幸路 彩
京都府京田辺市は、主の今住んでいる地域です___。
「歩きスマホ、あかんよ?」
うち、幸路彩は、おもわずスマートフォンの電源を切った。階段を降ってるときに声かけないでよ、転けそうになるやん。顔も声も存在も知らない人に、注意されることは嫌い。他人なんだから見て見ぬ振りをしてーさ。
うちは顔を上げる。うちに気づいたのか、その人はニコリと微笑んだ。
「違法なんやって」
「そ、そうなんですか……」
その人の太眉がかなり印象的だった。この人は、顔も声も存在も知らない人ではないことに、今気づいた。
そうやん、この人4組の峯下七海や。峯下七海は、太い眉毛が特徴的な、人当たりのいい女子である。
峯下、峯下さんは、紙コップに入った唐揚げをパクリと食べた。
「じゃあね」
お得意なツインテールの先が、うちのスマートフォンに当たりそうになる。うちはただ、峯下さんの小さくなる後ろ姿を見送るしかなく、言葉なんか喉元にも出てこなかった。
うちも、唐揚げ買お。
うちは階段を上がり、屋台の唐揚げ店へと足を運んだ。
と______。
「お、彩や。唐揚げ買うん〜?」
おっとりとした、男子受けがいい声。今日はいろんな人と会う。ただの駅なのに。
「舞……」
舞こと相沢舞は、偶然やなと言わんばかりにニコリと笑った。
「うちも買うとこやった。彩って塩唐揚げでよかったやんな?」
「うん、お願い」
舞は、ポン酢かけ唐揚げと、塩唐揚げを頼む。はいと塩唐揚げを渡された。そしてうちは350円を舞に渡す。
「え〜。わざわざ返さなくてよかったんに〜」
「あ、じゃあ渡さへんわ」
「………やっぱり払ろうて」
ぽんと舞の手に350円を置く。
そして数分後。2人は駅の外にある、ベンチに腰を下ろした。
「てかな、さっきななちゃん(峯下さん)と何話してたん?」
「見てたんやな」
一つ、唐揚げを口に入れる。
「まあな。うちの目は『田辺中の千里眼』とか呼ばれとるしな」
うちは、さっきの話を舞に伝えた。
「峯下七海って4組、やんな?あんた、わからんかったん?学校でも有名やで」
「……そうなんや」
なんでうちは気づかんかったんやろう。周りに目を向けてへんからか…。もっと、周りを見よ。
そして唐揚げを一つ口に入れる。
「でも、峯下七海さ。男女問わずいい気取った笑顔しいへん(しない)し、ちょっとうち憧れとったんや」
舞の顔が、少し険しくなる。そんなに、輝いた存在なんや。
「でな、その七海の友達の、由塚早苗月もめっちゃ美形なんや」
「どんな感じ?」
「ショートカットで、ツンデレって感じのリーダーポジな女子や」
うちは、自分の髪を指でくるくると巻く。なんか哀れだ。
太陽は、こんなあたしも照らしてくれる。暖かい、両親みたいな存在。あるときは隠れて、あるときは涼しい風をふきあらす。不安定であり、暖かい存在なのだ。
「___彩?」
舞の声で我に返る。
「ごめんごめん、ぼーっとしとった」
「はぁ……。最近、彩そういうとこ多いで?大丈夫?」
「……うん、大丈夫や」
ニコリと笑ったつもりだ。でも、無理な笑になっていたのかもしれない。
すると、舞のスマートフォンがゔと唸る。
「ごめん彩。母さんから連絡来とうたらしくてな、早よ帰らなあかんわ」
「うん、ええよええよ。ちょうどうちも帰ろうかなって思うてたわ。じゃ、学校でな」
「うん。バイバイー」
手を振る。舞の姿が、だんだんと小さくなった。
うちも帰ろう。
彩は立ち上がる。太陽は、こんなうちも照らしてくれる。