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マンハッタン狂詩曲  作者: 木山碧人
第九章 死の街
3/16

第3話 初陣

挿絵(By みてみん)





 どうやら、お目当ての場所はマンハッタンの南端らしい。


 約10kmぐらいの道のりで、歩けば1時間半。車なら10分程度。


 なんてことはない散歩道のはずだったが、世界の常識は一変した。


『『『――ガ、ギ』』』


 高層ビルや高級ホテルが建ち並ぶ7番街通りには、『異形』がいた。


 無数の『黒い骸骨』が路上を闊歩し、三体ほどがこちらに視線を向ける。


「おい、待て……。いつから世界はB級ホラー映画に成り下がった!?」


 後ろに半歩下がるエデンは、抱いた感想を口にする。


 正体も原因も不明なものの、幻覚じゃないのは確かだった。


「任せてちょ。フィジカルは私が担当する。アレには絶対触れないで」


 前に半歩出たのは、両拳を握り込んだローズ。


 何か知ってるようだが、警告のみで状況説明はなし。


 足慣らしで軽く二度ほど跳び、着地と同時に戦闘が始まる。


『――ギ、ギッ!!』


 真っ先に反応したのは、最寄りの骸骨。


 ぎこちない動作と共に、両腕を前に突き出した。


「…………」


 至近距離にいるローズは素早く屈み、抱擁を回避。


 勢い余った骨に接触しそうになるが、対処は手慣れていた。


『――ッッ!!?』


 迫る骸骨の顎下を砕いたのは、ローズのアッパーカット。


 たった一撃で頭蓋骨を砕き切ると、胴体部分の骨は瓦解した。


 一体目は実質、戦闘不能。同時に明るみになったのは骨共の弱点。


(頭が弱みか。ありがちな設定だが、このご時世じゃ有益だな)


 ローズの戦いぶりを観察しつつ、頭の中に情報を叩き込む。


 今の世界を生き抜くには、見て見ぬ振りはできないものだった。


『『ギ、ガ――――』』


 そんな中、残る二体の骨は示し合わせたように同時に跳んだ。


 標的は言うまでもなく、ローズ。一直線に迫り、攻撃後の隙を狙う。


「よ……ほっ!!」


 そこで彼女は唐突に倒立をして、両腕の力で跳び上がる。


 骨共と同じ目線になり、そのまま空中戦に持ち込もうとしている。


『『ギ――ッ!!!』』


 宙を舞う骨共は両腕を槍に見立て、突き出す。


 何もしなければ、串刺しの刑だ。まず助からない。


 大人なら助けに入るのが理想だったが、彼女はプロだ。


 役職が事実なら、政府公認の戦闘員という立ち位置になる。


 素人がでしゃばるより、プロに任せた方がいいに決まっていた。


「チョモ、ランマ!!」


 ローズは適当な掛け声と共に、開脚し、回転。


 両足をプロベラのように回し、迫る骨共に蹴りを放った。


『『――――ギ、グ……』』


 それっぽい断末魔を上げ、二体の頭蓋骨は損壊。


 胴体部分は見事に砕け散り、無傷で勝利を収めていた。


「戦闘員というより、曲芸師だな。雑技団出身か?」


 特に褒めることはなく、思ったことを端的に述べる。


 最初の攻防を見た瞬間から、この結果は目に見えていた。


「まぁ、似たようなもんかな。そっちは大丈夫――」


 ローズは振り返り、こちらに視線を向ける。


 声が強張るのを感じ、言葉より先に状況を察した。


「――――」


 目線を信じ、放ったのは、ノールックの後ろ蹴り。


 頭部辺りに照準を合わせ、加減も容赦もなく振り抜く。


 予想が正しければ、背後に忍び込んでいた骨がいるはずだ。


「あぎゃっ!?」


 しかし、聞こえてきたのは、人の悲鳴。


 それも、聞き覚えのある野郎の情けない声。


(まずった……。本気で蹴っちまった……)


 人外相手を見越して、手は一切抜いてない。


 当たり所が悪ければ、殺すこともあり得る一撃。


 最悪、前科持ちになる覚悟を決め、後ろを振り返る。


「あいたたた。何をするんですか、機長!!」


 そこにいたのは、鼻血を流し、痛がる副操縦士。


 鍔付き帽子は地面に落ち、横に流した青髪が目に入る。


「誰かと思えば……ラウルか。悪い、怪我はなかったか?」


 冗談を飛ばせる余裕はなく、本気で心配する。


 尻餅をついた元部下に手を伸ばし、具合を探った。


「見て分かりませんか? 鼻血ですよ、鼻血! 折れてたらどうするんですか!」


 差し伸べた手を掴み、起き上がるラウルは文句を垂れる。


 見たところ、折れてはいない。鼻血は出てるが、それだけだ。


 海兵隊仕込みの本気の蹴りが、この程度で済んだのは奇跡だった。


(おかしいな……。当たりどころが良かったのか?)


 些細な違和感を覚えるものの、助かったのなら御の字だ。


 見ず知らずの相手でもないし、このまま放置するのは気が引ける。


「……ってなわけで、元気な殿方を一名追加してもいいか? 少し抜けてるやつだが、悪い野郎じゃない。俺が保証する」


 ローズに視線を飛ばし、お伺いを立てる。


 許可するかどうかは、五分五分ってところか。


 なんせ政府の仕事だ。部外者はNGの可能性が高い。


「いいけど……その人とは会話が成立しないよ」


「ん? それってどういう――」


「今は話せない。本部についたら洗いざらい教えるね」


 いまいち要領の得ない返事をし、同行者が一名追加。


 黒い骸骨がひしめく通りを進み、目指すのは島の南端だった。

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