第60話 作戦決行 ③
クロウはずっとシャム・シェパードに足を絡めしがみついたまま、身動ぎ一つせずにいた。
アッシュはシャム・シェパードを抱えたまま、真剣な顔でクロウを見つめ続けている。
ジェシカは、叫び出しそうなほどに震えながらクロウを見つめ、ジェシカの両脇でリバーとキースがジェシカを気にかけつつ周囲を警戒する。
どのくらい経ったのか――長いようで短いような時が過ぎ、急にクロウがシャム・シェパードに刺さっていた線を抜いた。
「よし、うまくいったぞ。シャム・シェパードを私の制御下においた」
顔色一つ変えずに声だけ弾ませてクロウは言った。
アッシュは思いきりため息をつく。
「クロウ!」
ジェシカはクロウが無事なことを喜びクロウに抱きつき、リバーとキースはやれやれといった顔をしている。
「校舎には侵入者なしだ」
「もちろん、近寄る奴も一人もいなかったぜ」
キースとリバーが交互に報告する。
アッシュはうなずくと、クロウをジェシカに預け、手際よくシャム・シェパードを拘束した。
「目を覚ましたら話してみよう。……ああそうだ、アッシュ。シャム・シェパードの記憶をさらったら面白い情報が出てきたぞ。コイツもアッシュと同じで、もともとセントラルの生まれだ。さらには同じ手口でフロンティアに移された。コイツの場合は両親ともに襲撃され、親子で放り出されたな。両親はコイツをかばい、ひどい怪我を負っていたからフロンティアに放り出されてすぐ死んだだろう」
クロウの淡々とした語り口に合わない凄惨な内容に、皆が硬直した。
しばらく全員が黙った後、アッシュがクロウに尋ねた。
「シャム・シェパードの実名はわかるか?」
「照合してみよう」
クロウは住民管理システムにハッキングし、照合する。
「オーロラ・サウスというのが実名だ」
アッシュは大きなため息をついた。
「……シャム・シェパードに使い途が出来た。クロウが玩具にしようと企み生け捕り作戦を主張していたのが幸いしたな……。コイツはこちらに引き込んでおいた方が、ここでの生活がやりやすくなる」
四人が顔を見合わせる。
眉をしかめたのはジェシカとキースだ。
「クロウの玩具にするのは賛成だけど、引き込むのはどうかしら? 暗殺者に情なんかないでしょ?」
「ジェシカに同意する。アッシュの知り合いかもしれないが、本気で殺しにかかってきた奴を許しても、また裏切るぞ」
口々に反対する。リバーは賛成した。
「使い途があんならむやみに殺す必要ねーだろ。殺したら使えなくなっちまうんだからよ」
「リバーの言うとおり。オーロラ・サウスが生きてるから使える手なんだよ。……とはいえ、もちろんこちらの安全第一だ。クロウ、制御出来るんだな?」
「処理しようと思えばいつでも処理出来るぞ」
と、クロウが言ってのけたのでジェシカとキースもしぶしぶ同意した。
目を覚ましたシャム・シェパードは見た目も違えば中身も違った。
おどおどしていたのは完全に演技で、手負いの猛獣のように敵意をまき散らしている。
キースやジェシカは最初眉をひそめたが、会話を聞くうちにだんだんとそれが虚勢のようなものに感じられてきたため、二人も今回は勘弁してやろうという気になってきた。
それは、今ここにいる全員、不運に見舞われたが運が良かった、ということをシャム・シェパードで思い知らされたからだった。
襲われ、裏切られ、死にかけたところをレベッカに拾われたこと、それは奇跡だった。
拾われてなかったら死んでいたが、拾われたのが暗殺者部隊だったら目の前でキレ散らかしているシャム・シェパードのように、利用され失敗したら粛清されるだけの駒にされていたのだ。
以前はそんなことを考えることなどなかった。
ひたすら敵を倒すことだけを考えていた。
クロウの言うように、セントラルの学園で過ごしているうちに平和ボケしたかな、とキースはぼんやりと考えた。




