第47話 転入して数日後
シャム・シェパードが転校して一日目が過ぎた。
「面白いことを言ってたよ」
小隊室で四人と会ったアッシュが笑いながら言った。
「やりとりを傍受してたクロウから、『奴が暗殺者だ』って聞いたけど……」
ジェシカが戸惑いつつつぶやいた。
「何が面白かったんだ? 俺たちもクロウ経由で聞いたけど、単なるオドオド君じゃねーか。演技だったらそうとうだぜ」
リバーもわけがわからないと言った感じで言った。
「『魔術特科を落ちたから、防衛特科の編入試験を受けさせられた』と言っていた」
クロウが言うと、アッシュがまた笑い、尋ねた。
「お前ら、魔術特科の連中をどう思う?」
「大した実力もねぇくせに、自分たちがサイコーだと思ってるクズ連中」
「魔術至上主義というより、魔術特科至上主義だな」
「特に防衛特科を目の敵にしてるわよね」
三者三様だが、似た意見を言う。
「そう。連中は大した実力もないわりに自分の実力を過信している魔術特科至上主義で、特に防衛特科を目の敵にしているんだ。そこを受験した奴が、受験させた親が、防衛特科に空きができたらって防衛特科に転入させる? ――絶対にあり得ないだろ」
「「「あ」」」
アッシュの指摘に三人がようやく気づいた。
クロウがうなずく。
「どうやら相手は長期戦で挑んでくるらしい。あの姿を見るに、そうとうの手練れか暗示をかけられている捨て駒かのどちらかだ。今日明日では狙ってこないだろう。ナンバー99小隊に入れた教官も仲間かもしれないので私が調べておく」
と、クロウが締めくくった。
シャム・シェパードが転校して数日後、しびれを切らせたリバーがキレた。
「先手必勝で殺っちまえばよくねーか?」
ジェシカとキースが呆れた顔をした。
「さすがに無理だろう。死体の始末はどうする気だ」
「それもあるけど、転校生が急に行方不明とか、さすがにいろいろ疑われるわよ」
二人が口々に言い、クロウもうなずいて二人に同意した。
「さすがの私でも今シャム・シェパードを消すとなると難しい。消えてもおかしくないという状況を作ってからでないと、いろいろ調べられるな。特に私たちは嫌われている。執拗に狙われ、下手をしたら嵌められるだろう」
クロウが諭すように言うと、リバーが激しく舌打ちした。
「……一番気に入らねーのは、アッシュを狙ってる殺し屋が同じ小隊に入ってくるってコトだよ。なんで俺たちがあんな野郎相手にコソコソ隠すような真似をしなきゃなんねーんだ。せめて、敵のチームに入れろよ」
アッシュは首を横に振った。
「無理だ。首位チームなら今まで訓練してこなかった転校生が入ってもカバーできるだろう、という意見は教官たちどころか学園長まで意見を一致させているし、俺もそういう理由を出されると反論できない。『入れたくないから』っていうお前のワガママで拒否はできないんだよ」
それを聞いたリバーが顔をしかめた。
クロウが意見を述べる。
「むしろ、同じチームに入れた方がいろいろ探ることができる。どうやら誰かがジャミングをかけているようで、学園のネットワークだけではシャム・シェパードのブレインを探ることができなかった。小隊のネットワークに入ってもらうことで、情報が得やすくなる」
アッシュが苦笑した。
「つまり、教官たちの使っている盗聴ウイルスに乗っかって探るってこと?」
――本来、各小隊のネットワークは小隊とその教官のみでつながっているはずだが、ナンバー99のネットワークには盗聴ウイルスが仕掛けられていて、ほぼすべての教官に傍受されているのだった。クロウはそれがわかっているので傭兵部隊のときに使っていた固有のネットワークを再構築し専用回線を作りあげやりとりを行い、学園の小隊用のネットワークにはブラフの情報のやりとりを行って騙している。
当然、大っぴらに盗聴されていることをシャム・シェパードは知らない。ゆえに、小隊のネットワークにアクセスしたらその盗聴ウイルスを使って、一気にブレインを探るつもりだった。
「そうすれば、足がつかない。すべては教官たちの仕業だ」
ジェシカが口笛を吹く。
「ぜひとも『教官たちにブレインを探られた~』って訴えてほしいわねー」
「無理だろう。通常なら探られたことすらわからないだろうからな」
キースが真面目に返した。
教官たちの使っている盗聴ウイルスは、正確にはウイルスでなく仕様だ。そうできるようにあらかじめ作られている。ゆえにウイルスとして検知できないのだ。