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はじめての旅、そして戦い

「なんだか、ちょっと変な空気だな……」


 リュカは道端に転がる壊れた木箱を見つけ、しゃがみ込んだ。


「これ、誰かが……落としたわけじゃないよね……?」


 昼下がりの陽が差す小道。その先に見える村の入り口が、どこか静かすぎた。


 フィオナが、不安げに隣で立ち止まる。


「リュカ様……あれ、見てください」


 視線の先、村の家屋のひとつが、屋根を踏み抜かれていた。煙がうっすら立ちのぼっている。


「……あれって、やばいやつ……?」


 おっとりした声で言いながらも、リュカの足は一歩、前へ出た。


 でも。


「っ……」


 足元がすくむ。


(もしかして、魔物に襲われた? だったら、僕が行って……何ができるんだろう)


 村に入ると、破壊された柵、荒らされた畑、倒れた家畜たち――。


(本当に、やばい状況だった……)


 それでも歩き出したのは、誰かが泣いている声が聞こえたからだった。


 村の奥――広場のような場所に出たとき、リュカは見た。


 体高2メートルを超える四足獣。

 全身に黒い毛、鋭く伸びた爪と、赤く光る瞳。

 《クローグベア》

 Cランク以上の凶暴な魔物が、村人たちを追い詰めていた。


「逃げろ! もう槍が持たねぇ!」


「村長が……! 誰か、早く!」


 リュカの喉が、勝手に音を漏らす。


「ひっ……」


 背中に冷たい汗が流れる。手に持った棒が、震える。


(僕が行って……何もできなかったら?)


 足が動かない。


 だけど。


「リュカ様……行きましょう。あれ以上、犠牲が出る前に」


 フィオナの声に、リュカは我に返った。


「……そう、だよね」


(怖い。でも……)


 「僕がやらなきゃ、きっと誰も助けられないんだ……!」


 叫びながら、リュカは魔物の間に割って入った。


「こっちだーっ!!」


 一体のクラーグベアが、咆哮とともにこちらへ向かってくる。


(やばいやばいやばい!)


 棒を構える手が震えたまま、それでもリュカは前に出た。


「えいっ!!」


 足元へ滑り込み、魔物の腹へ思いきり突き刺す。衝撃が腕に伝わる。


「うわっ!? 跳ね返された!? 効いてる? これ……」


 魔物がうめいた。


「よかった……ちょっとは効いて……」


 安堵の隙を突かれ、前脚が振り下ろされる。


「うわっ、ちょ、まって――ぐぇっ!!」


 脇腹を打たれて地面を転がる。


「痛ったぁぁ……なんでこんな……!」


 だけど、起き上がる。


(僕が倒れたら、誰も……!)


 再び走る。


 棒を持ち直し、魔物の頭に全力で叩き込む。


 ――ぐしゃっ。


 その場に、魔物の巨体が崩れ落ちた。


「や、やった……の、か……?」


 リュカは膝をついて、荒く息を吐いた。


 でも、終わっていなかった。


 もう一体が、背後に迫っていた。


「リュカ様、後ろ――!」


 動けない。


 足が、石のように固まっていた。


(だめだ、もう……!)


 そのとき。


「リュカ様……!」


 フィオナの魔眼が光を放った。


 空気が震え、彼女の視線が鋭く定まる。

 彼女は地面の小石を蹴り飛ばす。


「これでっ!」


 高速で飛んだ石が、魔物の目元に命中した。


「グアアアアッ!!」


 魔物がひるんだ。


「今……今なら!」


 リュカは残った力を振り絞り、真上から棒を振り下ろした。


「おらあああああっ!!」


 骨が砕ける手応え。魔物の叫びが止み、崩れるように地面に倒れた。


「……はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」


 その場にへたり込むリュカに、フィオナが駆け寄る。


「無事で、よかった……!」


「う、うん……助かったよ。フィオナのおかげで……」


 そう言って、微笑んだ。


 村人たちが次第に集まってくる。


「お、お前……一人であいつらを……!」


「すごい……魔法も剣も持たずに……!」


「いや、僕……そんなつもりじゃ……」


 賞賛の声が飛ぶ中、リュカは困ったように笑う。


「僕、そんなにすごいこと……したかな?」


 でも、助けた命は確かにそこにあった。


 リュカは空を見上げる。


「怖かったけど、よかった……僕、逃げなかった……」


 その隣で、フィオナがそっと笑う。


「リュカ様は、やっぱりすごい方です」


「……そうかなぁ?」


 まだ自分では分からない。


 でも、それでいい。

 確かに僕は、この村を救ったのだから。


是非応援よろしくお願いします!

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