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08『文化祭』

 当たり前だが、俺は探偵ではない。

 もっと言えば、推理という方面において優れた才能を持っているわけではない。ただの男子高校生だ。

 そんな俺が一番最初にした質問は、この状況は教室の中に入らずに見たものなのか、ということだった。要らない質問だったかもしれない。そんなことを訊いても、何がわかるわけでも無さそうだし。

「案外鋭いんだね」

 しかし俺の意に反して、鶴ヶ谷は目をスッと細めて言った。鶴ヶ谷的にはいい線をついていたらしい。残念ながら俺にはそれを繋げる力量が無いのだが。

「そうだよ。この状況は廊下から……前の扉から見ただけの状況だよ。だから勿論見えない部分もある」

 扉を指さして鶴ヶ谷は言う。俺はその方向をぼんやりと眺めながら、廊下側の壁は見えないんだろうな。と考えていた。

 カチカチと、秒針の音が響く。

 恐らく鶴ヶ谷は俺が集中して考えられるように気を使って黙っていてくれているのだろうけれど、それは逆に気まずさと退屈さを生んでいた。集中力なんてものははなからないし、思考は動き出そうとしない。俺は推理を一旦諦めて鶴ヶ谷と雑談することを選んだ。

「うちのクラスは文化祭で何をやるかなんて……そんなの訊いても推理には関係ないと思うよ?」

 鶴ヶ谷は首を傾げさせた。それから「ホームルームに参加してればわかるはずなんだけど?」と言って笑う。確かにそうだ。文化祭が近いのだから、ホームルームの話題は文化祭のことばかりだ。教室にいれば嫌でも耳に入ってくる。しかし、俺にはその話し合いの記憶がなかった。授業は休まず参加し、居眠りもしていないはずだったのだが……。

 そのことを鶴ヶ谷に伝えると、鶴ヶ谷も不思議そうな顔で「いつも起きてるのに?」と言った。

「つまんなそうな顔して頬杖ついて前向いてるのに記憶にないの? 本当に?」

 しまいには眉間にシワを寄せて鶴ヶ谷は訊いてくる。俺は黙って頷いた。こんなところで嘘をついたりなんかしない。

「変なの」鶴ヶ谷は顔を緩めさせて言った。「もしかして、目を開けたまま寝てるの?」

 そんなこと出来るか、と突っ込んだがあり得ない話ではなかった。それでも毎回ホームルーム中に寝ているとは思えないが。

「うちのクラスはお化け屋敷と喫茶店を組み合わせたものをやるんだよ」

 ちょっと間を置いてから鶴ヶ谷は教えてくれた。文化祭の日程がハロウィンに近いことからそうなったらしい。

「飲食スペースに辿り着くまでがお化け屋敷で、辿り着いたら普通の喫茶店なんだって。みんなお化けの格好とかしてるんだけどね。それで、食べ終わって出るときに最後客を驚かせるらしいよ」

 ちょっと楽しそうだよね。と言って鶴ヶ谷は笑った。確かに鶴ヶ谷好みのようだ。教室に飲食スペースとお化け屋敷スペースをもうけられるのかという点について疑問が残るが、悪い案ではない。

「話し合いの最初の方は、定期的にパフォーマンスをするとか、お化け屋敷スペースで突然お化けが踊り出すとかそういう変な案もあって面白かったのに。覚えてないなんて勿体ない」

 本当だな。そんな馬鹿みたいな提案をして盛り上がるクラスメート達の姿を想像して俺はため息をついた。

 話が途切れると、俺の思考は突然鶴ヶ谷考案の推理ゲームの方に戻された。そして一つの疑問が俺の頭の中でむくむくと大きくなり出す。なんだ、急にどうした。勝手に動き出す思考に俺がついていけない。

 一歩進んでしゃがみ、床をまじまじと見つめる。それを見て、俺の脳は確信を得ていた。そして思った言葉が口から飛び出す。

 俺の言葉を聴いて、鶴ヶ谷の口が大きく歪んだ。どうやらビンゴのようだ。

「そうだよ、そこに胴体は無い。厳密には、そこの扉から見えないってことなんだけど、無いってことにしていいよ」

 胴体のないバラバラ死体。生首があるものの、他にあるのが手足だけで内蔵がはみ出た胴体が無いんだったら絵面的には優しいだろうな。俺はそんな感想を抱いた。

「そこは気にするところじゃないよ」

 鶴ヶ谷に突っ込まれてしまった。

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