その2
「ところで蛍ちゃん、既視感ってあると思う?」
オガが言い、オレは思わずビールを吹きそうになった。
「な、なんだよ、いきなり……」
どういうことだ、いったい。オフ会の話からどうして、そんな流れになる。
「いやね、きみのオフ会の話、まえにも聞いたような気がして」
どくん、と心臓が波打つ。うっわ……オレはとんでもない思い違いをしていたかもしれない。
2度目の今日を体験しているのはオレばかりだと思っていた。だが、どうもそうではなかったらしい。
「おまえも、なのかオガ」
「あれっ、きみも? ……ヒドいなあ、はやく言ってよ」
「お互い様だろ。ったく、ふた月ぶりとか前回とおなじ入り方しやがって」
言ってふたりで笑った。ああ、おかしい。ああ、おそろしい……。
独りじゃないって素敵なことだと思う。そうセカオワも歌っている。天地真理だったか。とにかく、異常事態に見舞われているのはオレ独りじゃないとしって、ちょっと安心した。
反面、オレきっかけで友人を巻き込んでしまったのではないかという気もして、そこは申し訳ないと思った。
いや逆パターンもあるぞ。オガきっかけでオレが巻き込まれた可能性も……。疑いだしたらキリがない。
いまは情報を共有することが先決だ。すり合わせるのだ。
「どこまで、おぼえてる?」
「きみのアパートへお祓い業者さんと一緒に行った」
「坂本サカエさんだな? 小太りのおばさんだ」
「失礼だね、きみ」
「そこ重要だよ。オレらがおなじものを見ているとは、かぎらない」
はあ、と友人はため息をつき、つづけた。
「坂本さんときみと3人で話していたら、いきなり部屋で爆発が起こった」
「爆発したのはオレのパソコンか?」
「ボクは現物を見ていないから、わからない。まあ話の流れ的にはパソコンだろうね。煙を噴いている残骸にきみが水をかけたりして散々だったね」
オレはうなずいた。これまでのところ、記憶にズレは生じていないようだ。
「問題はこのあとだな。坂本さんがテンパって部屋を出て行き、かわりに闖入者があらわれた。黒塚さんだ」
言ってオレは友人の顔を見た。オレの記憶では、黒塚さんが登場したときにはもうオガのすがたは消えていた。
おまえは、あのとき、どうなってしまったんだ?
「いやー、いいものを見せてもらったよ」
と友人はうれしそうに言った。あいかわらず目は死んでいるけど。
「いいもの? ……まあまあ、彼女は和風の美人さんではあるけど」
「えっ」
「なんだよ……こわいこと言うなよ?」
「ボクが見たのは、美人さんとは程遠かったなあ」
「じゃあ、なんだよ」
「あれは、うん、鬼婆だね。包丁持ってた」
こわいこわいこわいこわいこわい!!!!!
「……マジか。襤褸を着た、髪ボッサボサのやつか」
「うん、いちばんメジャーなやつだね」
オガは若干うれしそうだった。こんなことでよろこぶのは、オカルトや狐狸妖怪の類いが大好きなこの友人だけだ。




