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マンハッタン狂詩曲  作者: 木山碧人
第九章 死の街

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第14話 原動力

挿絵(By みてみん)





『人類焼灼まで残り3分。繰り返す、人類焼灼まで残り3分――』


 艦橋内に響きわたるのは、無慈悲なアナウンス。


 未来エデンとの戦闘から、約2分が経過しようとしていた。


「どう、して…………」


 地面に転がるのは、大量の空薬莢とマフィアの面々。

 

 最後の抵抗者のラウルは、その他大勢と同じ末路を辿る。


 うつ伏せの状態で倒れ込み、辛くも動いた視線を上に向ける。


 そこには、球状の黒い意思に包まれた髭面の男。未来エデンの姿。


 そのさらに周囲には、赤と青の小球体を公転させるように纏っている。


反意思防御機構アンチセンスフィールド。意思の力を有する存在は、何人たりとも俺に触れることはできねぇ。……言っとくが、精孔を閉じて対策しようが無駄だ。実力や才能の優劣に関係なく、一度でも意思の旨味を知れば、源となるセンスを完全に絶つことは不可能。このフィールドはそれを嗅ぎ付ける。対象者を拒絶し、あらゆる行動に付随する攻撃を無効化する。対意思能力者用の最終兵器だ」


 惜しむことなく明かされたのは、彼の意思能力。


 事実だとすれば、ここにいる面々では絶対に勝てない。


「何を代償に……そこまでの力を……」


 制限や縛り、強い思い入れだけでは到底説明がつかない。


 人としての大事な『何か』を犠牲にしなければ到達し得ない。


「サービスはここまでだ。……あばよ、副操縦士」


 肝心な部分は明かされず、未来エデンは右足を上げる。


 こちらの頭部に狙いを定め、容赦なく踏みつけようとしていた。


「――――」


 しかし、想定していた終わりはやってこない。


 慌ただしい足音と共に、終わりを食い止める者がいた。


「うちの副操縦士に手を出すんじゃねぇ!!!」


 ◇◇◇


 艦橋で相対したのは、もう一人の自分。


 直感的に理解できるほど酷似した存在がいた。


 服も見た目も劣化してはいるが、まず間違いがねぇ。


「天敵のご登場か。俺が相手してやる。かかってきな」


 髭面の男は蹴り払い、距離を取る。


 素性が何にしても、こいつが騒動の黒幕。


 戦略飛行空母『ガンダールヴ』を牛耳る艦長だ。


「俺たちは一人じゃねぇ。何としてでも……お前を止める!!!」


 対話する時間はなく、気の利いた言葉も浮かばず、駆ける。


 残り時間は約3分。こいつを倒せなければ、世界は終焉を迎える。


「「「――――――」」」


 二対一の攻防。ローズと息を合わせた接近戦。


 得物は弾切れで、持ち合わせる武器は己の肉体のみ。


 俺は裏拳、ローズは足払いを放つが、男はバク転して跳躍。


 空振りに終わったが、敵は逆さの体勢で空中に留まり無防備状態。


「アレで決める!」


「望むところ!!」


 阿吽の呼吸で握り込んだ両手を差し出し、ローズは乗る。


 それ以上深く語り合うこともなく、後の展開は決まっていた。


「せー!!」


「のっ!!」


 掛け声に伴い両腕を振り抜いて、ローズは跳んだ。


 速度が損なわれることはなく、タイミングに狂いはない。


 木偶の坊を貫いた時よりも精度は増し、威力は段違いのはずだ。


「――――シャン、バラ!!!」


 右足を突き出し、勢い余るままにローズは告げる。


 恐らく、意思の力。思の丈を言葉にして、力に変える。


 目には見えないが、鬼気迫った声音と熱量に凄味を感じた。


 直線を描くように無防備な艦長へと迫り、跳び蹴りは衝突寸前。


 人間が反応できる速度じゃなく、起こるべき結果は目に見えていた。


「――チョモ、ランマってな!!」


 しかし、艦長は両足を開脚し、回転。


 見覚えのある技を放ち、真っ向から迎撃する。


 速さ比べでは劣ってねぇが、不可思議なことが起こる。


「……???」


 先に到達したローズは、フワリと停止する。


 低反発の素材に受け止められたように速度が落ちる。


「……ッッッ!!!!!」


 そこに襲い来るのは、艦長が放つ回転蹴り。


 ローズの側頭部に直撃し、地面へと墜落していく。


「ちっ――!!!」


 反射的に走り出し、落ちるローズをキャッチ。


 勢い余って操作盤に背中を打ちつけ、嫌な痛みが走る。

 

「…………」


 腕の中では、ローズが項垂れている。


 気絶したか死んだのか、現時点では不明。


 ただ、今ので即死は免れたと信じたいところ。


 マスクのバイザーが割れてたが、顔は見なかった。


 そんなことよりも、感情が向かう先は別の場所にある。


「てめぇ……。ガキの頭を本気で蹴るとか、どういう神経してんだ!!!」


「そのガキを酷使したのはどこのどいつだ。巻き込んだ時点で同罪なんだよ!」


 地面に降り立つ艦長と行うのは、生産性のない口論。


 原初の記憶が呼び起こされ、本部に向かった理由を思い出す。


『ボスの下に案内しろ。俺が直々に文句言ってやる』


 それが旅の始まり。ローズの護衛に協力したワケ。


 流されるがままここに辿り着いたが、当初の目的は違う。


(そうだ……。俺は元々、ローズに足を洗わせるために……)


「ようやく思い出したって面してるな。何が世界を救うだ。目の前にいる女の子一人救えないで、いけしゃあしゃあと文句を垂れるな!!!」


 畳みかけるように浴びせられるのは、罵声。


 心と感情がこもり、言ってることには一理あった。


『人類焼灼まで残り2分。繰り返す、人類焼灼まで残り2分――』


 そこで聞こえるのは、突入してから1分経過の合図。


 後にも先にも60秒がこんなに長く感じることはきっとない。


 濃厚すぎる情報に脳の処理が追い付かず、頭が真っ白になりかける。


「……関係ねぇよ」


 それでも立ち上がる。体は勝手に動き出す。


 大前提として、やらなければならないことがある。


 下半身の感覚がなかったが、今はそんなのどうでもいい。


「なんのために立ち上がる。今のお前を突き動かす原動力はなんだ」


 すると、不思議そうな顔をする艦長は理由を問うた。


 そこでようやく形が見える。目を逸らしてきた心の輪郭。


 『人類を救う』という表面的な問題に隠された、内面的な問題。


 恥ずかしくて口が滑っても言わないことだが、ヤツならいいだろう。


「――無償の愛だよ!!! こんちくしょうが!!!!!」


 世界が終焉に向かう中心地で響かせたのは、愛の告白。


 見ず知らずのガキの面倒を見たいという、過ぎた願望だった。

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