二十九話 本物のチートは。
フィン(というかフィンの中に入った転生者)が連行されると、衛兵が彼の罪を私に教えてくれた。
衛兵の持って来た黒い布。
それには見覚えがあった。
「これって、透き身のマントですか?」
「はい。犯人であるフィンはこれを被って各地のダンジョンに無断潜入して、ダンジョンコアから魔力を吸い取っていたそうです」
「……ひどい。一歩間違えたら町一つ消えるっていうのに」
原作を読んでいたのなら、絶対にしないこと。
それを彼はやったのだ。
おそらく、大事なのはあくまで自分、その次に自分のハーレム要因だったんだろう。
それ以外の人間は全員モブで、死んだって心は痛まなかったんだろうな。
……むしろあの性格なら「主人公の為に死んだんだから喜ぶべきだ」なんて思いそう。
「そうだ、あの二人の女性はどうなりました?」
「今、医療魔術師が付き添っています。強い洗脳魔術をかけられていたそうで、完治までかなりかかると」
やっぱり。
原作で出てきた好色侯爵が使ってたのと同じだ。
彼は原作知識で素材を集め……いいや、盗んで、禁術も使って、チートモードだって浮かれていたんだな。
詳しい情報はまた知らせると衛兵は去り、私の警護として立っていたルルくんが扉から戻ってくる。
彼は赤い瞳を細め、私の手を取った。
表情は先程よりも柔らかで心の底から安堵しているようだ。
「よかった……結界を張っていて。ちゃんとドロシー様をお守り出来てなによりです」
「結界? い、いつ?」
フィンに拷問されそうになった時私を守ってくれたあの光。
それはルルくんのおかげだったのか。
でも、個人向けの結界って、そんな高度な魔術いつ使ったの?
歴戦の魔術師でも仰々しい儀式を一時間くらいやらないと出来ないのに。
そんな私の問いにルルくんはけろっとした様子で答える。
「毎朝挨拶する時にかけていますよ? 『今日もドロシー様が健やかに過ごせますように』とお願いをかけて」
「それだけ?」
「はい。それだけです」
……いや、もう言葉が出ないや。
これじゃあルルくんこそがチートじゃんか。
それでもニコニコと私を見つめる彼を見ていると、心が温まっていく。
でも、それと同時に暗い気持ちが湧いてくる。
あの部屋の前に待機していたってことは、ルルくんの耳にもフィンの言葉が入っていたはずだ。
ドロデス。
私の本来の姿。
醜く性悪なデブの男。
ルルくんはドロデスの事を知ってもなお、変わらずに私に接してくれている。
それが今の私には、後ろめたかった。
だから今ここで、全てを話したい。
私は彼の手を取って向かい合う。
「ねえ、ルルくん。話したいことがあるの」




