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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#2 鬼哭啾々
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その6

 薄ぼんやりとした街灯の下、オレと黒塚さんだけだった。

 けっこうな長話をしているにもかかわらず、通行人のひとりも見かけなかった。ここは異界か、あるいは彼女の張った結界か……。

 ぴたん。

 黒塚さんは手を伸ばすと、いきなりオレのでこに短冊のようなものを貼った。


「……なんですか、これ」

「おふだです。3枚しかない貴重なやつです」

「御守り、みたいな?」

「ですね。これからはずっと身に着けていてください」

「あの、たいへんありがたいんですが、これじゃ日常生活に支障をきたします。ってゆうか、まるでキョンシーじゃないですか」


 そうですね、ぷふっ、と黒塚さんは吹き出した。完全に遊ばれてる感があるぞ、おい。ついで彼女はぱちん、と指を鳴らした。

 するとオレの視野を狭めていたお札が一瞬で消えた。

「なにをしたんです?」

「ご自分で確認してください」

 言って彼女はオレに手鏡を渡した。四角いコンパクトサイズのものだったが、それはまるで手品のように湧いて出た。

 けっこうグイグイきますねえ……。


 その手鏡をつかって自分のデコを映すと、赤い梵字みたいなものがそこに刻まれていた。

「あ、ちょっと! ……なにしたんスか、いったい」

「その額の位置がもっとも効果的なんです、だから我慢してください。絆創膏かなにかで隠せば、いいと思います」

「『三つ目がとおる』じゃないですか……」

「我慢してください、生き残るために」


 されるがままだった。オレは自分のタバコに火を点けると、大きく煙を吐き出した。

「で、これはいったい、どんな御守りなんですか」

「現状維持、ですね。いままで蛍田さんを苦しめてきた時間軸の往ったり来たりが、今後はなくなります」

 おおっ、と思わず声が出た。それはありがたい。


「こんないいもの……なぜ、もっと早くくれなかったんですか」

 そうすればオガは、オレの友人はこの世から消えずに済んだかもしれないのだ。

 ……わかっている、黒塚さんたちを責めるのはおかどちがいであると。彼女たちにもいろいろと事情があったのだと思う。

 しかし、あとすこし早ければという気持ちがどうしても拭えない。


「ごめんなさい。敵の動向を探るために、わざと蛍田さんを泳がせていたことを謝ります」

 黒塚さんは頭を下げた。が、やはりこっちの心情としては、たまらない。

「けっこうリスキーなこと、しますねえ。一歩まちがえば、パソコンもろともオレ爆死ですよ?」

「それは大丈夫だったと思います」

「どうして、そう言いきれるんです」

「ダミーを用意していたから、です」


『友人の尾上也さんも、お祓い業者の坂本さんもこの世に存在しない。私がこさえて、あなたの脳に送り込んだイメージにすぎないわ』


 ダミー……それでオレは黒塚姉の言葉を思い出した。

「まさかそのダミーって、オレの友人のことですか……」

 黒塚さんは静かにうなずいた。

「姉が仕込んだダミーには、あなたの盾となるよう命じてありました。その盾を壊さないかぎり敵はあなたに近づけない。そういう結界システムです」

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