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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#1 安達ヶ原
15/41

その4

 公衆電話ボックスのなかで、しかし黒塚さんは電話をかけている様子はなかった。それどころか、あっちゅう間に彼女はそこから出てきた。

 オレのところまで戻ってきて彼女は言った。

「さ、行きましょうか」

「……あの、電話ボックスでなにを」

「あー、」

 と黒塚さんは笑った。

「名刺をガラスの内側に貼ってきました。キャッツ○イの犯行予告みたいに」

 この女性ひと本当に27歳だろうか。だいぶネタが古い気がするが……。


「名刺をあんな場所に置いてきて大丈夫ですか」

「ええ、かまいません。……蛍田さんも要ります?」

「……あ、はい」

 なんかヘンな流れで名刺を受け取ることになった。名刺に書かれている内容は、さらに輪をかけてヘンだった。


【鬼婆研究家 黒塚キヌエ】


 名刺にはほかに、携帯電話のものと思われるメアドのみが記載されていた。

「すいません、オレは名刺持ってないんです」

「かまいません。さ、行きましょう」

 歩き出した彼女に、オレはついて行った。

「あのう、鬼婆研究家だけで、ほかの人にわかりますかね」

「なろうオフ会です、ってちゃんとメモしておきました」

「なるほど。失礼しました」

 言いながらオレは、その名刺(メモ)が発見される可能性は天文学的に低いだろうなと思った。だいたい、これ以上参加者がいるとは考えられない。



 凶祥寺へ出ると、黒塚さんは迷わずミス・ドーナツへ入って行った。

「ドーナツ、お好きなんですか」

「ここのミスドは喫煙席がわりと広いんです。ヘビースモーカなもので」

「あ、なるほど」

 彼女はオレがタバコを嫌がるかどうか聞かなかった。ちなみにオレもタバコを吸う。オレの服に染み付いたニオイで彼女には、わかったのかもしれない。

 ……とかなんとか言いながら、黒塚さんはがっつり3つもドーナツを注文していた。大好きじゃん甘いもの。


「甘いものは苦手ですか?」

 喫煙席に腰を落ち着けると、オレがホットコーヒーしか注文しなかったのを見て彼女が聞いた。

「あ、いや。じつは食事を済ませてきたもので」

「蛍田さん、もしかして夜勤明けですか」

「……よくわかりますね」

 すると黒塚さんはニッ、と笑った。

「夜勤明けはすごくお腹が空くんだって、知人から聞いたことがあります」

「ええ、お恥ずかしい」

 オレは照れ隠しにコーヒーを飲み続けた。


「夜勤明けでお疲れでしょうから、さっさと済ませてしまいましょう」

「え、なにをです?」

 いきなりの提案にオレは面食らった。

「オフ会ですよ。そんなにビックリしないでください」

「……オフ会って言われても。主催者もいないし、そもそもサイトの告知自体イタズラの可能性大じゃないですか」


 黒塚さんは黙ってオレを見つめていた。そのヘンな間が堪えられずにオレは口をひらいた。

「あ、どうぞどうぞ。お気になさらず食べてください」

「ありがとうございます」

 と彼女は小さく言った。が、目線はドーナツじゃなくオレに据えられたままだった。


「蛍田さんは、なぜオフ会に参加しようと思ったんですか?」



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