第3話「閑職」
これはボクが、とある会社でアルバイトをしていたときの話だ。
大学生だったボクは週2でそのバイトを入れていた。夜勤の仕事で、金曜と土曜の夜に出勤した。
夜勤の拘束時間は長かったが、仕事内容は単純で時給もよかった。けっこうおいしいバイトだったが1年しか続かなかった。
というのも、ボクが入って間もなくして、その職場の閉鎖が決まったからだ。
1年後にセンターが閉鎖される。その決定が会社によって下されると、ボクらアルバイトには関係なかったけれど、社員さんたちの間ではけっこう人事的な異動があった。
このとき、すぐに他部署へ移れた人たちはラッキーだった。可哀そうだったのは、閉鎖までこのセンターと運命を共にするよう言われた社員さんたちだ。
センター閉鎖のあと、彼らに行き場があったかどうか、いまとなっては知るよしもない……。
とくに可哀そうだったのが町野さんという社員さんで、彼は当時50(歳)手前くらいだったと思う。
町野さんはオペレータひとすじの人だった。それがセンターの閉鎖が1年後と決まると、いきなりオペレーションを外されて内勤にまわされた。内勤者のする仕事はなかった。
大昔では、こういった境遇の人たちを「窓際族」と呼んだらしい。
冗談みたいな話だが、町野さんは本当に、朝9時から夕方の5時まで窓際にあるデスクに座ることになった。
ボクは金、土だけの出勤なので、町野さんがオペレータだったときは夜勤でご一緒することもあったのだが、彼が平日のみの内勤になると接点はまるでなくなった。
「町野さんね、なんだか、ずっとパソコンにむかって勉強してるみたいだよ」
夜勤中、ボクと一緒にシフトに入った石原さんが教えてくれた。彼は派遣社員でボクより出勤日数が多く、夜勤だけじゃなく日勤もあるので、町野さんのようすもある程度しっているらしい。
「どんな勉強なんです?」
ボクが聞くと石原さんは首をかしげた。
「よくわかんね。技術系の資格試験らしいけど、町野さんが持っているテキストとか見ても、オレにはさっぱりだわ」
「ふう」
町野進は事務所から人がいなくなったことを確認すると、おごそかに「仕事」の態勢に入った。デスクには、いちおう建前として資格試験のテキストを広げておく。
そして彼は最近はじめた小説投稿サイトにログインした。