表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

太陽は見守る。

作者: 和田喬助

 私が朝、顔を出すと、みんなが喜ぶ。


「今日も日差しが気持ちいい!」


 と、中学校の制服を着た女の子が、私から発せられる光を身体に浴びながら、爽やかな笑顔を見せる。


 昨日、この街には雨が降ったから、アスファルトに私の光が反射して、キラキラ光っている。


 住宅街にある木造アパートの二階から、老婆がゆっくりと現れて、私の姿を見ると、何か思いついたのか、部屋の奥にすぐに入った。

 数十分後、洗濯物が入ったプラスチックのカゴを持って戻ると、それを干し始めた。


 五十代くらいの男の人が、陰気な顔をして、ビジネスバッグを持ちながら、トボトボと河川敷を歩いている。


「また部長に怒られるかなぁ……」


 男性はため息をついた。

 すると、どこからか桜の花びらが飛んできて、男性の頭に引っかかった。

 それに気づき、指でつまんで私の光にかざす。


「綺麗だな」


 男性は少し笑い、花びらをそっと上着のポケットに入れた。

 彼は花びらを、部長との打ち合わせの時間までずっと持ち続けていて、思ったほど怒られなくて済み、安堵したようだ。

 私に照らされた花びらの事を、しばらく覚えていてくれたら、嬉しい。


 夕方になり、地球の大気というフィルターに通された私の光は、オレンジ色に変わっている。


 私に向かって走ってきている、中学生の野球部員が十人ほどいて、楽しそうにはしゃいでいた。


 制服を着た中学生の女の子が、私の光を浴びて、


「あたしの制服、オレンジ色になってる! どう? どう?」


 と、友達の女の子に自慢している。

 友達の子は、


「美術部員は、やっぱり物の見方が違っていいね」


 その場でクルクル回って踊る美術部員の友達を、羨ましそうに見ていた。


 その女の子二人が通りかかったアパートの二階では、老婆が洗濯物を片付けていて、女の子たちが楽しそうにおしゃべりしているのを聞いて、


「たまには、ちーちゃんに連絡とってみようかしら」


 ゆっくり窓を閉め、固定電話のボタンを押し始めた。

 私の光が眩しくて画面が見にくいのか、顔を電話に近づけたり離したりして格闘していたものの、諦めたように、白くて薄いカーテンを引いて、再び部屋の奥にいなくなった。


 会社から出てきた五十代くらいの男の人は、ポケットから桜の花びらを取り出すと、


「今日はありがとう」


 私に向かってそれをかざし、そっと指を離した。

 花びらは、涼しい春の風に乗って、どこかへ飛んでいった。



 この国が夜を迎えても、私の仕事は続く。

 なぜなら、ある国では子どもが私の光が目に入ってベッドから起き上がり、またある国では昼間の日差しを浴びながら若い女の人が散歩をし、またまたある国では、私のオレンジ色の光をバックに、カップルがキスをしているのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ