第61話 エピローグ
アッシュとシャム・シェパードは、二人きりで何某か打ち合わせしたようだ。
四人で話しているとシャム・シェパードを連れたアッシュが現れ、
「話がついた。これからはオーロラ・サウスとして転入することになる。後見人は俺ね。たぶん、今のサウス家の当主がお家乗っ取りを企んで彼女と彼女の両親を襲ったんだと思うけど、裏を取ってないから調査結果しだいかな。本人が復讐したいそうだから、実力をつけるまでターゲットの処遇は保留。ここまではいい?」
「「「「ラジャー」」」」
四人が敬礼する。
それを見て、シャム・シェパード改めオーロラ・サウスは呆れたようだった。
「……まだ傭兵気分なの? そんなんで、学生として馴染む、なんて本気で考えてる?」
と呟いているが、全員無視する。
アッシュがさらに続けた。
「で、彼女は男子に擬態していた女子だから、転入後は女子寮で、クロウとジェシカの部屋に入るから」
「はァ!?」
ジェシカが素っ頓狂な声で驚く。
そして、殺意のこもる目でオーロラ・サウスを睨んだ。
「うわぁ、ウザ……。私、お邪魔虫だからって理由で殺されたりしない?」
と、オーロラ・サウスが辟易したように言った。
再度転入したオーロラ・サウスはオドオド君の仮面を捨て去り、紳士的な仮面をつけて接している。
あまりに素でいると、サウス家当主となる際に『当主の資質に問題あり』というつまらない言いがかりをつけられるかもしれないということだ。
そのせいか、非常に受けが良い。
彼女ならば、といって他小隊のチームから勧誘がくるが、オーロラ・サウスは「記憶が戻った際の後遺症があって、まだ万全ではないので馴染んだチームにいたいんだ」と丁寧に辞退している。
ジェシカは外ヅラよくふるまうオーロラ・サウスを見て最初は呆れたが、ハタと気付いたように、
「あの子があれだけ社交的に出来るなら、もう私は普通にふるまっても良くない?」
と言いだした。
ジェシカとしては、周りがやらないので自分が社交を頑張っていただけだ。出来る者がいるのなら全面的にお任せしたい。なんなら話すのはクロウだけでいい。
キースとリバーが顔を見合わせたので。
「何よ?」
とジェシカが尋ねた。
「……でも、アイツが相手してるのって女ばっかじゃねーか?」
「ジェシカは男子担当だろう? 女子は俺が受け持っていたから、彼女に任せて地を出していいのは俺の方だ」
「勝手に決めんな!」
ジェシカが憤る。
周りに気を遣うという性格から周囲ににこやかに優しく接しているだけで、本来は短気で心的外傷もあるから、興味のカケラもない奴から興味のカケラもない話を聞かされるのは苦痛だったりするのだ。
クロウがポンポンと、ジェシカの背中を叩く。
「諦めて、相手してやれ。このメンツではジェシカしか出来ないぞ」
クロウも、どちらかというと女子に人気が高い。ジェシカがいないときは女子に構われている。……それがよりいっそうジェシカがよけいな社交で男子を相手にしたくなくなる所以なのだ。
「やだーっ!」
ジェシカが叫んだ。
「それはともかく」
女子に囲まれるオーロラ・サウスを見ながらクロウが語る。
「オーロラ・サウスの話題はあっという間に広がるだろう。なかなかに人気が高いし、サウス家がどの程度の勢力を誇るかわからないが、彼女が当主になることを期待して動く連中も現れるだろうし、それを危機と受け取り画策する連中も出てくる。また、暗殺者部隊が粛清にセントラルに現れる可能性も高い。イベントが目白押しだ」
まったく楽しそうな表情ではないのに声だけ弾ませるクロウを見て、三人がオーロラ・サウスに視線を向ける。
「ちょっと、同情しちゃうかも?」
「同感だ」
ジェシカとキースが言うと、リバーが肩をすくめた。
「むしろ、救われたことを感謝して率先して囮になってくれるだろうさ。殺しにきた相手に救われるなんざ、エリアじゃ絶対にねーからな。せいぜい張り切って集客してもらうさ」
「アレだな。『恩返し』というヤツか」
クロウが真面目くさって言うので、三人が「言えてる!」「なるほどな」などと同意し、あっはっはと笑った。
*
――僕は、笑顔で隊長たちに手を振りつつ、通信回線をオンにした。
『……聴こえてんだよッ! この外道どもッ!』
僕、こんな連中と一緒で無事にこの学園でやっていけるのかな!?




