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タイムマシン

作者: Sugar

「やったぞ助手君!ついにタイムマシン完成じゃ!」

「やりましたね博士!」


 研究所で出来たばかりのタイムマシンを前に博士と助手が手を取り合って喜びを噛み締めていた。

 長年の苦労がようやく実を結んだのだ。


「ではさっそく試運転じゃ」

「はい!行ってらっしゃい博士。本当は私もご一緒したい所ですが……このタイムマシンが一人乗りなのが残念でなりません」

「成功したら次は君を乗せてやる。とりあえず一千億年後の未来へ行ってみようと思う」

「い、一千億年!? ちょっと遠すぎませんか? もう少し近い時代にした方が良いんじゃあ……」

「残念じゃがそういうのは無理なんじゃ。例えば一万年後に行くにしてもジェット機で隣の家に行こうとするような物なのでな……」

「あ、案外使えませんね……」


 そして博士は助手に見守られながらタイムマシンに乗り込んだ。


「では行ってくる!」

「はい博士!お気を付けて!」

「うむ!では……発進!」


 次の瞬間、博士を乗せたタイムマシンは(まばゆ)い光を放って助手の目の前から消えた。

 その後、彼は二度とそこ(・・)に戻っては来なかった……。


 博士が世界から消えた後も時間は何事も無く流れていった。

 一年……十年……百年……千年……。

 その間、世界大戦や地球規模の大災害など、幾度もの危機が人類を襲った。

 だが人類は滅びなかった。

 危機が訪れる度に多くの命を失いながらも、力を合わせ知恵を絞って乗り越えて生き延び、文明の崩壊と再建とを繰り返しながら存続し続けた。


 しかし、種としての寿命には逆らえなかった……。


 一万年後、人々は石を積み上げただけの簡素な家に住み、自然を神と崇めながら原始的な農耕をして暮らしていた。

 それは人類がこの地球上に築いた最後の文明だった。


 十万年後、人類は自然の洞窟を住処とし、狂暴な肉食獣に怯えながら狩猟採集の暮らしを送っていた。

 数もめっきり減ってしまい、滅亡も時間の問題であった。


 それから間も無く、人類は絶滅した。


 五億年後、気候変動と大陸移動によって、かつて人類が地上に繁栄していた頃の痕跡は跡形も無く消え去っていた。

 だが生物自体はまだまだ健在で、五億年前とは全く異なる生態系が大いに繁栄していた。

 中には知性を獲得して原始的な文明を持つに至る種族すらあった。


 三十億年後、大陽が膨張して地球上の生命は微生物も含めて全て死に絶えた。

 地球は灼熱の死の星と化した。


 五十億年後、地球は肥大化した大陽に飲み込まれて消滅した。


 それから更に気の遠くなるような膨大な時間の後、ついに宇宙は終焉の時を迎えた。

 世界はビッグバンが起こる前の状態……すなわち“無”に戻ったのであった。


 それから“無”の状態が長く続いた。

 もっとも時間の流れも無いのだが……。


 ある時、何かの弾みで再びビッグバンが起きた。

 新たな宇宙の誕生だった。

 生まれたばかりの宇宙は物凄い勢いで膨張した。

 やがて宇宙空間を漂っていた物質が互いに結び付き、無数の銀河が生まれた。

 銀河は更に細かな星々へと細分化していった……。


 宇宙が出来てから百億年ほど経った頃、ある銀河の端の方にある九つの惑星を持つ太陽系……その三番目の惑星に生命が生まれた。

 生命と言っても最初は気泡にくるまれたアミノ酸に過ぎなかった。


 だがその原始生命は長い(宇宙的タイムスケールから見ればごく短い)時間をかけて複雑化し、多種多様な生物へと別れていった。

 最初は水中、そして陸地、さらには空まで……生物はありとあらゆる場所へと進出していった。

 幾度も変動を繰り返す惑星の上で、様々な生物達の興亡が繰り広げられた。

 巨大な昆虫類や爬虫類が栄えては滅びていった。


 やがて哺乳類の中から一風変わった奇妙な種族が現れた。

 その種族は強靭な肉体も鋭い爪も牙も持たなかったが、極めて高い知性を有していた。

 その種族は火を恐れる事無く、自然界に手を加え、文明を築いた。

 時には自然と、時には同種同士で争いながら知識を増し、より強く豊かになっていった……。


 “ヒト”と呼ばれるその種族が現れてから約六百万年後……今やヒトは母なる惑星上の各地に、その高度な技術を駆使した大規模なコロニー(都市)を築いていた。

 その中の一つの建造物の中で二匹のヒトが何やら興奮した様子で話し合っていた。


「やったぞ助手君!ついにタイムマシン完成じゃ!」

「やりましたね博士!」


 二匹の前には乗り物のような巨大な機械がある。


「ではさっそく試運転じゃ」

「はい!行ってらっしゃい博士。本当は私もご一緒したい所ですが……このタイムマシンが一人乗りなのが残念でなりません」

「成功したら次は君を乗せてやる。とりあえず一千億年前の過去(・・)へ行ってみようと思う」

「い、一千億年!? ちょっと遠すぎませんか? もう少し近い時代にした方が良いんじゃあ……」

「残念じゃがそういうのは無理なんじゃ。例えば一万年前に行くにしてもジェット機で隣の家に行こうとするような物なのでな……」

「あ、案外使えませんね……」


 そして“博士”と呼ばれたヒトはその“タイムマシン”なる機械に乗り込んだ。


「では行ってくる!」

「はい博士!お気を付けて!」

「うむ!では……発進!」


 次の瞬間“博士”を乗せた“タイムマシン”は(まばゆ)い光を放って“助手”の目の前から消えた……


 ……と思われた直後、辺りは再び眩い光に満たされ、消えたはずのタイムマシンがそこ(・・)に現れた。


「?……え?……え!?」


 何が起きたのか解らない“助手”は目を(またた)かせた。

 するとタイムマシンの中から何者かが恐る恐る顔を出した……。


「あれぇ……!? ここは……研究所!? そして助手君!? なぜ!? ワシは確かに一千億年後の未来へ来たはずなのに……!? 失敗じゃったというのか!?」


 それは遥か時空の彼方の大昔、タイムマシンで一千億年後の未来へ旅立ったはずの博士だった。

 “助手”は言った。


「わ、私にも訳が解りません。確か一瞬だけ消えたように見えたような気が……」

「はぁ……理論上は間違っておらんかったはずなんじゃが……やはり時間を跳躍するという事は不可能なんじゃろうか……?」

「気を落とさないでください博士。とりあえず休憩にしましょう。飲み物はいつも通り砂糖たっぷりのカフェオレでよろしいですか?」

「うむ、さすが君はワシの好みを良く解っておる……」

「あはは……まあ、長い付き合いですからね……」

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