その11
呪われたPC、て。こいつ完全に言ってることおかしい……て、ふつうだったら思うだろう。
だがそのときのオレは、なんかスゥッと飲み込めてしまった。そうなのだ、今回の一連の出来事は単なる嫌がらせの域を超えている。
店の大将にもつ煮を注文すると、オレはオガに向き直った。
「新しいね」
皮肉を込めてそう言ってやった。
「もしよかったら、お祓いしてくれる人を紹介するよ?」
オガはいつもどおりの表情でしれっと言った。
「……なに、おまえ、そんな紹介業みたいなこと、はじめたの?」
「ボクはお金なんて取らないよ」
「その、お祓い業者は金を取るってことか」
「興味ある?」
「……ある」
よくわからない流れだったが、けっきょくお祓い業者にきてもらうことにした。というのも、料金が5千円(交通費別)とリーズナブルだったからだ。
まあオガになにもなしというのはアレなんで、あの「ひじ」での勘定はオレが持った。これでヤツもいいかげんな紹介はできなくなる。
もともとオガはいいかげんなことをする男ではない。そこは安心してよいのだが、逆にどんなガチな業者がくるのか、楽しみなような怖いような……。
こんなことに金と時間を使うなんてバカバカしい、と自分でも思う。けど気休め程度にはなるだろう。
値段もリーズナブルだし。そこ重要。
オガもぜひ立ち会いたいというので、彼にもオレの部屋にきてもらうことになった。オレとしてもそのほうが安心だ。お祓い業者さんがトンデモなかただったら、手に負えないからだ。
オガとオレとでスケジュールをすり合わせたうえで業者さんに予約を入れた。こう言っちゃ失礼だが、その業者さん、意外と忙しい身であるらしい。
1週間後の平日の昼間に、オレの部屋でお祓いが行なわれることになった。それまで自宅のPCにはいっさい触れなかった。
スマホはふつうに使っていたが、なろうにはログインしなかった。これもお祓いが済むまでの辛抱である。
当日。オレが住むアパートの最寄り駅でオガと業者さんが待ち合わせし、そこからタクシーで彼らはここまでやってきた。
交通費はぜんぶオレ持ちだが、タクシーの距離はたいしたことない。
部屋のチャイムが鳴りオレはドアを開けた。オガに連れられて入ってきたのは、人のよさそうな、柔和なかんじの小太りのおばさんだった。
「はじめまして、坂本サカエと申します」
【祈祷研究家 坂本サカエ】
彼女が渡してくれた名刺にはそう書かれてあった。
また名刺だ。今月だけで何枚もらうんだよ。まあ坂本さんにいたってはビジネスだから、しゃーないけども。
それにしても、また研究家だ。オレは黒塚さんの鬼婆研究家を思い出した。祈祷師、じゃダメなんだろうか。そこまでの資格免許はないということか。
「蛍田です。今日はよろしくお願いします」
最初の挨拶をするまでに、オレは光速でそんなことを考えていた。




