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マンハッタン狂詩曲  作者: 木山碧人
第九章 死の街
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第7話 任務開始

挿絵(By みてみん)





「【火】の概念が消失し、重火器やミサイルなどの現代兵器の大半は役に立ちません。皆さんは、そんなハンデをものともしない何かしらのプロフェッショナルであることはリサーチ済みですが、丸腰で世界の一大事に挑んでもらうのは我々としても気が引けます。――ですので、僭越ながら餞別を用意させてもらいました」


 運搬用のエレベーターの中で、指揮官ミアは淡々と語る。


 計六名を乗せ、分厚い扉が開くと、そこには楽園が広がっていた。


「こいつは……すんげえな……」


 目を見開き、思わず素直な感想を口に出しちまう。


 既存の枠組みから脱却した、目新しい物体のオンパレード。


 武器庫というよりも格納庫レベルで、ハイテクな武器が揃い踏みだ。


「田舎者丸出しだな。いいから黙って得物を選べよ」


 立ち止まる俺を横目に、通りすがるのは強面男。


 黒髪のオールバックで、身長は高く、ガタイがいい。


 黒の革ジャンに、紺のジーンズをバッチリ着こなしてる。


 90年代のバイカースタイル。マフィアかギャングの類だろう。


 ターミネーターの真似事か? と言いかけたが口を挟む奴がいた。


「彼はヴォルフ・シュトラウス。ドイツに居を構えるマフィアの元ボスです。一匹狼を気取っていますが、意外と情に厚い。困ったら頼りにするといいでしょう。状況が状況なので、文句を言いながらも助けてくれるはずですよ。言うまでもないかもしれませんが、腕っぷしに関しては誰よりも信頼に置けます」


 ご親切にも補足説明を加えたのは、レオナルド。


 疑問も因縁も残っているが、気にすべきことは他にある。


「あっちの七三分けの営業マンは?」


 エレベーターから降り、はしゃいでいる茶髪の男に視線を向ける。


 黒のスーツ、赤のシャツ、ストライプ柄のネクタイに左腕には高級時計。


 見るからに素人。戦闘経験もまるでない、ただの中年サラリーマンに見えた。


「ウィル・チータム。営業マンに見せかけた詐欺師ですね。戦闘では何の役にも立たないでしょうが、その分、弁が立つ。交渉や騙し合いにおいては、彼の右に出る者はいないでしょう。『人類を救う』映画の撮影中だと上手く丸め込んだので、成果報酬の2億ドルをチラつかせれば、尻に火が付きますよ。脅し文句というやつです」


 続けてレオナルドが語るのは、簡単な経歴とプロフィール。


 役柄とそれぞれの強みを頭に叩き込み、部隊の編成を模索する。


 残る面々は見知った関係だったが、気になることがあるにはあった。


「あんたは何ができる――レオナルド・アンダーソン。戦力に数えていいのか?」


「見えないもの担当……と蚊帳の外にするのはやめにしましょう。――こちらを」


 レオナルドが白スーツの懐から取り出したのは、黒のゴーグル。


 形状はスキー用のものとよく似てる。疑うことなくそれを装着した。


『起動を確認。チュートリアルを望まれますか? マスター』


 すると、脳内に響いてくるのは無機質な声音。


 仕組みはよく分からんが、骨伝導的なものだろう。


 音声が外に漏れ出ている感じはなく、秘匿されている。


 話し相手はAIだろうが、知りたいのはゴーグルの真の機能。


「一から十までの説明はいらん。今、必要な機能を体感させろ」


 百聞は一見に如かず。長ったらしい前置きはいらねぇ。


 その催促に対し、声の主は自己紹介も端折り、役目を果たす。


名前:【ウォルター・ファルネーゼ】

意思:【3324】


 VRのゲーム画面のように表示されるのは、項目と数字。


 それに加えて目に見えたのは、レオナルドの周囲を覆う光。


 炎のように激しく揺らめき、視覚的に一発で伝わる圧を感じた。


「そういうカラクリか。この光が俺とあんたとの差……なんだな」


 具体的な説明はなかったものの、直感的に理解できる。


 見えない世界から、ようやく見える世界へ足を踏み入れたわけだ。


「ええ、まさに。……ただし、その代償として、見えなくなる存在もいる」


 レオナルドは視線を飛ばし、エレベーターの方を向く。


 そこでは扉が何度も開閉し、何かに引っかかる様子が見えた。


 不具合か超常現象のように思えたが、おおよその察しがついていた。


「ローズか……」


 すかさずゴーグルを外し、肉眼で再び確認する。


 そこにいたのは、フルフェイスマスクを被った少女。


 エレベーターの扉の中間部分で不動の体勢を貫いていた。


「彼女は言うなれば、『透明人間』。見える側の我々には見えない存在。紙とペンを使えば、意思疎通を取ることは可能ですが、視覚的に認知できなくなる。あなたがもし、我々と同じような力を欲した場合、どうなるか想像つきますよね?」


 『見える』か『見えない』か。その先にある悲しい結末。


 この任務を通して迫られるであろう、力かローズの取捨選択。


 未来を予想することはできても、選択を予測することはできない。


「――ああ。事情は概ね理解した」


 全てを呑み込んで、今は任務に集中しよう。


 身内と世界を天秤にかける展開が来ないことを信じて。

 

 ◇◇◇


 支度は終えた。自己紹介は軽く済ませた。


 再び集結するのは、運搬用のエレベーターの中。


「お送りできるのは、セントラル・パークの少し北まで。それより先は航空機墜落事故によって惨憺たる有り様となっています。地形は荒れ果て、被害者も多数あり、人の死をきっかけに増殖する黒い骸骨……放浪者ドリフターの数も尋常ではありません。住民の避難も完璧とは言えず、混乱を招くこともあるでしょう。――それでも、皆さんなら任務を達成できると信じております」


 ミアの説明によって、場が引き締まっていくのを感じる。


 それぞれの得物を握る手にも力が入り、ついにその時は訪れた。


「「「「「――――――――」」」」」


 世界の命運を託された五名が見たのは、想像以上の地獄。


 放浪者ドリフターと呼ばれる黒い骸骨がひしめく、野外バスケットコート。


「――ご武運を」


 地表に伸びたエレベーター内にいるミアは一言添え、扉が閉じる。


 退路は断たれ、四方八方を敵に囲まれ、増援を望むことはできない状況。


「野郎と少女共、準備はいいな? 前哨戦の幕開けだぁぁ!!!!」


 景気よく放たれるのは、俺の電磁加速式のアサルトライフル。


 火薬を不要とした次世代の最新兵器が、否応にも脚光を浴びていく。


 的確に正面にいた放浪者ドリフターの頭蓋骨を射抜く中、撃ち漏らした個体が生じる。


「撃ち損じは、私にお任せあれ」


 次に動き出すのは、刀と右手甲を装備したレオナルド。


 悲鳴を上げさせることもなく、頭蓋骨を一刀両断していった。


 電磁加速により初速が増し、常人では感知不能の抜刀術が実現する。


「しゃらくせぇ。まとめて逝けや!!!」


 ヴォルフが用いるのは、超大口径のライフル。


 引き金を引き、射線上に発生したのは、ソニックウェーブ。


『『『『『『『『『『――――――――』』』』』』』』』』


 断末魔を生じることなく、大量の黒骨が瓦解していった。


 コート内の大半を掃討できたものの、まだまだ死に残りがいる。


「こ、これを押せばいいんだな? いいか押すぞ!? 押すからなぁ!!!」


 慣れない動作で拳銃を構えているのは、ウィル。


 完全に腰が引けていて、素人感丸出しの反応を見せる。


 意味のない警告を続けた上で、ようやく引き金を引いていく。


「――――」


 ドヒュ、という間抜けな音と共に現れたのは、ネズミ型の物体。


 地面を左右に蛇行しながら進み、安全運転のまま敵の足元まで接近。


 間の抜けた不発のように思えたが、時間差で日の目を浴びることになる。


『『『『『『ア、ギ――――!!!?』』』』』』』


 生じたのは、目に見えて分かるほどの重力の歪み。


 周囲の放浪者共を地面に押し付け、ものの見事に圧殺する。


 ――制圧完了。

 

 バスケットコート周辺にいた敵性存在はロスト。


 大半の得物は披露され、想定以上の威力を発揮する。


 その中でも不気味に沈黙を貫いているのは、一人の少女。


「…………」


 ローズの両脚には、機械的な翼の生えた赤い脚甲が装着されていた。

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