その3
少女。それが彼女の第一印象だった。
お人形のようなパッツンの黒髪に白いカーディガン、だが内側に着込んでいるのは黒のワンピースのようだ。なんか外国のお葬式みたいだ。
黒のストッキングを穿き、足元は……なんとヒールだった。背小っちゃ! ヒールの力を借りてもまだだいぶ小っちゃかった。
「27歳ですけど、なにか?」
彼女は多少不機嫌そうに言った。
世の中にはいろんな出会いがあり、いろんなあいさつの仕方があるだろう。けど、いきなり年齢から入るのはいかがなものか。
「さ……39歳です」
思わずオレもつられてしまった。すると、ぷっと彼女が吹き出した。
「年齢暴露大会ですか。……オフ会の待ち合わせですか、と聞いたんです」
「あ、」
オレは瞬時に真っ赤になる。そうか、彼女のルックスに目を奪われ第一声を聞き逃したのだ。
「ええ、まあ。貴女はその、主催者のかたですか?」
「いいえ」即答だった。
「そうですか……」
オレは言葉を継ぐことができなかった。どうするんだよ、この状況……。胃の頭自然文化園(動物園)の入り口で、おっさんと少女にしか見えない27歳女のツーショットですよ。
「申しおくれました、私、黒塚です」
彼女がいきなり名乗ったのでオレは慌てた。
「ほ、」
頭が真っ白になる。夜勤明けでボーっとしているせいか、いやちがう。
自分のペンネームを言うのがめっちゃ恥ずかしかった。いいおっさんがほっとケーキとか名乗るの、ありえないだろう。
「蛍田です」
思わず本名を言ってしまった。とりあえず、ほっとケーキはありえない。偽名を使うとかまで頭が回らんかった。是非もない。
「蛍田さんというのは、ペンネームですか」
「いや本名です。ペンネームを言うのが逆に恥ずかしくって。……黒塚さんはペンネームですか」
「ええ」
そう言うと彼女はオレをちらと見た。
「なにか?」
「……いいえ」
なんだそりゃ。めっちゃ気になる感じだった。まあしかし、徹頭徹尾ミステリアスな女性だなこの御仁は。
「それじゃ、お茶でも飲める場所へ移動しましょうか」
「え、ちょっ……」
黒塚さんの提案にオレは面食らった。まったく唐突なんだよ、この人の言動すべてが!
「主催者のかたを待たないんですか?」
「来ないでしょ、きっと」
またしても即答だった。どうしてそういい切れる。
「今日のオフ会を告知したサイトへのリンク、あれがすぐに消されていたでしょう? あの時点で私は、十中八九イタズラかなと思いました」
オレの考えを見透かしたかのように、彼女は理由を説明した。
「そして今日、万が一でも『鬼婆』の目印が出ていたらと思ったんですが、やはりダメでした」
「あのう……目印なしで、よくオレが見つけられましたね」
「だって立ち止まっている人があなたしか、いなかったから」
それもそうだ。ホントこの御仁には、かなわない。
「まあでも、遅れてくる方もいらっしゃるかもしれないから、いちおうメッセージだけは残しておきましょう」
そう言って彼女は近くの公衆電話ボックスへと入って行った。




