第29話 アッシュとの対談
「クロウ。だから何度も言っているとおり、俺もコイツらもそんなサイコパスじゃないんだって。平和ボケしてもいいからなるべく安全に生きたいんだよ、俺は。わかってくれる?」
その声とともにアッシュ・ウェスタンスが部屋に入ってきた。
隊長は首をかしげるが、否定も肯定もしない。……というか、わかってないんじゃないかな、アレは。アッシュ・ウェスタンスもそう思ったらしく、肩を落としてため息をついたが、すぐ気を取り直した。
「あとは俺が話をつけるから、いったん出てくれ」
アッシュ・ウェスタンスが合図をすると、全員が部屋の外に出た。
アッシュ・ウェスタンスが私に向き直る。
「さて。君の処遇だけど……ま、同情するべき点があるのでクロウが言ったように今回は見逃そうと思う。別に俺はサイコパスじゃないし、暗殺者が次々に襲いかかってくるような未来を歓迎したくはないんだけど、もう二度と油断したくはないんだ。勘を常に磨いておかないといけないから、利用させてもらう。クロウが襲われるかもしれないっていう緊張感は、何より俺を引き締めるからな」
私は思わず安堵の息を吐いた。この先、どういう道を選ぶかわからないけど、こんな中途半端な状態で死にたくない。
……そういえば私は、自分が死ぬことについていっさい考えたことがなかった。もっと言うなら考えたくなかった。常に死ぬかもしれない状況だったから。
「あ、今後は女子寮のほうに行ってね。傭兵部隊では男女関係ないんだけど、ここはセントラルの学園だから。男女の区別をしているから寮を移ってほしいんだ、お嬢さん」
私はアッシュ・ウェスタンスの言葉に思わず身動ぎしてしまった。
なぜ私が『女性』だとわかったんだ?
……そう顔に出てしまったのか、アッシュ・ウェスタンスは私を見て軽く笑うと説明した。
「あぁ、なんでわかったのかって? ――俺のこの眼、有機機械化してるんだけど特殊な機能があって、どこが有機機械かってわかるんだよ。君、ソコを有機機械で男性用に偽装してるでしょ? 不慮の事故で怪我を負ったのも考えられるけど、セントラルの人間は有機機械化を好まないし、技術もエリアより格段に落ちる。……で、よく観察したら骨格が女なのに気がついたんだ」
私の瞳孔が開いた。
なんてことないように言っているけど、かなり変態行為だと思うけど!
そう思ったけど、アッシュ・ウェスタンスの顔は冷めていた。
冷たい銀色の瞳が私を見つめる。
「セントラルじゃいい材料が手に入らないから気にしなくてもいいんだけど、エリアは別だろ? なにせ、下手すりゃ腕利きの揃った傭兵部隊が壊滅に追い込まれるようなアンノウンがザクザク出るからさ。もしも君が相性のいい強個体を手に入れて部分的に有機機械化している場合、その有機機械化している箇所は特殊な技能がついている可能性がある。そうなると、多少厄介だからね」
……何を言っているかわからない。
それがわかったのか、アッシュ・ウェスタンスは笑った。
「ま、君は暗殺部隊だからその可能性は低いか。アンノウン討伐をメインにしていたうちの部隊とは違って、強個体は手に入りにくいだろうし、入っても相性の問題がある。というか、そんな個体に出遭うのは、向こうが襲ってきたときだけだもんな。対人特化の暗殺部隊じゃ手に負えないか」
その顔、その瞳を見て唐突に理解した。
――こいつ……いやこいつら全員、身体のどこかを有機機械化しているのか。しかも、強化して特殊技能をつけているのか。
対アンノウンの傭兵部隊は有機機械化しているやつが多いとは噂に聞いていたが、本当だったとは。
そして、唐突に思い至った。我らが隊長のことを。
あまりにも人形めいた容姿。二つのブレイン。彼女は……いったいどこまで有機機械化しているんだ?
「隊長は……大丈夫なんですか?」
ふと洩らしてしまったら、アッシュ・ウェスタンスの眉がピクリと動いた。
「…………とぼけようかと思ったけど、無意味か。大丈夫かどうかはわからないけど、現状は生きている」
そう言うと、アッシュ・ウェスタンスは初めて顔を逸らす。
「……俺が一番彼女に近い。かなりの部分を有機機械化しているが、それでも彼女には及ばないし、俺が普通に生きているんだから彼女も大丈夫なんだと信じたい」
恐らく全身を有機機械化して、明日はどうなるかわからない身体で生き続ける少女。
アレが彼女本人かもわからず、それでも彼女を守る彼等。
……あぁ、だからあのセリフか。いつまで生きていられるかわからないって言ったのは、そういうことか。




