第28話 身の振り方
「……私をどうする気だ?」
たとえなぶり殺しにされようとも、私は自ら死ぬ気などない。
コイツらを愉しませる結果になろうとも、私は生きている限り抵抗する。寝首をかく隙をうかがい続ける。
そう思いながら尋ねたら、クロウ・レッドフラワーはまた首をかしげる。……この子、マジ機械人形のようで怖いんだけど。
「決めるのはお前だ、シャム・シェパード。依頼は現在失敗だが、完遂するまで挑むか、諦めて今後の身の振り方を考えるか。そのあたりが妥当かと意見する」
クロウ・レッドフラワー自身は殺す気はないようだ。
「俺たちの出方を聞きたいんじゃないか?」
と、キース・カールトンが指摘した。
キース・カールトンを見てクロウ・レッドフラワーはうなずく。
「なるほど。それは君の出方次第で対処が変わるが、生死にかかわるところであれば、次にアッシュ他、99小隊のメンバーを狙う素振りを見せたら殺す。それ以外なら、殺すことはないだろう」
クロウ・レッドフラワー隊長は私を直視し、言い渡した。
――こう言われたとき私は、気づきたくない気持ちに気づいてしまった。
私も楽しんでいたのか。
この学園で平和を享受しつつ、このとんでもない連中と戯れるのを。
クロウ・レッドフラワー隊長率いる99小隊のメンバーとして訓練していた日々が認めたくないほど楽しかったのか。
だから、今の隊長の言葉に安堵し、もしかしたら再び同じ日々に戻れるかもしれないと考えてしまったのか。
……ふと気づくと、リバー・グリフィンとジェシカ・エメラルドも部屋に入ってきていた。
リバー・グリフィンは私と目が合うと顔を逸らす。
そして、頭をかきながら気まずそうに言った。
「…………次、またやらかそうって思ってなきゃ、いいんじゃねーか? 許して、このままでもよ」
一番許してなさそうなやつの言葉に私が絶句すると、ジェシカ・エメラルドとキース・カールトンが呆れた顔をしてリバー・グリフィンを見た。
「……あんたって、ホンットに甘いわよね! すーぐほだされるんだから!」
「うっせーな! 反省してんならいーだろが! 第一、アッシュに勝つなんざ無理にきまってんだろーがよ! クロウもついてんのに、普通の人間が勝てるわきゃねーだろ!」
リバー・グリフィンが赤くなって怒鳴ると、ジェシカ・エメラルドは冷たい表情を向けた。
「そうね、リバーは裏切られたことがないからね。でも、私とキースは裏切られたらどうなるかを身をもって知っているから」
キース・カールトンは肩をすくめている。
「ジェシカほどではないからな。だが、俺はアッシュを含めた四人だけしか信用していない」
気まずく黙る三人を隊長が振り返った。
「裏切るかどうかは自分の信用次第で、二人がリバーのことを気にかけているのなら、統計上リバーは裏切られる確率が低いし、たとえそうなってもさほどダメージを追わないので、気にする必要はない」
私も含めて全員が、隊長の言葉に絶句した。
「ちょっと待てやコラ。俺だって傷つくわ!」
リバー・グリフィンが憤る。
「まったくないとは言ってない。だが、二人が気にかけるほど深刻なダメージは負わない。なぜなら今まで女に騙されてモゴムガ」
リバー・グリフィンが実力行使で隊長を黙らせた。
「そうか。リバーは気にすることがなかったな」
「え。こいつ、女に騙されまくってたの? 裏に気づかないなんてバカじゃないの?」
二人が掌を返し、冷め切った顔でリバー・グリフィンを見て言い捨てた。
「騙されて、ねーよ!」
リバー・グリフィンが怒鳴った。
そのやり取りを見た私は、毒気を抜かれてしまった。
変わらない日常がそこにある。
「もしも、君たちが私を使って愉しんでいたのなら」
急に私が語り出したら、四人がこちらを向いた。
「そちらにもメリットがあったならアッシュ・ウェスタンスを殺そうとした件はそれで相殺してくれ。私は依頼に失敗し、粛清対象だ。もう戻れない。次に送られてきた暗殺者を殺す手伝いもする。――だからあんたたちで、私を雇ってくれ」
四人は顔を見合わせた。ジェシカ・エメラルドとキース・カールトンは肩をすくめ、リバー・グリフィンはアタマをかいた。そして隊長は――。
「決めるのはアッシュだが、仮で許可しよう」
全員が隊長を見た。隊長は無表情に告げる。
「つまり、君を狙った暗殺者もここに来るということだな。それならむしろ君が私たちを雇うべきだ。舌なめずりしたアッシュたちが喜んで暗殺者たちを迎え入れることだろう」
全員、クロウ・レッドフラワーのセリフを聞いて呆気にとられた。
「……でも、そうなるといっけん弱そうなクロウが狙われるんじゃないの? 私は……」
反対しようとしたジェシカ・エメラルドをクロウが制した。
「平和ボケしたのかジェシカ。この程度、児戯の範囲だろう。安全だと言われているセントラルだっていつどんなモノに襲われるのかわからない。私もいつまで生きていられるかわからない。お前たちが生き残るためには多少の刺激が必要だ」
全員、絶句した。
――懐かしくもつらい、エリアでの生き様を思い出す。
そう、そうだった。つい最近までエリアにいた私ですら、平和ボケしていたな。あの頃はいつ死ぬかわからない中で生きていたのに。
私だけじゃない、エリアの傭兵だったらしい三人もそのことを思い出したらしく、沈痛にうつむいた。




