旅の始まりは常に孤独
初めての投稿になります!
たくさん更新していけたらいいなとは…!!
「次、リュカ=アーク」
神官の声が響いた瞬間、空気が変わった。
神殿の中心――神の石板を前に歩くその背中を、誰もがどこか冷ややかに見ていた。
「アイツか……どうせ雑魚スキルだろ」
「パーティーのお荷物だしな」
「ディランもよく我慢してたよなー」
そんな声が小さく漏れる。
(……いつもこうだ)
リュカは静かに一歩ずつ歩いた。
足元は震えていない。怖くないわけではない。でも、逃げたくはなかった。
彼の視線の先には、ディランの姿があった。
銀髪を撫でつけたリーダー格の少年。堂々たる立ち居振る舞い。
リュカの“幼なじみ”であり、今は“パーティーの主導者”。
その隣に立つのは、サラ。
弓使いの少女。昔はよく一緒に遊んだ。今は、目を合わせてくれない。
(僕は、ただみんなと一緒に冒険したかっただけなんだけどな……)
「さあ、手を。神がそなたの魂に宿した力を、今ここに」
神官の言葉に、リュカは石板に手を置いた。
眩い光が一瞬、彼の掌から走る。
そして――
【スキル:無意識強化】
石板に文字が浮かび上がった。
「……」
神官が言葉を失う。
次の瞬間、ざわめきが走った。
「なにそれ、聞いたことない」
「“無意識強化”? 意味わかんねぇ……」
「前にそれ出た奴、即ギルド落ちしたらしいぜ」
ディランが肩をすくめ、口元に笑みを浮かべた。
「……やっぱり、そう来たか。なあ、お前さ」
リュカが顔を上げると、彼は嘲るように笑っていた。
「何年一緒にいても、お前は変わらなかったな。結局、何の才能もねぇ“無駄飯食らい”じゃねぇか」
「……」
「俺はよ、Sランク目指してんだよ。最強のチーム作るって決めてんだ。お前みたいな“ゴミスキル”持ちを入れてる余裕、あると思うか?」
会場がしん……と静まり返る。
神官が言いづらそうに口を開く。
「……記録上、過去にこのスキルで名を上げた者はおりません。冒険者ギルドとしても……採用は困難かと」
「ギルドにも入れないってさ、リュカ。終わったな」
「……そっか」
リュカは、思ったよりも平静だった。
むしろ、肩の荷が下りたような感覚すらあった。
(……これで、みんなの迷惑にならない)
「じゃあ、僕は――」
「待てよ」
ディランが言葉を遮る。
「ギルドどうこうじゃねぇ。今日限りで、俺たちのパーティーからも追放だ」
「……え?」
一瞬、何を言われたか理解できなかった。
「追放って……僕、何かしたかな?」
「何もしてねぇからだよ」
ディランは吐き捨てるように言った。
「戦闘じゃ何もできねぇ。戦利品も取れねぇ。足手まといのくせに、俺らと同じ報酬を受け取ってた。今思えば詐欺だよな?」
サラが口を開きかけたが、睨まれて黙る。
「……ディラン、それはちょっと言いすぎ――」
「黙ってろサラ。お前も不満だったろ。コイツがいるせいで後衛が守りに回って、危ねぇ目に何度も……」
(そうだったのか……)
知らなかった。
気づけなかった。
――いや、気づかないふりをしていたのかもしれない。
リュカは、ぎゅっと拳を握りしめた。
「……ごめん」
小さな声だった。でも、ちゃんと届くように言った。
「僕、みんなと一緒にいられて嬉しかった。でも、迷惑かけてたなら……もう一緒にはいられないよね」
「やっとわかったか。おせぇよ」
「うん……今までありがとう。みんなの夢が叶うといいな」
リュカは、静かに一礼して、歩き出した。
誰もその背中を追いかけなかった。
神殿の扉が閉まり、外の光が差し込んだとき。
彼の姿は、静かに消えていた。
神殿を出たとき、空はもう夕暮れに染まり始めていた。
リュカは細い街道を一人歩く。
行き先は決まっていない。宿に泊まる金もない。
それでも、足取りはどこか軽かった。
(……なんだろう、ちょっと、ほっとしてる)
パーティーの中で、ずっと気を遣っていた。
戦闘中は誰かの邪魔をしないように。報酬のときは、なるべく少なくもらうように。
それでも「空気が読めない」と言われた。
(これで、誰にも迷惑かけなくて済む……かな?)
それでも、胸が少しだけ痛かった。
ギルドに入るのは、小さい頃からの夢だった。
街の英雄のような冒険者に憧れて、みんなで冒険者ごっこをして、サラに笑われたっけ。
(サラ、怒ってたのかな……それとも、呆れてただけ?)
わからない。けれど、確かに自分は、誰の役にも立てなかった。
リュカはため息をつきながら、地面に落ちていた木の棒を拾った。
「……ちょっと頼りないけど、何もないよりマシかな」
ふと、藪が揺れた。
「……!」
視線を向けた瞬間、黒い塊が飛び出してくる。
「グルルル……!」
牙をむいた四足の獣。筋肉質な胴体。赤い瞳。
《オーガウルフ》。
(まずい……!)
リュカは咄嗟に棒を構えた。両手でぎゅっと握りしめ、前に突き出す。
「こ、来ないでぇぇぇ!!」
――バシュッ!!
乾いた衝撃音が響いた。
気づけば、オーガウルフの身体は宙を舞っていた。
5メートル以上飛ばされて、木に激突。びくりとも動かない。
「……」
リュカはぽかんとした顔で、自分の棒を見つめた。
「えっ、なに、今の……当たった? ほんとに?」
彼は慎重に棒を振ってみる。すると、風圧で草が揺れた。
「……すごい、この棒、強い……のかな?」
何も知らずに、彼は呟く。
スキル《無意識強化》。
それは「自覚していない状態」での行動に、自動で身体能力・反応速度・攻撃力がブーストされるスキルと言われている。
発動者本人には、一切実感がない。
その異常さに、リュカはまだ気づかない。
夜。森の外れ。焚き火を囲み、リュカは石に座って空を見上げていた。
「はぁ……」
思い返せば、今日一日で人生が変わった。
スキルを授かって。ギルドを拒否されて。仲間に追放されて。魔物を吹き飛ばして。
「……ほんとに、僕、大丈夫かな」
問いかけても、答える者はいない。
でも――
「それでも……やっぱり冒険者として、やっていきたいな」
彼の声が、焚き火の音に重なる。
「今度こそ、誰かの役に立てるように。今度こそ、ちゃんと……仲間って呼べる人たちと旅ができたらいいな」
優しさも、諦めも、ほんの少しの希望も混ざった声だった。
彼の背に、まだ気づかれていない“力”が眠っていることを――
この時、彼自身だけが知らなかった。
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