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マンハッタン狂詩曲  作者: 木山碧人
第九章 死の街
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第9話 移動手段

挿絵(By みてみん)





 ブロードウェイ。マンハッタンの南北を横断できる道路だ。


 栄えた繁華街や劇場街に隣接し、島内では途切れることがない。


 道路が無事で、乗り物さえ確保できれば、目的地まで直通でいける。


「確認なんだが、【火】の概念消失ってのは、内燃機関系の車は全部NGか?」


 大穴を迂回する道中、確認必須な疑問をぶつける。


 時間が差し迫っているなら、駆け足でも限界があった。


「ええ。ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車は軒並みアウト。見せかけだけの玩具と化しました。都市の混乱が悪化したのは、これまで当たり前だった移動手段が突然使えなくなり、パニックに陥ったことも起因するでしょうね」


 涼やかな顔で返事をするのは、レオナルドだった。


 それなりのペースで走るが、疲れる素振りは見えない。


 例の力のおかげか、素の体力が高いのか。なんにせよ……。


「………………はぁ、はぁ、はぁ。ちょーっと待った!!!」


 次の手を考えていると、声を上げたのはウィル。


 息を切らし、肩で呼吸して、滝のような汗をかいている。


 素人の限界だな。軽量装備だが、運動不足のリーマンにはきつい。


「もう休憩をご所望か? まだ走り出して5分も経ってねぇぞ」


 足を止めたヴォルフは、ガンを飛ばし、厳しい意見をぶつける。


 この中なら最も重装備だが、息を切らさず、愚痴もこぼしていない。


 移動手段がなくても走り切れるような、底抜けの体力を現時点で感じた。


「ここはカットだ! カァァァァァット!!! 冷房飲料軽食完備のロケ車があるんだろ? さっさと乗せて、次のシーンにいってくれ。ただのおじさんには限界だ!!!」


 ウィルはその場に座り込み、駄々をこねる。


 やつは演技派俳優だと思い込んでいる、一般人だ。


 背景を考えれば、仕方がない。そう思うのも無理がない。


「……どうする、コイツ。捨て置くか?」


 残念な惨状を見兼ねて、ヴォルフは耳打ちしてくる。


 切り捨てれば、最悪、移動手段がなくとも走破はできる。


 今後、役に立つ保証はなく、現状だと足手まといでしかない。


 ――ただ。


「ローズ……彼を担げるか?」


 これまで沈黙を貫く、最後尾の少女に声をかける。


 喋る気があろうとなかろうと、何かしらの反応はするだろう。


「――うぉっと!? これは……これで快適だな!!」


 ローズは返事をすることなく、態度で示した。


 ウィルを肩車で担ぎ、当の本人は素っ頓狂な声を上げる。


「…………」


 その一部始終を見て抱くのは、些細な違和感。


 現状、どちらとも言える状態だが、可能性は残る。


 下手に掘り下げずに、今は泳がせた方がいいだろうな。


「騒がしいヤツだ。……まぁ、支障がないなら、オレは構わんが」


 ヴォルフは何事もなく反応し、移動を開始する。


 そこからブロードウェイまで大して時間はかからなかった。


 ◇◇◇


 何度か小規模な戦闘を繰り返し、たどり着くのは大通り。


 目視で確認する限りでは、道路に陥没や断裂は見当たらない。


 片方の条件はクリアしているものの、途方に暮れることになった。


「道の具合は概ね良好だな。問題は……」


「電気自動車ですね。都合よく転がっていればいいのですが」


 愚痴をこぼすと、レオナルドが合いの手を入れる。


 目下の最優先事項は乗り物。それも電気で駆動する類だ。


 見たところ、道路の交通量は皆無に等しく、人っ子一人いない。


「あんたら……兵隊さんか? 手を貸してはくれんか?」


 そんな時、物陰から声をかけてきたのは、車椅子に乗る老人。


 坊主頭で右目にモノクルをかけ、白のシャツに黒のガウンを着る。


 見たところ車椅子の車輪が亀裂に引っかかり、身動きがとれずにいた。


 世界がこんな状況では、長生きできないとは思いつつ、呼びかけに応じた。


「ほらよ。これでいいか?」


 近寄り、車椅子を持ち上げ、平坦な歩道に乗せる。


「恩に着る。……駄賃はいるか?」

 

 老人は懐に手を伸ばし、封筒から札束を取り出し、数え出す。


 気前のいいじいさんだったが、時代の流れというものを知らんらしい。


「いらねぇよ、とっとけ。……それより、この辺で電気自動車は見なかったか?」


「それなら……。従兄弟の姉の伯父のそのまた従兄弟の父親が確か……」


「赤の他人じゃねぇか。長い前置きはいらねぇ。どこにあるかだけ教えてくれ」


「ほら、あそこ。なんだったか。最近、物忘れが激しくてな」


 適当な雑談を重ねると、有力な手掛かりが手に入る。


 老人が指を差した先には、ここから見える古典的な建物。


 ローマの宮殿風な建築様式で、見る人が見れば一目で分かる。


「コロンビア大学……。その教師ってところか?」


「ご名答。……ところで、駄賃はいるか?」

 

 そんなやり取りを交わしつつ、ボケたじいさんを加え、移動開始。


 電気自動車を求めて、なんの脈絡もなかったコロンビア大学を目指した。


 ◇◇◇


 目立った損傷はなく、すれ違う人はおらず、大学内に入る。


 中の電気は通っているようで、人が行き来した痕跡が残ってる。


 車椅子を押しつつ長い廊下を進み、指定されたキャンバスを目指す。


 レオナルド、ヴォルフ、ウィル、ローズも追従し、周囲を警戒していた。


「じいさん……どうしてこんなところに出かけに来たんだ?」


 世界の事情をいったん脇に置き、探るのは動機。


 ボケているにしても、何かしらの理由があると信じたい。


「難民用の……ほら、あれだ。シェールガス」


「シェルターな。教師が率先して居場所を作ってるわけか」


「そうそれだ。駄賃は……」


「さっきもらったよ。なんでもかんでも金をやるのはやめろな」


 おおまかな疑問は解消されて、教師がいる目途は立った。


 言われるがまま廊下を進み、見えてきたのは机のバリケード。


 原始的だが、脳のない放浪者には効果的だ。侵入は難しいだろう。


 見たところ隙間はなく、出入りには内側のアクションが必須に見えた。


 城門みたく、内側から外側に向けて開けられるような仕様のように思える。


「着いたぞ。何か合図はあるか?」


「おーい、来てやったぞ! カモのお通しだ!!」


 ボケかジョークか分からず、ぼんやりしていると老人が消えた。


 呆気に取られていると、首筋には何かが突き立てられる感触がある。


 つぅーっと赤い雫が零れ落ち、急激に頭が冴えていき、状況を理解する。


「悪いな、若造。ワシはまだ現役でな。身ぐるみを剥がさせてもらおうか」


 ボケたフリに騙された。老人は鋭利な爪を首筋に立て、脅しをかける。


 同時にバリケードが開かれると、黒人のギャング集団が刃物を構えていた。

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