表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/16

第六章 先手必勝!

"10時間後?

シャルルがシステムの時間機能を開くと、現在時刻は18時45分、7時近くだった。

システムを起動したのは6時半頃。今までたった15分しか経っていない。現実で無駄にした時間を除けば、シミュレーション内の時間はほとんど無視できるくらいだ。


【シミュレーションと現実には大きな時間差が存在します。ホストはシミュレーション時間が現実に影響することを、ほとんど心配する必要はありません^^】


システムメッセージが目の前で点滅し、説明が加えられた。


10時間後……ってことは、朝の5時前か。

シミュレーションの中では24時間活動できる。これだけ時間があれば、やれることはたくさんあるはずだ。


「システム。もし現実で精神的に疲れてる状態でシミュレーションに入ったら、どうなる?」

【ホストが強制的に睡眠を取らないよう自己暗示をかけた場合、シミュレーション内のホストも精神的に疲労した状態を引き継ぎます】

状態は引き継がれる、と……。


「もし、この時間を過ぎてもシミュレーションしなかったら?」

【『来たる日』のシミュレーション時間【聖暦741年6月18日4時45分】を過ぎてもシミュレーションが行われなかった場合、『来たる日』のシミュレーションは新しい時間にリセットされます】


シャルルは頷き、すぐさま方針を決めた。

まずは、まだ安全なこの部屋で計画を練る時間が必要。それから十分な睡眠をとって、最後に『来たる日』のシミュレーション期限が来る前に、シミュレーションを開始する。


今回のシミュレーションはめちゃくちゃ重要だ。これまでのあたしの最長生存記録になるはず。シミュレーション世界で死の結末を変えなきゃならない。もし結末を変えられなくても、何か大きな変化を起こして、もっと多くの運命ポイントを獲得しないと。


シャルルはメモ帳にあれこれ書きつけ、今ある情報を元に推測しては覆し、最適な解決策を見つけ出そうと試行錯誤した。

残念ながら、今のところ情報があまりにも限られている。それに、戦闘に関する知識なんてからっきしだ。計画を立てるのは一旦保留にして、小銭を持って外出し、露天商から短刀を一本買い取った。


帰り道、意識して観察していると、またあのキャスケット帽を被った背の高い痩せた人影を見つけた。メモ帳に書かれていた尾行者だ。夜になってもまだあたしを追跡している。


家に戻って短刀を鋭く研いだ後、それをシステム倉庫に入れようとしたが、失敗したと表示された。

その後、他のものを倉庫に入れようと試してみたが、全て失敗。

どうやら倉庫には、ポイントショップで購入したものしか出し入れできないらしい。シャルルは少しがっかりした。


できる限りの準備を終えると、シャルルはすぐに部屋に戻って横になり、目を閉じて、脳内でシステムシミュレーションを開始した。


「『来たる日』」


心の中で『来たる日』のシミュレーションを念じると、ぼんやりとした銀白色の光が視界に広がり、意識がその銀白色の空間へと引きずり込まれていく。


きらめく光を放つ秒針が高速で回転し、ある定位置で止まると、シャルルの視界から光が消え、次第に周囲の物体や温度を感じられるようになってきた。


【来たる日】

【聖暦741年6月18日4時45分】

【カウントダウン - 23:59:59】


目の前の銀白色の空間が消え、シャルルが今いる時間を示す淡い光のスクリーンだけが残った。

時刻は18日の午前4時45分。気力は十分だ。


灯油ランプには火をつけず、暗闇の中、抜き足差し足でベッドを降り、枕元に隠しておいた研ぎ澄まされた短刀を逆手に持ち、ゆっくりと部屋のドアを開けた。


そっと姉のリチィの部屋のドアを開け、彼女がまだ中で寝ているのを確認してからドアを閉め、階下へ降りた。


あらかじめ用意しておいた灰色の麻の服を着て、灰黒色のボロボロのマントを羽織り、フードを目深に被る。カーテンを少し開け、その隙間から外の様子を窺った。


夜明け前の通りに人影はない。この時間、どんなブラックな工場だって機械を止めているはずだ。通り全体が静寂に包まれている。


クロックタワー横丁には、夜通し灯りがついているような街灯はない。目が月の光に慣れてくると、向かいの路地の壁にもたれて座り込んでいる黒い影が見えた。

クロックタワー横丁には、ホームレスや孤児が掃いて捨てるほどいる。路地の入り口にそんな姿があっても、誰も怪しまないだろう。だが、顔を隠すために使っているその灰色のキャスケット帽が、彼の正体を示していた。


向かいで寝ているのは、ずっとあたしを尾行していた男だ。


情報を得るなら、彼が一番手っ取り早い相手だ。チンピラのエアンはブレイド・ソラリの居場所を知らないかもしれないが、この尾行者は絶対に知っているはずだ。


夜は更けていく。シャルルは短刀を手にドアを開け、静かに階段を下り、路地の方へと歩を進めた。

【器用さ Lv.1】の補助もあって、ドアの開け閉めも、足音も、ほとんど物音を立てなかった。


キャスケット帽で顔を隠した男の目の前まで、彼の軽い鼾が聞こえる距離まで近づいても、彼は気づく気配すらない。


幻のような銀白色の光がきらめき、シャルルの左手には既にリボルバーが現れていた。そして右手は素早く前方に突き出され、相手の下腹部に深々と突き刺さった。


ブスリ――。

生温かい血がシャルルの手に飛び散った。


「ぐっ……!」

激痛に、地面に座っていた男はエビのように体を丸め、顔を覆っていたキャスケット帽が地面に滑り落ちた。


彼は胸を押さえ、ハッとシャルルの方を見上げた。月明かりの下、赤髪の少女が、静かに銃口を自分に向けているのが見えた。


「静かにして」シャルルは静かに言い放ち、男と一定の距離を保った。

どこを刺せば致命傷にならずに行動不能にできるかなんて知らない。だから、一番柔らかそうな下腹部を選んだ。少なくとも、ここには即死に繋がるような臓器はないはずだ。


「ブレイド・ソラリはどこ?」


少女の落ち着き払った声に、男の顔が微かに引きつった。特にその名前を聞いたとき、彼の目には明らかに動揺と驚きの色がよぎった。


「あの教徒はブレイドを騙した。儀式は偽物よ。彼の居場所を言えば、命だけは助けてあげる」シャルルは淡々と、声のトーンを一切変えずに述べた。

これは、手持ちの情報からでっち上げたハッタリだ。相手が自分より多くのことを知らないことに賭ける。そして、相手が命を惜しむことにも。


目の前の赤髪の少女が持つ、血滴る短刀と左手のリボルバーを見て、男は歯を食いしばり、しばらく躊躇った後、ついに抵抗を諦めた。


「奴は……黒水バーだ。東通りの……ここ二日、ずっと……ゲホッゲホッ……そこに……」男の声は次第にか細くなり、途切れ途切れに言った。


彼が言い終えた瞬間、カチッ、と澄んだ音が響いた。リボルバーの撃鉄が引き起こされる音だ。


「嘘で命は買えないわ。私の慈悲も、無駄だったみたいね」

シャルルの平静な顔に、一瞬「怒り」が浮かんだ。左手の人差し指が引き金にかかり、一歩前に踏み出すと、男は苦痛に顔を歪めながらも必死に後ろへ這いずった。


男はその光景に目を見開き、震えながら命乞いを始めた。最後には声もかなり大きくなり、涙声さえ混じっていた。

「ちが……嘘じゃねぇ……ゲホッ、ゲホッ……本当だ!奴は本当に東通りの黒水バーにいるんだ!」


シャルルの動きが一瞬止まる。それからゆっくりと撃鉄を下ろし、左手のリボルバーで路地の奥を指し示した。「消えな。二度と私の前に現れないで」


「あ……ありがてぇ……」男は体を支えて立ち上がり、壁に肩を預けながら路地の奥へと歩き出した。慌てた足取りで、何度もよろめきながら。


10メートルほど進んだところで、男はようやく勇気を振り絞って振り返った。路地の入り口にはただ皎々たる月光があるだけで、あの少女の姿はもうどこにもなかった。


男は激しく喘ぎ、しばらく息を整えた後、勢いよく自分のシャツを引きちぎり、丸めて腹部の傷口に押し込んだ。流れ続ける血をなんとか止めようとしながら。

傷口を服で押さえ、片足を引きずりながら反対側から路地を出る。もう一度振り返って誰もいないことを確認すると、素早く左に曲がり、西通りの方へと走り去った。


だが、彼は全く気づいていなかった。屋根の上に、黒いマントに身を隠した影が、つかず離れず彼を追っていることに。


いくつもの路地を抜け、灯りが点り、「鉄槌」と書かれた看板の酒場が見えたとき、彼は思わず速度を上げた。最後の力を振り絞り、酒場の方へと走る。


「もうすぐだ……もうすぐ……ブレイドの旦那が医者を呼んで治してくれる……」意識は既に朦朧とし、失血で唇は真っ白だった。彼はぶつぶつと呟きながら、希望の光へと必死に進んだ。


ドン……。

隣の路地から、重い物が落ちる音が聞こえ、彼は反射的に暗い路地へと顔を向けた。


暗闇の路地から、血に濡れた短刀を握る手が伸びてきた。その手は微かに持ち上がり、彼の絶望に満ちた視線の中、真っ直ぐにその喉元へと突き立てられた。


「ぐ……ぅ……」

衰弱した男は助けを呼ぶ声すら上げられず、その体は重々しく地面に倒れ込んだ。呼吸音は、気管が裂け、血と泡が混じったブツブツという音に取って代わられた。


そして彼の死体は、一点、また一点と、暗い路地の中へと引きずり込まれていく。まるで影の中に潜む、名状しがたい何かが獲物を引きずるように。


ズブリ、ズブリ、と肉を貫く鈍い音が数回響いた後、通りは再び静寂に包まれた。


20秒余り後、一人の赤髪の少女が影の路地から姿を現した。左手には血塗れの短刀を、右手にはハンカチを持ち、顔についた血を拭っている。


路地を出たシャルルは、僅かに顔を上げ、まだ悪臭の混じる、血の匂いのしない空気を深く吸い込んだ。だが、その目はどこか虚ろだった。


メモ帳の中では一度エアンを殺したけれど、今回が、あたしが本当に、自分の手で殺したのは初めてだった。

たとえシミュレーションの中だとしても、血飛沫が顔にかかる感覚はこんなにもリアルで、血を拭っても、鉄錆のような生臭い匂いが鼻について離れない。


「あたしはただ、平穏に生きたかっただけなのに……」

「できるだけ、誰にも関わらないようにしてたのに……」

「どうして、あなたたちはあたしに目をつけたの……」

「この平穏を、壊してまで……」


少女は囁く。特定の誰かを問い詰めるというより、運命か、あるいは神か、何か大きな存在に問いかけているようだった。


しばしの沈黙の後、彼女は血に染まったハンカチをしまい、いつの間にか左手には黒いリボルバーが現れていた。シャルルは銃を手に、ゆっくりと鉄槌酒場の方へと歩き出した。"


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ