真が公開され、オレはその映像に釘づけになった。

 あの3人だ……。

 女性2人は坂本サカエさん、そして青柳優子さんと発表された。そうか、青唐辛子さんは青柳優子という名前だったのか。


 男性1人は蛍田桂樹(ほとだ けいき)さんと発表された。なるほど、オレンジハイタワーさんがそれか。写真もイケメンだ。


 あの旅行に参加したなかで、なぜオレだけが無事だったのだろう?

 いや、オレは1度遭難している。坂本さんについていえば2度だ。2度目が致命的だったらしい。

 警察はオレのところへ尋問にくるだろうか。だが、なんて答えりゃいいんだ。記憶のいくらかを失くしましたってか?

 オレが答えられるのは自分の名前くらいだ。

 オレの名前はひだり 資人よしと。ペンネームは……れふとすたっふだ。

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