第13話 終焉へのカウントダウン
『発射シークエンス開始。人類焼灼まで残り5分。停止には機長及び副操縦士等の操縦スキルに関連する専門的な役職が必要。繰り返す。発射シークエンス開始。人類焼灼まで残り5分――』
飛行空母の甲板に響くのは、機械的なアナウンス。
目的とリミットは明確で、ご親切に解決手段も開示される。
行く手には大量の二足歩行兵器が立ち塞がり、機関銃の銃口を向ける。
「正面突破だ! 遅れるなよ、ローズ!!」
対するこちらの武装は、アサルトライフル一丁+ローズ。
向こうに比べたら見劣りするが、まともに取り合う必要はない。
「そっちこそ!!」
意図を理解したローズは、同時に駆け出し、正面に進む。
正面には艦橋に通じる扉があり、そこさえ突破すればよかった。
『『――――』』
真っ先に反応したのは、正面にいた二体だった。
大脳摘出済みで『迷う』という人間らしい感情はない。
重厚な機関銃の音をかき鳴らし、熱源を中心に発砲している。
「「…………」」
俺とローズは交差するように移動を繰り返し、接近。
走る地点をなぞるようにして、甲板に銃痕が刻まれていく。
実に機械的で、自動的。読み合いやフェイントもクソもなく単純。
「―――しゃら!」
「――くさいっての!」
俺たちは二体の股下を潜り抜け、機関銃の射程圏外に移動。
背面に銃撃と蹴撃を浴びせ、目の前にいた障害物を完全に破壊。
『『『『――――――――』』』』
次に立ち塞がるのは四体。数は先ほどの倍だ。
同じ戦法に固執すれば、蜂の巣にされるのは目に見える。
「「…………」」
俺とローズはあえて何もしなかった。
向けられる銃口におくびも見せず、前進した。
『『『『――――』』』』
四方にいる二足歩行兵器は、引き金に手をかける。
八丁分の機関銃を向け、今にも発砲しようとしている。
ローズはともかく、俺の運動能力じゃ回避はできない配置。
だが、一ミクロたりとも心配はしてない。俺が動くまでもねぇ。
「「「「――――」」」」
四体の二足歩行兵器の背後に降り立つのは、四名の人間。
出会って日も浅いレオナルド、ヴォルフ、ウィル、ロッキー。
それぞれが構えている得物は刀、拳、銃、爪という各々の最善手。
内から湧き出るのは絶対的信頼。わざわざ言葉をかけ合う必要もない。
「――人類を舐めんな。木偶の坊ども」
放つのは、自立できていると思い込んでる機械への言葉。
『『『『――――――ッッ』』』』
四体の機械は銃声を奏でることもなく、機能停止。
差し迫る脅威は排除され、艦橋に通じる扉が見えてくる。
『――――』
その正面には、一体の二足歩行兵器がいた。
すでに二丁の機関銃を撃ち始め、俺たちを狙う。
躱し、接近し、背面から襲うことも可能ではあった。
ただ恐らく学習済み。同じ手に甘んじれば痛い目に遭う。
――だからこそ。
「乗れ、ローズ!」
アサルトライフルを肩にかけ、差し出すのは握り込んだ両手。
「準備オーライ!」
意図を察したローズは、俺の両手の上に両足を乗せ、告げる。
その間にも銃弾が迫り、躊躇も遠慮も必要なく、両手を振り抜いた。
「――――」
ローズはレシーブの要領で、一直線に飛翔。
機関銃の死角に潜り込み、一気に距離を詰める。
軌道修正する隙すら与えず、やがてその時は訪れた。
『――――???』
二足歩行兵器の内から漏れ出るのは、電力の残滓。
人間でいう出血が伴ったものの、奴らには痛覚がない。
だから気付けない。胴体に大穴が開いたことが分からない。
「進路、オールクリア」
着地したローズは振り返ることもなく、勝利を確信する。
かつて歩行を可能にした二足の膝は崩れ、道は切り拓かれた。
◇◇◇
飛行空母『ガンダールヴ』内、艦橋。
空母の操縦を司る機能が備わったブリッジ。
そこで未来の機長らしき人物に迫られたのは二択。
――彼につくか、マフィアにつくか。
判断材料は皆無に等しく、彼の目的は分からない。
一方マフィアは、『ルチアーノファミリー再興』が目的。
どちらにせよ、目的達成の手段に用いられるのが空母だった。
「私は……」
限られた情報の中で、急いで決断を下そうとする。
あることないことを全て考慮に入れて、答えを言おうとする。
『発射シークエンス開始。人類焼灼まで残り5分。停止には機長及び副操縦士等の操縦スキルに関連する専門的な役職が必要。繰り返す。発射シークエンス開始。人類焼灼まで残り5分――』
そこで鳴り響いたのは、『ガンダールヴ』側のアナウンス。
彼の目的が明らかになった瞬間であり、内なる答えは決まっていた。
「私は機長の味方にはなれない。ルール違反どころか、人道に反している」
面と向かって下したのは、彼の行いの否定。
自分の信念と両者を天秤にかけ、偏りが出た結果。
「残念だ。苦楽を共にしたお前なら……分かってくれると思ったが」
「誰もあなたには共感しない。我々の……いいや、人類の共通敵だ」
心情を深く掘り下げることもなく、決別の意を伝える。
善悪の二元論で物事が成り立つなら、彼は『悪』そのもの。
耳を貸す意義はなく、何を言おうが理解できないに決まってる。
「お前目線の場合、絵に描いたような勧善懲悪ってわけか。自分の正しさを押しつけて、気に食わない相手を排除できればそりゃあ気持ちいいだろうな。お前のみならず、大衆は根底的にそれを求めてる。誰かをジャッジすることに快楽を見出している。それが娯楽として成り立ち、数々の物語として綴られた。……まぁ、文句も不平不満もないが、一言でいえば、浅いな。『白』と『黒』、『善』と『悪』、それで全ての問題が片付くほど、世の中、単純じゃねぇ。もし、お前らが俺を止められたとしても、後に気付くだろうよ。俺が正しかったと」
「話は終わりだ。エデン・キース。どんな理由があろうと、我々はあなたに耳を貸すことはない。誰かの賛同を得たわけではないが、あえて言わせてもらおう。……人類の代弁者として、我々『ルチアーノファミリー』は、お前を断罪する!!!」
世界が終わりに向かう最中、一人の男と対立する。
どちらが勝つかは不明だが、5分以内には決着がつくはずだ。




