その9
大草原の真ん中で小太りのおばさんと、ふたりきり。こんなシュールな状況があっていいのだろうか。
「オレをおぼえていませんか、坂本さん。先日お祓いをしてもらった蛍田ですが」
「……お祓い、ですって? 何のことですか」
思わずオレは目を閉じる。うっわ、マジか……。
覚悟はしていた。この坂本さんが、あの坂本さんじゃないという可能性。
オガにしたって、信じたくはないが、オレの脳内に送られたダミープログラムだったのだ。
この坂本さんだってダミーかもしれない。
いや、先日のあの坂本さんがダミーで、いま目のまえにいるこの坂本さんは天然ものかもしれない。
鰤みたいに言いましたけど、はい。
「あなたがオレをおぼえていないなら、それは記憶障害です。ここまでどうやって、きたかも、おぼえてないんじゃないですか?」
図星を突かれたらしく、彼女は無言のままワナワナと震えていた。かわいそうだったがある意味、しょうがない。
現時点でオレは坂本さんより優位に立っている。彼女より多くの情報を持っているからだ。
が、そう思っているのはオレだけで、じつは坂本さんは敵のスパイかもしれない。わざと無知を装っているかもしれないのだ。
とにかく、用心するに越したことはない。手の内をあまり見せず、情報は小出し小出しでいく。
「ああっ……なんで、どうして、こんなところに」
坂本さんはいまにも崩れそうなかんじだった。
「おぼえていることを、とりあえずオレに話してくれませんか。オレもなにか情報を差し上げることが、できるかもしれません」
すると彼女はオレの顔をじっと見た。値踏みしているようだった。意外と用心深いんですね、ま、お互いさまか。
「……趣味で、インターネットのあるサイトを見ていました。家で、家事をしながらです。そしたらいきなり意識がとんで、気がついたらここにいました」
ゆっくりと彼女は話しだした。どうやらオレは信用してもらえたらしい。
「そのサイトって、『小説家になろう』ですか」
「そ、そうよ。なんで、しっているんですか……」
オレはその問いには答えず、つづけた。
「なろうに、ヘンなサイトへのリンクが出ていませんでしたか。『鬼婆になろう』とかいうサイトです」
坂本さんは口元をおさえ、大きく目を見開いた。どうやら図星だったようだ。
「……ええ、そうよ。そのリンクをクリックした瞬間に意識がとんで」
えらく手っ取り早いなとオレは思った。
あきらかにオレの場合とちがった。オレはリンク先まで行けたし、そこでオフ会の告知を目にしたのだ。
いま思えば、オフ会は黒塚さんたちによる救済措置だったような気がする。
かりにネットのなかに鬼婆が棲んでいて、そいつが獲物を物色しているとすれば、クリック1発で捕獲できるのが理想的だ。
そう、まさにいま坂本さんが語ったように。
すると彼女は鬼婆の標的なのか。いや、オレもだよ。むしろターゲット歴ではオレのほうが先輩だよ。




