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神の箱庭に棲む少女  作者:
第2話 トワと機械技師ミヤコ
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第8節 僕にできること

 早速僕は、神様の言葉を使った術のアプローチを開始した。


 箱庭で得た陣の情報を元に、色んなパターンの術を構築してみる。

 文言を変えたり、単語を入れ替えたり。

 既存の陣に書かれた構文に沿って検証したものの、思うような結果は得られなかった。


 第一に考えたのは、燃料を電気に変える方法だ。

 蓄電池を作って水力や火力での発電をを生み出せれば無制限に給電してプロペラを回転させつづけることができるんじゃないかと思った。

 でも実際には発電量が少なすぎるし、そもそもプロペラを高速回転させられるだけの電力を貯められる電池を作る素材がなくて諦めた。


 次に考えたのは、風を発生させてプロペラを永久稼働させる方法だった。

 だがそれには相当の風力が必要になるし、そもそも上昇と下降の切り替えもできそうにない。

 結局これも上手く行かなさそうで、断念した。


「またダメだった……」


 失敗が重なり、何一つ進展しない。

 これには思わず肩が落ちた。

 何度やっても思ったような反応が起きてくれないのだ。


「どうアプローチしたらいいんだろう。それに術も上手く制御できないし……」


 どのような形で術を利用したらいいかもわからなければ、理想的な規模の術を構築することもできない。

 陣を構築して術を発動させるまではできるようになってきたが、あまりに力が弱いのだ。

 これでは到底実用レベルには至らない。


 手帳とにらめっこして一人で唸っていると、テトと遊んでいたトワが近づいてきた。


「ミヤコ、少し休憩しよう? 休んだ方が良いものできる」


「確かに、失敗続きだからね。根も詰めてるし、焦るのは良くないかも……」


 今頃大陸では僕がいなくなって騒ぎになっているかもしれない。

 いや、僕の現状だと、逃げ出したと笑われるのが関の山か。

 情けないけど、時間だけはある。

 すると、トワが僕の手を掴んで立ち上がらせた。


「トワ、良い場所知ってるから着いてきて」


「良い場所?」


 トワの後を追ってしばらく歩くと、居住区の中心に、地面に設けられた水場があった。

 深さは足首くらいまでで、よく見ると湯気が立っており、その色彩は薄い緑色をしている。


「これは……足湯?」


「そだよ!」


 足湯からは香草のような独特な香りが漂っていた。

 ただのお湯じゃないことが見て取れる。

 近くには腰掛けられるような台も設置されていた。

 かつて箱庭に暮らした人々が、ここで湯に足をつけて語らったのかもしれない。


「足湯がある場所は珍しい! ここは他のお湯よりも疲れが取れる!」


 トワが足を湯に浸し、手を伸ばしてくる。

 仕方なく靴を脱ぎ、恐る恐るそのあとに続いた。

 段差に腰掛けて、ゆっくりと湯に足を入れる。

 痺れるような感覚が足先に走った。

 ピリピリとしていて、それが妙に気持ち良い。


「薬湯の効果が付与されてるんだ……」


 低刺激の足湯が、研究詰めで疲労した身体を労ってくれる気がした。

 トワが気に入るわけだ。

 顔を上げると、穏やかな日差しが降り注いでくる。


「良い場所だね」


「だろー?」


 僕の横に座ったトワは、子供みたいに湯をパシャパシャと足で弾いた。

 その無邪気な姿にふっと笑みがこぼれる。


「トワはすごいね」


 気が付けば、そう言っていた。

 トワは首を傾げる。


「君は生まれた頃からこの箱庭で暮らしてたんだろ? 他に人もいないのに、逞しいなって。僕だったら、きっととっくにくじけてたよ」


 思ったことを率直に行っただけだったが、トワは納得がいかないように腕組みをした。


「トワもくじけたことあるよ?」


「本当かい?」


「うん。トワね、ここを出ようって思ったことがあるんだ」


 その言葉に、僕は言葉を失う。

 トワはどこか寂しそうな瞳で、遠くを見つめていた。


「何度も何度も出ようとした。でも、できなかった。トワには無理なんだって思って、諦めたんだ」


 楽しんで暮らしていると思っていたけど、違ったのか。

 彼女もずっと、この遺跡を出たがっていたんだ。

 でもどうしてもできなくて、諦めた。


 トワは受け入れたんだ。

 箱庭での生活を。

 籠の中に囚われることを。


「トワ……」


 気の利いた言葉を探していると、「でもね」とトワはこちらを向いた。


「トワは、ミヤコの方がすごいと思うよ」


「僕? どうして?」


「だってミヤコは失敗してもくじけないし、楽しそうに見えるから」


 トワはニカリと明るい笑みを浮かべる。


「トワは何度も失敗して諦めちゃったけど、ミヤコは諦めない。ずっと考えてる。それってすごく難しい! だからミヤコはすごいと思う!」


「そうかな……」


 自分ではそんな風に考えたこともなかったから、こうしてマジマジと言葉にされると照れてしまう。

 でも、そうか。

 僕でもトワを励ますことができるんだな。

 それなら。


「かならずこの実験を成功させないとな」


 僕が成功すれば、トワを箱庭の外に出してあげることもできるかもしれない。

 そう考えると、俄然やる気が出てきた。

 しょぼくれていた気持ちに、火が灯るような気さえする。


 ふと、湯の中に例の陣があるのを見つけた。

 どうやらここにも、神様の言葉が用いられているらしい。

 ただ、ここの陣は少し様子が違った。


「これは……?」


「ミヤコ、どうした?」


「いや、ここの陣、今まで見てきたのとなんか違うなって……」


 そこで、ふと仮説が浮かぶ。

 もしこの仮説が正しければ、色々解決できるかもしれない。

 頭の中を覆っていた霧が晴れていく。


「トワ、ありがとう! 解決の糸口が見つかったかもしれない」


「えっ?」


 僕に手を握られたトワは、不思議そうに目を丸くした。

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