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004 八坂神奈子

かつて、この日本には、八百万の神々への信仰があった。

大いなる自然への畏敬の念が、精霊や妖精、神を産む。

恐れ、そして感謝。自然信仰があらゆる信仰心の原点であった。


だが、時代は流れた。

異教との信仰心の競合。仏教や耶蘇教が広まるにつれ、人々は自然をそのまま感じるのではなく、他の何かを崇めるようになった。

その過程で、人を越えた存在同士の見えない戦もあったが、結局はそれも人の信仰次第だった。

やがて自然信仰は時代と共に廃れていく。


さらに時は流れ、団結し、知恵をつけ、社会を作った人々は、自らの力をもって自然に立ち向かうようになる。

それは決して望ましくないことではない。人間の営みもまた、自然の一部に他ならないのだから。

だが、人間が神への信仰心を失ったことで、八百万の神々は大きく衰退する。

かつては大いなる力を振るい、畏敬の念と共に崇められた神々は、この科学万能の時代である現代においては最早消え去るのも時間の問題だった。


八坂神奈子、洩矢諏訪子。

我等二柱の神は、かつて一国の頂点にある神々であった。

経緯はともあれ、二柱は互いに協力しながら国を守り、人々を見守ってきた。

しかし時代の流れと共にその力は薄れ、今では顕現することもできず、微かな奇跡を起こすが精一杯。

国を守ることなどとうに諦めた。

神の子孫の末裔でありながら、力を失って久しい直系の巫女の家系。

そんな遠い遠い身内を陰で見守り、ささやかな祝福を与え、そしていつしか消えていくのだろう。

もうそれは仕方がないことなのだ、と私達は諦念していたのだった。


当代の風祝、東風谷早苗。

神を祀る巫女としての能力を数代ぶりにほんの少し取り戻した、緑の髪の女の子。

誰にも見えない私達を、見つけてくれた女の子。

それが産まれ、こちらに手を伸ばしてくれた時、どれほど喜ばしかったことだろう。

敬われ、慕われる。信仰心が心地良いものだと感じたのは、いったい何時ほどぶりだったか。

こちらからは言葉は届けられないけれど、早苗は私達を見つけてはにっこり笑い、楽しかった事、嬉しかった事、ちょっぴり悲しかった事、何でも独り言のように報告してくれる。

私は声をかけてあげることができない。諏訪子もそうだ。

だからせめて、一緒に笑い、一緒に喜び、一緒に悲しんだ。

いつだって見守っているよ、と目で訴えかける。それが精一杯だった。

早苗の笑顔が、我々の何よりの喜びだった。


しかし、ある時期から、早苗の目から、輝きが薄れていった。

人は時として残酷になる。

人と違った容姿、人と違った仕草、そんな些細な原因で、時として人は人を容易に傷つけるのだ。


早苗は、誹謗や中傷に負けない、強い子だった。

辛いことがあっても、嫌な顔を見せずにじっと耐える子だった。

けれど、むしろ、それがいけなかったのかも知れない。


私達を見る度に、笑いかけてくれる。

けれど、その笑顔が、私達を心配させないための作り笑いだということは、私達にはよくわかっていた。


一人、公園で、ブランコに揺られながら、


「…少し、辛いです…。」


そう寂しそうな笑顔で、ほんの少し愚痴を漏らした早苗。

次の瞬間に、


「でも、平気です。お二人がいつも、見守っていてくれるから。私は、大丈夫です。」


私達を心配させまいと気遣い、空元気で笑顔を見せる早苗。

見守ることしか出来ない、そんな我が身をどれだけ呪ったことだろう。


ほんの少しのからかいから始まったそれは、どこまでも拡大していく。

早苗は、もう、限界だった。

泣き叫ぶ早苗を、我々は残されたほとんど最後の神力を使い、奇跡を起こし、救った。

しかし、それは、結局のところ、究極の破滅の引き金にしかならなかったのだ。



全てが終わり、全てを失い、心を閉ざし抜け殻のようになった早苗を連れ。

我々は逃げた。

噂にだけ聞いていた、忘れ去られた者の行きつく所、「幻想郷」へ。


結界は我々を一切拒まなかった。



今、我々は山の神として幻想郷に居る。

早苗には、新たに建設した神社の、我等二柱を祀る風祝として働いてもらっている。

幻想郷の古い空気を得て古の血を呼び醒ました早苗は、我等二柱の力を受けた現人神となった。

幻想郷の妖怪に崇められ、信仰心を取り戻し顕現した我々は、早苗とも触れ合えるし喋ることもできるようになった。

見た目が幼い諏訪子は、友達の居ない早苗の友達代わりになってあげている。

私は母親代わり、という所だろうか。

「外の世界」から逃げて来た時は、こんなにも穏やかな日々を過ごせるなどとは思ってもみなかった。


早苗が目を覚ました時、彼女の記憶は「壊れていた」。

我々は、早苗の「外の世界」の辛い記憶を、あえて思い出させない事にした。

人には、それは余りにも重すぎるから。

元気だった頃の記憶しか持たない早苗は、今また私達二柱に無邪気な笑顔を見せてくれる。

それが私の心を締め付ける。


私達は、早苗に幸せになってもらいたい。



今、早苗と諏訪子は、ちゃぶ台の前に座り、虚空に向けて手を動かしている。

目は部屋の隅に向き、その眼差しは真剣そのものだ。

そこにはテレビがある。


「あーっ!諏訪子様、お強いです…」

「ケーロケロケロ!」


あれは、ゲームをしているのだ。

早苗が「外の世界」で好きだった、テレビゲーム。

だが、テレビからは音も光も出ていない。何も映っていない…。

早苗には、見えているのだろう。楽しかった頃の記憶が。

…神としての力を取り戻しても、私を慕う信者の一人を救うことも出来ない。

無力感に苛まれる日々は、幻想郷に来てからも続いているのだ。


「ねーねー神奈子もやりなよー」

「そうですよ神奈子様!たまにはお相手してください!」

「いや私はゲームはちょっと…」


諏訪子は、見えない傷を心に負ったままの早苗に合わせ、涙ぐましい努力を続けている。

不器用な私にはそれはとてもできない。


「それよりもう夕方なんだが」

「えっ!あ、すみません、お夕飯の支度をしなきゃ!」

「片付けは諏訪子にやらせるから、とっとと行っといで。」

「今日の所はここらへんでカンベンしてあげよう!ケーロケロケロ!」


早苗が出ていくと、諏訪子と私が互いに顔を見合わせた。

そして互いに溜息。


「早苗のゲームの相手、頼む…。私では、とても…。」

「そんな申し訳なさそうな顔しないで。私が好きでやってる事だから、さ。」


こんな生活が、いつまで続けられるのだろう。

早苗にちゃんとした友達が出来てくれれば、心の傷も徐々に癒えて行くのだろうか…




【用語解説】


八坂神奈子 (やさか・かなこ)

乾を創造する程度の能力

古い神。軍神。かつて諏訪子の治めていた国を武力で制圧した。

外見は身長の高い女性。注連縄を背負う独特な服装が特徴。

力は強いが性格的に不器用。

信仰心の薄れた「外の世界」から幻想郷に移り住んできた、比較的新しい住人。


洩矢諏訪子 (もりや・すわこ)

坤を創造する程度の能力

古い神。かつて土着神の頂点と呼ばれた。

外見は小さな女の子だが、性格は割と黒い。ケロケロと笑う。

信仰心の薄れた「外の世界」から幻想郷に移り住んできた、比較的新しい住人。


東風谷早苗 (こちや・さなえ)

奇跡を起こす程度の能力

人間にして神の力を得た現人神あらひとがみ

諏訪子の遠い子孫。現在は守屋神社の風祝を務める。

現代産まれで、ゲームなどが大好き。

わりと常識をかなぐり捨てる。


守屋神社 (もりやじんじゃ)

山の上に突如として出現した神社。

八坂神奈子・洩矢諏訪子の二柱を祀る神社だったが、その存在は「外の世界」では忘れられて久しい。

二柱が幻想入りする際に、湖ごと幻想郷にひきずり込まれた。

山の妖怪の信仰心を一手に集める。

この物語は動画「東方陰陽鉄」の二次創作であると共に、動画「古明地こいしのドキドキ大冒険」(R-18G相当の作品なので閲覧注意)の二次創作であり、かつ、ゲーム「シュタインズゲート」のMAD作品でもあります。

元ネタをあまり知らない人でも楽しめるように書くつもりですが、元ネタを理解しているとより楽しめるかと思います。

既に動画「異説・東方陰陽鉄」が公開中なので、興味のある方はそちらも併せてご覧ください。

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