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第1話「円い塀」
「円い塀?」
推理作家の大川は、友人で刑事の佐久間から、とある不可能犯罪の話を聞いて小首を傾げた。
「そう、金満家の堀部氏の屋敷には、円い塀が張り巡らされていたそうだ」
「殺されたんだよね、その人」
「ああ、銃殺だ」と刑事。「だが不思議なんだ。敷地内に犯人が侵入した形跡はなく、堀部氏はどうやら、塀の外から狙撃されたらしい」
「それの、どこが不思議なの?」
大川は眉をひそめて聞いた。
「不思議じゃないか」刑事は語気を強くした。「塀越しに、どうやって狙撃するんだよ。塀の高さは2メートルから、あるって話だぜ?」
大川は肩をすくめて言った。
「おおかた塀に穴が開いていたとか、犯人が脚立を使ったとか、そんなオチじゃないの?」
「塀に穴が開いていたなんて話は聞いていない。それに、」
刑事が躍起になって反論する。
「脚立を使うなんて現実的じゃない。目立つし、持ち込むのもたいへんだ」
「きみは1度、現場を見てみるといいよ」
大川はタバコに火を点けると、ぷう、と煙を吐き出した。