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神の箱庭に棲む少女  作者:
第2話 トワと機械技師ミヤコ
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第2節 伝説の冒険家

 近くの足場に着陸すると、緋色の鳥に乗った少女が近くに降り立つ。

 鳥から降りてきた少女に、僕は深々と頭を下げた。


「さっきは助けてくれてありがとう。僕はミヤコ」


「ミヤコ、運が良かったなー! あれだけ大きいリヴァイアサン初めて見た! 普通は助からない!」


「あはは……」


 歯に衣着せぬ物言いに、思わず乾いた笑いが浮かぶ。

 話し方が少しぎこちない気がするが、この場所に住む原住民だろうか。

 存在するのは知っていたけど、まさか今も本当にいるだなんて。

 実際に対面することができて感動している自分がいる。


 すると、少女は海の方へと目を向けた。

 釣られて見ると、リヴァイアサンの死体に魚や鳥が群がっている。


「うへっ、食ってる……」


「リヴァイアサンはごちそうなんだ。とっても美味しいんだよ」


「美味しいって……」


 この子は食べたことあるのかな……。

 思わず顔が引きつった。


「ええと、それで君はその、ここに住んでるん……だよね?」


「うん。ずっとここで暮らしてるよ? だから動物の弱点とかすぐわかる!」


 普通に考えれば、こんな危険な生物のいる場所で人が暮らせるはずがない。

 ただ、先程の一戦を思い返すと、少女の言葉には信憑性があった。

 彼女がここで生活しているのは間違いないだろう。

 すると、少女は僕の背中をまじまじと見つめた。


「お前、妙な物背負ってるなー」


「あぁ、これ? 飛行装置だよ。燃料を燃やしてこのプロペラを高速回転させるんだ。見てて」


 僕は飛行装置を起動させようとスターターを引く。

 だが先程まで問題なく稼働していた飛空装置は、うんともすんとも言わなくなっていた。


「あれ……? 確かにさっきまで動いてたのに……」


「壊れちゃったの?」


「いや、壊れてはないと思うけど、たぶん燃料切れかな。大丈夫、ちゃんと予備の燃料があるから」


 そう言って、肩掛けカバンの中を見て気付く。

 サァッと血の気が引くのが分かった。

 異変に気付いたのか、少女が首を傾げる。


「どうした?」


「燃料がない……。持って来るのを忘れた……」


 鞄に燃料を詰めた容れ物を入れていたのだが、重量を軽くしようと思って一度中身を全て取り出したのだ。

 思い返せば、その時一緒に燃料も出してしまった気がする。

 行きのことばかり考えていたから、すっかり失念してしまっていた。


「最悪だぁ……。何で僕はいつもこんな感じなんだぁ……」


「よく分かんないけど元気出せ?」


 がっくりと肩を落とす僕の頬を、少女がつつく。


「ミヤコは空飛んでたな? そのひこうそうち? でここまで来たのか?」


「そうだよ。って言っても、たった今帰れなくなったけど……」


「空を飛べるなんてすごいな?」


「これくらいは普通だよ。だって僕は機械技師なんだから」


「機械?」


「人が便利に暮らすためのカラクリのことさ。大量の物を楽に運んだり、遠い場所まで早く移動したり、機械を使えば色んなことができるんだ。この飛行装置も、機械の一種なのさ」


「へえぇ、よくわからないけどすごいなー!」


「何言ってるんだよ。君だって、毎日すごい技術の恩恵に預かっているじゃないか」


「どういうこと?」


「ここだよ」


 僕は周囲を見渡した。


「絶えない水に朽ちない植物。時が経ってもなお原型を保ち続ける高度な建築。箱庭と呼ばれたこの古代遺跡には、誰も知らない技術が山のように使われているんだよ。僕はその秘密を調べるためにここまで来たんだ。東の大陸から、空を飛んで」


 僕は肩がけカバンから一冊の本を取り出す。

 本を見た少女は首を傾げた。


「それは?」


「箱庭について記された本だよ。これは、かつてこの箱庭に来た冒険家が記した、冒険の記録なんだ」


「冒険家?」


 少女がピクリと反応するのを、僕は見逃さない。


「もしかして知ってるかい? 伝説の冒険家アキナ・サーティだよ」


 僕は本を開いて箱庭について書かれたページを少女に見せる。


「この本には、アキナが旅で訪れた人類未踏の土地について書かれてる。彼女の記録はどれも正確で、人類でただ一人、箱庭から生還した人だって信じられてるんだ」


「何て書いてあるの?」


「箱庭に関する記録だよ。土地や気候に関係なく繁殖する植物、大きな橋を生み出す特別な鉱石の仕掛け。この本を読んだ時、僕は思ったんだ。ここには、人類の常識を塗り替えるようなすごい技術が用いられているんじゃないかって」


「トワのことは書かれてる?」


「もちろん。アキナは、ここに住む現地民の少女トワと交流して、助けてもらったって記載してるからね。トワって、君のご先祖様だろ?」


「ううん。それトワのことだよ?」


 少女は自分を指差す。

 どういうことだろう。


「ひょっとして、君の名前も……トワっていうの?」


「うん。トワはトワだよ。アキナは友達なんだ。昔、一緒に冒険した」


 突拍子もない発言に、思わず「ははっ」と笑った。

 こんな秘境に住む人でも冗談を言うんだな。


「流石に無理があるよ。だってアキナは、もう六百年も前に亡くなった人だからね」


「……アキナ、死んじゃったの?」


「とっくの昔にね」


 僕が言うと、トワと名乗った少女は悲しげにうなだれる。

 本気で悲しんでいるように見えた。

 悪いことを言ってしまったみたいだ。


「……アキナは、どうなったの? 幸せだった?」


「どうだろう。遠征で足を痛めて、晩年は故郷で余生を過ごしたらしいけど。家族と穏やかに暮らしてたみたいだから、幸せだったんじゃないかな。本来、あれだけの冒険家が寿命を全うすることは難しいしね」


「そっかぁ……」


「アキナの記録は『もう一度箱庭に行きたかった』って記載で締めくくられている。きっと、彼女は本当にこの場所が好きだったんだね」


 励ますつもりでそういうと、トワは「なら良いや」と顔を上げた。

 何とか元気を取り戻したみたいで良かった。


 彼女がアキナについて知っているということは、アキナの話は長い間、トワの一族に語り継がれて来たのだろう。

 娯楽もなさそうな場所だから、トワは何度もその話を聞いて、アキナを身近に感じていたのかもしれない。

 僕もアキナの冒険譚に憧れた一人だから、その気持ちはわからないでもない。


「とにかく、この遺跡には人々も知らない特別な技術が使われてると思うんだ。僕はその仕組みを解き明かしたい。そうすれば、みんなを見返すことも……」


 そこまで言いかけて、言葉を呑み込んだ。

 こんな話をここでしても仕方がない。

 黙った僕を見て、トワは不思議そうに首を傾げた。


「ミヤコ、どうした?」


「いや、何でもない。ここの技術の謎を解き明かせば、きっとすごい発見になるって思っただけさ」


 ゴホンと咳払いをして誤魔化す。


「ところで、君はこの場所で暮らしてるんだよね? しばらく僕が滞在しても大丈夫かな。色々調査してみたいんだ」


「別に良いよ? トワ、人と会うの久々だから、ミヤコに会えて嬉しい」


「なら良かった」


 うん?

 そこでふと疑問に思う。


「人と会うのが久々って、トワの仲間の人たちはどこにいるの?」


「トワしかいないよ?」


「一人で暮らしてるってこと? こんな遺跡に?」


「うん。あと、テトも一緒だけど」


「クェッ!」


 トワが手を伸ばすと、隣に立つ緋色の鳥が頭を差し出した。

 テトという名前らしい。

 改めて見ると、本当に大きな鳥だ。

 大型犬くらいのサイズはある。


 燃え盛る炎のような羽と、四本の足。

 明らかに怪鳥の類だが、その美しさにはどこか神々しさすら覚える。

 トワの仲間は、どうやらこの鳥だけらしい。


 仲間がいないということは、長い年月をかけて死んでしまったのだろう。

 だとすれば、彼女はこの地に住んでいた民族の末裔ということになる。

 ここで出会えたのはかなりの幸運だ。

 状況は良くないけれど、運は僕に味方してくれているのかもしれない。


「じゃあ、もし君さえ良かったら、僕の調査の手伝いをしてもらえないかな。ほら、さっきみたいな化け物が他にもいるかもしれないだろ? 君みたいに頼りになる人がいてくれたら助かるんだ」


 図々しい頼みだろうか。

 そう思ったが、意外にもトワは快く頷いてくれた。


「ミヤコの言うすごい技術、トワも見てみたい!」


 その言葉に、思わず目が輝く。


「ありがとう、トワ!」

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