たくみ視点
俺にしとけば、って何度言いかけたかわからない。
俺だったら、ちゃんと受け止めるし、そんな顔させない。
たくさんかわいいって言うし、ちゃんと好きだって伝える。
ゆいこがひろしに言ってた以上に、ストレートにきちんと言葉にしてやる。
でも、ゆいこが好きなのはやっぱりひろしだ。
ゆいこの想いが叶ってふたりがくっつくのなら、それが一番だってそう思っていた。
俺が好きになったのは、ひろしをどこまでもまっすぐに真正面から見つめるゆいこだったから。
だけど、いつまで経ってもゆいことひろしは進展しない。
せっかく仕方ないよなって諦めようとしていたのに。
ひろしにも付き合うとかそういう考えはないのか確認してみたけど、今までと同じような返答だった。
……もういいんじゃないか。
ゆいこはそろそろ限界だ。ずっとなにかを諦めたような顔をしている。
俺が諦めたのはそんな顔をさせるためじゃない。
俺じゃ本当の意味でお前を笑顔にはできないのかもしれない。
俺じゃだめかもしれないけど、それでも今のこの状態をなんとかしたかった。
俺は賭けに出ることにした。
どこかで読んだ漫画で、最愛の人は自分ではなかったけど最終的には自分を選んでもらう話があった。老夫婦の話で、奥さんはボケて旦那さんのことを若い頃に死別した初恋の人だと思い込んでいる。旦那さんはその初恋の人として振る舞おうと奮闘する。けれど最終的には自分だと思い出してもらえて、最愛の人の代役にはなれなかったけど、積み重ねた時間は嘘ではなく、あなたと居てずっと幸せだったと言ってもらえる話。
俺はこれを目指せば良いんじゃないかと思った。
ゆいこがひろしのことをまだ好きでも、忘れられなくても、これから先は俺がずっとそばに居て、俺との時間を積み重ねていけば、最後に思い出すのは俺になってるはずなんじゃないかって。
俺との時間は、きっとゆいこにとってはひろしといる時ほどときめく思い出にはならないだろう。
それでも、ひろしには敵わなくても、穏やかであたたかな俺との記憶をたくさんたくさん増やしたら、ゆいこが人生を振り返ったときにゆいこの隣に居るのは俺になってるはずだろ?そうだって信じたい。
恋は落ちるものだとよく聞くけれど、特別は自分で決めるものだと俺は思っている。
俺の特別は、ゆいこ。ただひとりお前だって決めている。
ゆいこの特別は今はきっと俺じゃない。でも、特別というものが自分の意志で決めるものなら、俺が立ち入る隙もあるはず。いつか俺のことをお前にとっての特別にしてみせる。
「なあ、もうやめねぇ?気づいてるんだろ。
お前最近ひろしのこと話すときずっと辛そうな顔してるぜ。今まではずっと『ひろしがひろしが』って楽しそうにしてたのにさ。もう楽しさよりも苦しさが勝ってるんじゃねえの。
もう十分がんばっただろ。そんなに苦しい思いまでしてしがみつく必要があるのかよ。」
ゆいこが悲しげにこちらを見る。
でも、俺を見てもらうためにはもう諦めろって突きつけるしかない。
「……俺にしとけば。ひろしを忘れるための踏み台として思ってくれたっていい。
けど俺はずっとお前のことが好きだったよ。
これ以上お前が傷ついていくのを黙って見ていたくない。
ゆいこはかわいいし、誰がなんて言おうと一番だ。俺はゆいこが良い。
………俺はゆいこが好きだよ。俺と付き合って。」
これはきっと、ゆいこがひろしに言ってほしかった言葉。
ひろしじゃなくてごめんな。
俺が一番じゃなくても良い。それでも良いから、
俺を選べ、ゆいこ。
トライアングルを崩すに至る経緯、みたいなものを書きたかった…
ひろしが好きなこともすべてひっくるめてゆいこを愛していくという宣言みたいなイメージで書こうとしたら結構たくみが強くなってしまいました。不安と切なさはどこへ…
たくみ視点は制服を絡められませんでした!もはやUではない…(笑)