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ほら穴の彼  作者: 透水
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第三話

「和風にイタリアンにゴマ、ありますけど、どれがいいですか?」

「そんなものどれでもいい」

「そういう性格はあまり好かれませんよ。ちゃんと選んでください」

「……ゴマ」

 さっさとしろと言わんばかりの勢いに負けず、れいは言った。男はそれに呆れたように答える。

「サンドイッチに野菜あることはありますけど、少ないですからね。はい、どうぞ。割り箸割ってありますよ」

 れいは、今回男のためにサラダを買ってきたのだ。初めて食べ物を渡しに、このほら穴に来るようになってから、もう二週間以上が経った。もちろん毎日通っているわけではないが、休日は必ず寄っている。

「ここに来るまで、見つかったりしないのか?」

「ありませんよ。車が増えるのはもう少し経ってからだし、人もあんまりいませんから」

 答えてから、れいはふと気付いて男に質問した。

「あの、心配してるんですか? あたしのこと」

「お前が出入りしてるのが見つかったら、噂が本当だってばれて、ここを追われるかもしれないからな」

 間髪入れず、跳ねつけるように男は言った。

「そ、うですね……。じゃあ、これからは今以上に気をつけて来ます!」

「…………」

 黙りこんだ男から、れいは唖然としているような雰囲気を受けた。

「あの、どうしたんですか?」

「お前な、普通はもうやめるとか言うだろう。なんで逆に来たがるんだ?」

「だって、心配だからって言ったじゃないですか。あ、あれ全部食べました? なくなってたら、預かってた分少しお返ししますけど」

「……変わったやつだ」

 男は呟き、サラダを食べ始めた。



「れいおねーちゃん!」

 ほら穴を出て数歩歩いたとき、突然横から声がした。あまりに唐突だったので、れいは怒鳴られでもしたかのように石のように固まった。

「どうしたの?」

「あ、諒斗君か……。びっくりしたあ」

「あれ、れいお姉ちゃんそれ何?」

 近所の顔見知りである小学二年生の彼は、れいが提げているからっぽのコンビニ袋を見つけた。

「何にも入ってないけど、どうしたの?」

「え? ああ、これね……」

 まさか本当のことを言うわけにはいかない。必死で頭をフル回転させ、怪しまれるほどの間を作らず、れいは答えた。

「ほら穴の近くにね、ゴミがいっぱい捨てられてるの。もちろんお姉ちゃんだって、立入禁止だから穴の中には入ってないよ。でも人が近づかないと思って、あの辺はゴミだらけなの」

 実際、ほら穴付近にはゴミが散乱している。れい自身も、時々拾って帰るのだ。

「そうなんだー。れいお姉ちゃんえらいね!」

「そう? 諒斗君に言ってもらえると嬉しいなあ。さ、あたしも帰るから、一緒に帰ろっか」

「うん!」

 草むらを抜け歩道に出ると、知らない男性が信号待ちをしていた。季節外れのキャンプ客だろうか、とれいは思ったが、男性は二人を見つけると、気さくにあいさつをしてきた。

「こんにちは。ご兄弟ですか?」

「いえ、近所のお友達なんです。……あの、キャンプにいらしてるんですか?」

「ここの町の者です。と言っても、つい最近ですが」

 れいの記憶では、最近家が建ったということは聞いていない。

「ああ、私、あそこの家の者なんです」

 そう言って男性が指したのは、岩壁の奥にそびえる豪邸だった。

「え、あそこの……! じゃあ、例の会社の社長だか誰だかっていうのは、あなたが?」

「そんなとこです。社長じゃなくて、社長の息子ですけど」

「で、でも次期社長じゃないですか。そうですか、あそこの……」

「仕事の手伝いやらされて、あまり外に出られないんですよ。だから馴染めなくて」

 れいは納得した。てっきり、人付き合いが嫌いな人間なのだと思っていたからだ。

「豪邸の息子は、ここに溶け込めるよう努力してるって、町の人に言っておいてもらえませんか。みんなよそ者を見る目で見てくるので」

「わかりました、ちゃんと言っておきます」

 困ったようにれいに頼んだ男性とは、歩道を渡った後に別れた。

 帰り道でも、れいの頭の中はいつほら穴に行こうかという考えでいっぱいだった。



 休日の朝、れいが着替えて一階へ降りようとしたとき、なにやら一階が騒がしいのに気付いた。大声で話しているわけではないが、せわしなく歩き回っている気配がしたのだ。

 降りてみると、父も母もいつになく真面目な顔で、出かける用意をしている。

「お父さんお母さん、どうしたの? どこか出かける予定なんかあったっけ」

 まだ眠い目をこすりながられいが言うと、二人とも驚いたようにれいを見た。

「れい、お前は家にいるんだ。お父さんたちが帰ってくるまで、出かけたりするんじゃないぞ」

「な、何? どうしちゃったの? 何かあったの?」

 すくみ上がるような剣幕でないにしろ、れいを心配させるには十分な焦りようだった。

 二人は何も言わず、さっさと家を出ようとしている。

「ねえ! なんで教えてくれないの?」

 たまりかねたように、父が振り向く。

「れい、あれほど言ったのに、お前は……」

 一瞬、理解できなかった。だがれいはすぐに思い当たった。

「お父さん……」

「隣の諒斗君が教えてくれたんだ。ほら穴の前の草むらで遊んでいたら、誰かが来るので隠れた。そしたらそれはれいお姉ちゃんだったと。ほら穴の一つに入っていって、しばらくしたら出て帰ったと。それに、コンビニの袋を提げて……」

 見られていた、とれいは愕然とした。多分、あの日会った後、諒斗君は不思議がってあの付近で遊ぶようになったんだろう。それで、見られてしまった。

「何しに行くの、お父さんたち!」

「警察が来てはうるさいからな、みんなで今度こそ出て行ってもらうよう言いに行くんだ」

「あたしも行く!」

「だめだ、お前はいるんだ」

 れいを家に残し、二人は足早に家を出て行った。父は、ほら穴の浮浪者に恐喝でもされて、食べ物を買わされていたと思っているのだろう。

「違う……。何もやってない」

 れいは二階に駆け上がると、机から家の鍵を取り出し、鍵をかけるとほら穴へと走った。

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