太陽は見守る。
私が朝、顔を出すと、みんなが喜ぶ。
「今日も日差しが気持ちいい!」
と、中学校の制服を着た女の子が、私から発せられる光を身体に浴びながら、爽やかな笑顔を見せる。
昨日、この街には雨が降ったから、アスファルトに私の光が反射して、キラキラ光っている。
住宅街にある木造アパートの二階から、老婆がゆっくりと現れて、私の姿を見ると、何か思いついたのか、部屋の奥にすぐに入った。
数十分後、洗濯物が入ったプラスチックのカゴを持って戻ると、それを干し始めた。
五十代くらいの男の人が、陰気な顔をして、ビジネスバッグを持ちながら、トボトボと河川敷を歩いている。
「また部長に怒られるかなぁ……」
男性はため息をついた。
すると、どこからか桜の花びらが飛んできて、男性の頭に引っかかった。
それに気づき、指でつまんで私の光にかざす。
「綺麗だな」
男性は少し笑い、花びらをそっと上着のポケットに入れた。
彼は花びらを、部長との打ち合わせの時間までずっと持ち続けていて、思ったほど怒られなくて済み、安堵したようだ。
私に照らされた花びらの事を、しばらく覚えていてくれたら、嬉しい。
夕方になり、地球の大気というフィルターに通された私の光は、オレンジ色に変わっている。
私に向かって走ってきている、中学生の野球部員が十人ほどいて、楽しそうにはしゃいでいた。
制服を着た中学生の女の子が、私の光を浴びて、
「あたしの制服、オレンジ色になってる! どう? どう?」
と、友達の女の子に自慢している。
友達の子は、
「美術部員は、やっぱり物の見方が違っていいね」
その場でクルクル回って踊る美術部員の友達を、羨ましそうに見ていた。
その女の子二人が通りかかったアパートの二階では、老婆が洗濯物を片付けていて、女の子たちが楽しそうにおしゃべりしているのを聞いて、
「たまには、ちーちゃんに連絡とってみようかしら」
ゆっくり窓を閉め、固定電話のボタンを押し始めた。
私の光が眩しくて画面が見にくいのか、顔を電話に近づけたり離したりして格闘していたものの、諦めたように、白くて薄いカーテンを引いて、再び部屋の奥にいなくなった。
会社から出てきた五十代くらいの男の人は、ポケットから桜の花びらを取り出すと、
「今日はありがとう」
私に向かってそれをかざし、そっと指を離した。
花びらは、涼しい春の風に乗って、どこかへ飛んでいった。
この国が夜を迎えても、私の仕事は続く。
なぜなら、ある国では子どもが私の光が目に入ってベッドから起き上がり、またある国では昼間の日差しを浴びながら若い女の人が散歩をし、またまたある国では、私のオレンジ色の光をバックに、カップルがキスをしているのだから。