その7
ものの15分もしないうちに、その男性はあらわれた。オフ会の3人目の参加者。若干遅刻してきた彼は、かなりのイケメンだった。
彼は店に着くとふたたび黒塚さんに電話をかけてきた。スマホを握った黒塚さんは、
「2階の喫煙席にいます。日本人形みたいなパッツンが私です」と自虐的なネタで彼を案内した。
「やあ、遅れてすみません。はじめまして、安達と申します」
会うなりイケメンの安達さんは、スーツのポケットからなにかを取り出した。この流れは100パー名刺だろう。
【月刊鬼婆フリークス 編集長 安達ガハラ】
まあ、だいたい覚悟はしてましたよ。こんな特殊なオフ会に参加しようなんて人たちは、どこかしらちょっとヘンなのだ。
オレもそのひとりだからエラそうなことは言えない。けど、オレは彼らのように鬼婆に入れ込んでいる人間じゃない。
月刊て。けっこうなハイ・ペースで出しているんですね、オレは読んだことないですけど。
「はじめまして、蛍田と申します」
そう言ってオレは席を立った。帰る気満々だった。
「いらっしゃって早々に申し訳ないんですが、オレは帰ります」
「あれま……そうなんですか」
安達さんはぽかん、としていた。そりゃそうだろう。だいぶ感じ悪いことをしてすまないと思ったが、これ以上コアな世界にオレはついて行けない。
「蛍田さんとお話しできて、たのしかったです」
黒塚さんは気分を害している様子もなく、さらりと言った。この女性は天然というか、終始ナチュラルな感じを崩さなかった。
「それじゃ、失礼します」
オレは振り返ることなくその場を後にした。
未練はなかった。ただ、どうしてこんなオフ会の告知を目にしてしまったんだろうという、やりきれない思いだけが胸に渦巻いていた。
夜勤明けで、さらにオフ会で妙な緊張感を味わったおかげで、アパートに帰り着いたころにはもうヘトヘトだった。
とりあえずシャワーだけ浴びてベッドにもぐり込んだ。外はアホみたいに晴れていたが、オレは深い深い眠りにおちて行った。
たっぷり寝てクリアな頭で考えてみると、昼間のできごとがおかしくておかしくて、独りの部屋で爆笑してしまった。
月刊鬼婆フリークスって、なんだよ!
鬼婆の流行りのヘアスタイルでも紹介するのか。ゆるふわとか大人っぽいローポニとか、ベリーショートとかあるのか? ぼさぼさ1択だろ。
いまから秋冬もののファッション特集でも組むつもりか。襤褸1択だろ。あるいは切れ味鋭い鬼婆専用の包丁特集でも……。
意味が、わからなかった。そんな雑誌を読むやつがいるのか? 買うやつがいるのか? ひそかに鬼婆ブームがきているのか……。
すくなくとも、その雑誌を編集している人は存在するようだ。昼間オレはその人物に会った。もちろん、もらった名刺が本物であればの話だが。
安達ガハラ。フザけた名前だ。ガハラってなんだよ……。関ヶ原、みたいな地名の「もじり」なのか。
すると安達ヶ原ってことか。聞いたことのない地名だった。




