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EP6:Crash the Colossus

ライラは迫りくるドローンを睨み据えると、すぐ近くに固定されていた機体へ駆け寄った。

「……借りるよ!」


ホバーを繋ぎ止めるクランプを力任せに引きはがし、鉄塊と化したそれを振り回す。金属の衝突音が響き、迫ってきたドローンをまとめて押し潰した。


さらに倒れた残骸を掴み上げ、遠くの一機へ投げ飛ばす。

重量物が直撃し、火花と煙を散らしながら床へ沈む。


続けざまに足元に転がるパイプや、作業台に置かれていた工具を拾い上げ、容赦なく叩きつけた。

電撃をまとった刃よりも、彼女の膂力が振るう即席の武器のほうがよほど脅威だった。


金属がきしみ、破片が飛び散る中、ライラはふと奥の暗幕に目を向ける。

風に煽られ布が揺れると、その影に異様な存在感が覗いた。

思わず駆け寄り、一気に布を引き裂く。


暗がりから現れたのは、四脚で立ち上がる巨大な兵器だった。

無骨な装甲、複数のセンサーアイ、重火器が取り付けられた本体に、2本のマニピュレーター。

おそらく、警備隊や軍隊が使用するレベルの制圧兵器といったところだろう。

暗くてよく見えないが、品番や型式名がうっすら残っている。


圧倒的な威圧感に、ライラは思わず息を呑む。


「……何これ? こんなものまで作っているの?」

「こんなのが使われたら、とんでもないことになる。」


半壊したドローンを振りかぶり、叩くが弾かれる。ならば、と配線に掴みかかり、引きちぎろうとしたが、

通路の奥から駆け寄る足音が聞こえた。


「――誰かいるぞ!」

「壊してやがる!」


従業員の叫びが響いた瞬間、ライラは手にしていたドローンの残骸を無造作に放り投げる。

鈍い衝撃音とともに従業員は床へ沈み、動かなくなった。


さらに詰め寄り、もう一人の顎を打ち抜く。


第2工場へ戻ると、そこには怒り狂った男が立っていた。油に汚れた作業着を纏い、がっしりした体格の工場長だ。

「お前、回収機に映っていた奴だな。」

「何者か知らんが――お前に全部壊されてたまるか!」


彼の怒声と同時に、残っていた5機の改造ドローンが一斉に起動する。


青白いレーザーが床を焼き、火花が散った。


ライラは身をひねって光線を躱し、突っ込んできた一機のアームを掴む。体勢を崩したところを床に叩きつけ、駆動音を止めた。

「聞いたよ、全部……。なにも、こんなことまでしなくてもいいじゃない。真っ当にしていれば……」


工場長は彼女のここらでは見かけない衣装や小ぎれいな姿を一瞥し、鼻で笑った。

「お前……低層ここの人間じゃないな? 偉そうに説教とはな。お前に何がわかる!」


ライラは静かに言い返した。

「……自分のやっていることがわかっているなら、踏みとどまれたはずでしょ」


「……俺たちが何でこんな鉄屑いじってると思う? 遊びじゃねぇ、食うためだ。上層の連中が垂れ流すゴミで、やっと生きてんだよ!」


「だからって、こんなことをしてもいいワケないでしょ!」


「お前みたいな“恵まれたヤツ”に、この飢えがわかるか!」


工場長の声が鉄骨に反響する。怒気に満ちたその響きと同時に、ドローンたちが再び一斉に襲いかかってきた。


鋭い駆動音と共に、ドローンが次々と飛びかかってきた。

改造された機体は本来の姿をとどめておらず、もとの警備ドローンのアームに無理やりレーザーガンを換装し、電磁ブレードを雑に溶接して取り付けたようなものばかりだ。

むき出しのヒートシンクは赤く熱を帯び、配線が火花を散らしている。


「テーザーだかレーザーだか知らないけど――当たらないよ!」

ライラは先ほど叩き落としたドローンを引きずり出し、即席の盾にする。

火線が激しく弾け、盾代わりの残骸が黒く焦げた。


すぐに迫ったブレード持ちを迎え撃つ。金属の腕を叩き潰し、胴体を蹴り飛ばして壁に叩きつける。

火花が散り、機体は甲高い悲鳴のような音を立てて停止した。


「次!」

床を蹴り、閃光のごとき速さでレーザー持ちへ飛び込む。

銃口がわずかに光を放つ前に、ライラの身体は宙を舞っていた。


しなやかな脚が弧を描き、サマーソルトキックが機体打ち上げる。

鈍い衝撃音と共に、ドローンは天井へ跳ね上がり、そのまま床に崩れ落ちた。


残り2機。

「な、なんだあの動き……!」

2階の通路にいた従業員たちが顔を青ざめさせ、慌てて後退する。


「クソ……」

工場長が奥の倉庫へ走り出す。


「逃がすか!」

追いかけようとするが、ドローンが立ちはだかる。


「邪魔しないで!」

残った2機のドローンを前に、ライラは構える。



工場長がたどり着いたのは、暗幕がかけられていた制圧兵器。

「こうなったら奥の手だ。 あいつさえ始末すればまだ間に合う!」

奥の制御盤を叩き、起動する。


ライラが残るドローンに向かって踏み出した、その瞬間だった。

暗闇の奥で、重々しい唸り声のような駆動音が響く。

「……?」


次の瞬間、轟音が工場を揺らした。

半分しか開いていなかった鉄扉が、壁ごと粉砕される。


破片と共に、二本の巨大なアームが伸び、巻き込まれたドローンを一瞬で押し潰した。

甲高い金属音と火花が飛び散り、残骸が床に散乱する。


工場全体が震動し、天井から錆びた鉄骨が軋む音が響く。

むせかえるような機械油と、焦げた臭いが一気に漂い出した。


姿を現したのは、四脚で支えられた巨大な制圧兵器だった。

異様なまでに肥大化した胴体には複数のセンサーが光り、重火器とマニピュレーターが不気味に動く。


むき出しの配線が青白く瞬き、咆哮のような駆動音を立てる。

「計画は失敗だが――このままやられてたまるか!」


工場長の声が鉄骨に反響する。

ライラは短く息を吐き、紫電を纏い直す。


「……もう諦めたら?」


制圧兵器のセンサーが不気味に赤く瞬いた。

次の瞬間、四脚を軋ませて突進し、二本のマニピュレーターが振り下ろされる。

ライラは寸前で身を翻し、床を滑るようにかわした。


アームが叩きつけられた鉄床は大きく陥没し、火花が走る。

「……ちょっと、動きが荒すぎない?」


冗談めかしてつぶやきながらも、その眼差しは鋭い。

制圧兵器の攻撃は加速していった。


レーザーが無差別に放たれ、壁や天井を焼き、四方八方へ撃ち込まれる。

逃げ遅れた従業員が次々と巻き込まれ、悲鳴と爆発音が工場内に響いた。


工場長は必死に柱の陰へ身を潜めようとした。

だが、センサーに「敵」と認識されたのか、二本のアームが容赦なく伸びる。


「やめろっ――!」


掴み上げられた彼の叫びは途中で途切れ、無惨にも鉄塊のように叩き潰された。

骨と金属が同時に砕ける音が響き、ライラは思わず目をつぶる。


「言わんこっちゃない……」


低く吐き捨てるように呟き、再び目を開いた。

視界には暴走を続ける制圧兵器。


ドローンとの交戦で既にわかっていたことだ――ここには倫理フィルターなど存在しない。

改造の段階で取り払い、その空いたスペースに攻撃用のチップや違法プログラムを詰め込んだのだろう。


このまま放置すれば、被害はさらに拡大する。

今、ここで止めるしかなかった。


ライラは床を蹴り、脚部めがけて渾身の踏み込みを叩き込んだ。

だが、重厚な装甲はびくともせず、鈍い衝撃が返ってくるだけだった。


「やっぱ無理か……」


狙いを変え、脚の関節部を弾くように蹴る。

金属音と共に一つがわずかに歪み、制圧兵器が軋んで姿勢を崩した。


兵器のアームの薙ぎ払いを避け、背後へ回り込む。

むき出しになっているヒートシンクが視界に入る。


「ここなら……!」


拳に力を込め、思い切り叩きつける。

火花が散り、冷却機構の一部が壊れて煙を噴き出した。

制御系が乱れたのか、砲身が空を切って無駄に光線を撃ち放つ。


少しずつだが、確実に無力化できている。そう思った瞬間――

「……なに?」


本体の装甲がわずかに開き、中から小型の機構が飛び出した。

先端のノズルが閃光を放ったかと思うと、目にも留まらぬ速さでワイヤーが伸びた。


とっさに反応し、跳び退るが左足が絡め取られる。

「しまっ――」

声を出す暇もなく、電流が一斉に走った。

全身を貫く激痛に、息が喉で詰まる。紫電すら制御が乱れ、視界が白く弾け飛んだ。

紫電と自身のPSIの光が混ざり合い、肺の奥から勝手に絞り出されるように、鋭い悲鳴が響いた。


「――あああああっ!」


全身を焼く痛みに筋肉が硬直し、指先すら思うように動かない。

紫電は乱れ、身体を護るどころか、自分の痺れを助長するかのように散っていく。


「くっ……こんなの……っ」


次の瞬間、制圧兵器のアームが迫る。

ワイヤーごと強引に振り回され、壁へ叩きつけられた。

鉄骨がひしゃげるほどの衝撃に、ライラの身体は床を滑って転がった。


「……っ、うぐ……」


肺から空気が抜け、腕も足も痺れて動かない。


ワイヤーユニットが光り、次の電撃が来る。

必死に引きちぎろうとするが、ワイヤーは異様な強度でびくともしない。


「やばい……っ!」


ライラが歯を食いしばった、その瞬間――。


がしゃん、と金属音。

横合いから飛び込んできた作業員が、ブレードでワイヤーを断ち切った。


「あんた……なんで……?」


男の手は油で真っ黒に汚れていた。

荒い息をつきながら、ライラの腕を掴んで言う。


「テストで死人を出した時点で、もう終わってたんだ……!」

「せめてこれだけでも手伝わせてくれ。」


その必死の声音に、偽りはなかった。

どうやら整備していたメカニックらしい。


男は続ける。

「いいか? やつは動き続けると中心の制御コアが出てくる。それを壊せば――」


言いきる前に、兵器のアームが男をつかみ、壁に叩きつけた。

骨が砕ける音とともに上半身が原形を失いピクリとも動かなくなる。


ライラはよろよろと立ち上がり、兵器に向き直った。

全身にきしむような痛みが走り、息を吸うだけで胸が焼けるように苦しい。


「制御コアって言ったって……どこにあるの」


蒸気と火花が散る巨体をにらむ。だが、特別それらしいものはどこにも見えない。

残されたレーザーガンは二基。アームは片方が熱で焼け落ちたのか、力なく垂れ下がっている。


ライラは大きく身を翻し、崩れた鉄骨の影へ飛び込んだ。

がれきや鉄板を盾にしながら、兵器の挙動を観察する。

レーザーが突き刺さるたびに壁が焼け、赤熱した鉄骨が弾ける。


荒い呼吸を整え、額の汗や血をぬぐう。


蒸気の吹き出す間隔が乱れ、火花はさっきよりも激しく弾けていた。

赤熱した装甲が内側から淡く明滅し、巨体の動きは目に見えて鈍る。


不意に機械が身じろぎをやめ、短い唸りののち、胴の中心が割れて半球状の機構が下方へとせり出した。


熱に耐えきれず、冷却のために内臓を晒す、そんな挙動だ。

こちらの手でいくつも冷却器を壊しているせいで、全体の排熱も追いついていないのだろう。


なおもレーザーが遅い軌跡で走り、片方だけ生きたアームが空を切る。

だが、その鋭さは失われつつある。


ライラは息をひとつ落とし、指先から紫電を立ち上がらせた。

髪先が微かに光を帯び、周囲の空気がかすかに震える。


レーザーとアーム攻撃の隙間を縫い、兵器に向かって走りだす。

薙ぎ払うアームをスライディングで低く兵器の真下へ潜り込む。

見上げた視界の中央、足裏に伝わる振動の向こうに、むき出しになった半球が揺らめいた。

これが制御コアだろう。


コアは強化ガラスに覆われ、内側でオレンジ色の光が脈打つように明滅していた。

ライラは滑り込んだ体勢を立て直し、一気に腕に力を込める。


「壊れろっ!!」


ライラの紫電を纏った掌底が鋭い音とともにガラスへ叩き込まれる。

瞬間、バリバリと亀裂が走り、内部の光が漏れ出した。さらに渾身の力で押し込むと、コアが砕け散り、まばゆい閃光とともに機体全体が硬直する。


四脚ががくりと折れ、アームが床を叩きながら停止する。

最後に、火花と黒煙を吹き上げ、巨体はその場に沈み込んだ。


直後、四脚が崩れ落ち、巨体が床を揺らして沈んだ。


焦げた煙が立ち込める。

ライラは膝に手をつき、荒い呼吸を整えながら、焦げた匂いの中で掌をゆっくりと下ろした。


工場全体が悲鳴を上げるように軋み、鉄骨が次々と崩れ落ちていく。

鉄骨が次々と崩れ、床が抜けていく。


「ちょっと――まだ休ませてよ!」

舌打ちと共に、ライラは瓦礫を蹴って走り抜けた。


紫電の残滓をまとったまま、ライラは息を切らしながら外へと飛び出した。

外はもう夜だった。

夜風に当たり、荒い呼吸を整えながら振り返る。


暗闇の中で、崩れ落ちる工場は火花と煙に包まれていた。

胸の奥に重く沈む感覚――。

「あれだけのものを作るなんて……それにしても、組織って何?……聞き出せなかったな」


後日、警備隊は工場を押さえ、業者が犯行グループであることを確認。

「改造中の暴走で壊滅した」という扱いに処理された。


工場を後にしたライラの体には、打撲や切り傷がいくつも残っていた。

だが特異者特有の回復力がある。二日ほど安静にして栄養を取れば、痕も残さず消えるだろう。


帰宅すると、汚れきった服を見て親に小言を浴びせられる。

「ちょっと転んだだけ」と適当にあしらい、そのまま風呂場へ。熱い湯に体を沈め、煤と血を洗い流す。


浴室の鏡に映る自分をふと振り返った。

強大な兵器を打ち倒した満足感は確かにある。だが同時に、直接手を下したわけではなくとも、工場長や従業員が死んだ事実が脳裏を離れない。


胸の奥に、勝利の余韻とは似ても似つかない、鈍く冷たい罪悪感が重く残っていた。

だがすぐに、別の声がそれをかき消した。


考えても仕方ない。

そもそも違法な改造なんてしなければ、こうはならなかったのだから。

それに、あんな技術があるならもっと有益なことに――。


そう自分に言い聞かせると、ライラは布団に身を沈めた。

心の奥に渦巻くざらついた感情を押し殺すように、あっさりと眠りへ落ちていった。



翌日。

登校して早々、机に突っ伏しているとエリナに心配そうな顔を向けられる。


「ライラ、どうしたの? なんか元気ないよ」


「なんでもな〜い……“ブルーマンデー”ってやつ」

顔も上げずに返事する。


「だからって寝ちゃだめだよ?」

「わかってま〜す」



……そう言ったものの、疲れ果てていたライラは一限目であっさり机に突っ伏した。

結局、後日補講を受けるペナルティが課せられる羽目になった。

【HWR-42 “ペリゲー級制圧機”】

全高:約4.5m/重量:約12t

脚部:四脚+油圧駆動の構造、瓦礫地帯での安定稼働を想定

武装:双腕マニピュレータ、レーザーガン8基、拘束用ワイヤー射出ユニット


元々は都市警備や災害救助での重作業支援を想定。

盗難後、違法改造により倫理フィルターが外され、殺傷兵器へ転用された。

弱点の制御コアはもともとの仕様であり、緊急時の冷却のため露出する。

改造計画には高周波ブレードや小型ミサイルの追加も予定されていたが、間に合わず未搭載のまま稼働している。

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