その5
えー……そんなオチ?
「そのお姉さんが、どうして見ずしらずのオレの部屋に?」
すると黒塚さんは、ひとつため息をついた。
「信じていただけないかもしれませんが、姉はこの世の者ではありません」
「いや信じますよ。逆にこの世の者だったほうが、こわいです」
ふふ、と彼女は笑う。
「姉には姉の仕事があります。あの世の警察官とでも言いますか。宇宙刑事みたいな」
「お姉さんたちが捕まえようとしているのは何ですか」
だいたい想像はつくけど、あえて聞いた。
「犯罪者です。コードネームは『ONI‐BBA』」
「ちょっと……SFみたいに言わないでくださいよ」
「とにかく犯罪者です。人を喰らう鬼婆ですから……でも、ヤツも進化しています。時代に合わせた生き方を選んでいる、と言いますか」
「それは、つまりネットのことですか……」
「そうです。ヤツはいま実体を持たず、電脳の世界に棲んでいます。そこで獲物を漁っているの」
オガのことが頭を過ぎった。オレの友人は、まさにその餌食になったのではないか。いや、オレだって他人事じゃない。
「ネットに棲んでいる鬼が、現実世界の人間を獲って喰らうなんてことが、あるんですか」
オレは聞いた。友人が食べられたりしたら、たいへんだ。もう遅いか。
失礼、とことわって黒塚さんはタバコに火を点けた。そういえば彼女、ヘビースモーカだって言ってたっけ。
「物理的に捕食される、という意味とは、ちがいます。現実世界から存在を消されること……それが『喰われる』です」
完全にオガのたどった結末だった。彼はあらゆるIDを奪われ、オレの目のまえからすがたを消した。
「そんなことして、なにが面白いんですか」
「さあ、それは鬼婆に聞いてみないとわかりません」
言って彼女は紫煙を吐き出した。
「オガは、オレの友人はまさに存在を消されてしまいました。これはいったい、どんな仕業なんですか」
「まあ言ってみれば、電気信号のなせる業です。人間の思考や認識も、つまるところは電気の流れ。コンピュータの内部で行なわれていることと、おなじです」
「コンピュータが人間にハッキングをかける、みたいな?」
「そうですね。現代版の呪い、かもしれません。鬼婆も今風なシステムに乗っかったほうがラクに仕事ができると、そう感じたのかも」
おかしな話ですよ。納得はいかないが、まあ、理論的には理解できなくもない。
「で、流れ的に黒塚さんはオレを助けにきてくれたと、そう思っていいんですか」
「ええ」と彼女はうなずいた。
「なに故に?」
「姉の仕事を手伝うように言われたものですから」
「そうですか。それじゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
なんだこの会話。
「あれっ、ちょっと待ってください……。なんか順番が、おかしくないですか。オレはさきに黒塚さんと出会って、そのあとお姉さんと……ええっ、いいの? これで」
「蛍田さん」
「はい」
「ちょっと静かにしてもらって、いいですか」
すいません。