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京鼠刹那時蜜茶  作者:
2/3

由塚 早苗月

「あいうえお かきくけこ さしすせそ たちつてと なにぬねの はひふへほ まみむめも やゆよ らりるれろ わをん」

「あ」って、なんで最初なんだろう。それだけ優秀な、素敵な、頼れる暖かい存在なの?そんな存在の者だけが、この世の先頭に立てるの?

由塚早苗月(よしづか さなえ)、私。鹿児島県出身であり、親の転勤で京都に来た。今から10年ほど前のことだから、鹿児島の方言なんか忘れている。でも、関西弁は使おうとは思わない。思えない。自分のプライドが、それを許さないのであろう。ロングに憧れていた茶髪(地毛)はさっばりとセミロングになってしまっているし、おしとやかな性格は、男子に突っかかることで一変した。

自分は、顔や性格などに恵まれているのかいないのかの境界線であり、決して「あ」のような存在になれることとは、夢の夢だ。いや、その夢。

「あ」という存在に近いというと、私の友人、峯下七海であろう。峯下七海は、ツインテールと太眉が可愛くて、勉強はできるが運動が苦手なマイペースさも男子に人気であり、小柄な身長も守ってあげたくなる。彼氏はいないらしい。

そんな七海と距離を近づけられたこととは、私にとって幸運であった。七海たち以外の4組グループは"下"のグループといっていい。見ればわかるように、私は"上"グループに属することができた。

正直、七海に嫉妬しているところはある。七海は可愛いし、勝ち組なのはわかっている。私は七海と一緒にいて、哀れだと思う。いや、哀れだ。そんな私は七海に勝てるはずもない。悔しい、当たり前。七海みたいな性格になろうが、歩き方を真似ようが、字の形も癖も文房具も制服の着方も同じにしても、何か七海には慣れない。七海は、他人(ほか)とは違うオーラみたいなものを持っている。真似できない、素敵な。

本当の私は、この世に存在するのか。何もかも嘘の仮面で、嘘を吐き疲れて。哀れに透けた、嘘の自分。素なんて出せない、いや、出したら負ける。この世に。だれか、本当の私を見つけて___。

「……早苗月?大丈夫?」

「七海……」

今、あんまり会いたくなかった人だ。

「よかったぁ。ずっっとぼーっとしてたから心配したんだよぉ?」

もぉーと、ツンと腹をつつかれる。

「心配しなくて、良かったのに」

「そんなこと、ありえないよ」

七海の顔が突然真剣になる。

「早苗月は私の親友だよ。ほっとくわけないじゃん。早苗月可愛いんだし、自分大切にしなよ?」

「……うん」

あたし保健委員だしまたねーと、七海が去った。走り方も可愛い。悔しい。

嘘の仮面は外れなかったか。いい言葉を返せていたか、自問自答。

答えは出ない。出るわけがない。

握った拳には、黒い雲から差し込む日の光に照らされていた。

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