第27話 後始末
――目が覚めて、自寮のベッドで寝ていることに気がついた。
あれは全部夢だったのか? ……って、そんなことはないだろう。
でも、なぜまだ生きているんだろう。当然殺されたと思ったのに。
起き上がろうとしたけれど、体が思うように動かない。……何か薬を盛られたのか?
なんとか起き上がろうとしてあがいていたら、カチャ、と音がして、誰かが入ってきた。
「目を覚ましたか」
キース・カールトンだった。
まるで、意識を失う前のことはなかったような、さわやかな言い方だ。
「僕……の……体は……」
ろれつもうまく回らない。
演技じゃなくて、本当に麻痺したようになっている。
「クロウが麻痺させているんだろう。正確に言うと、麻痺ではなく行動制御状態だがな」
――なんだって?
「君のブレインにクロウがハッキングした結果、君は行動制御状態にある。ブレインを使わない動きなら出来るだろう。ただそれは、今までブレインに頼り切っていた君にはなかなか厳しいと思うが、慣れれば普通の人間なみには動けるから安心しろ」
と、キース・カールトンが詳しい説明をわざわざご丁寧にしてくれた。
…………あんのヤロウ!
ブレインの情報戦に負けたのも悔しいが、あの子の支配下になったのも悔しい。
怒りのあまり、飛び起きた。
「もう慣れたのか」
キース・カールトンが驚いたように目を見開いた。
「クロウ・レッドフラワーはどこだ!?」
「ここだ」
クロウ・レッドフラワーが部屋に入ってきた。
「よくも……私のブレインに勝手な真似をしたな!」
無表情のくせに『言っていることが分からない』と、いうようなしぐさをするのがまた腹立たしい。
「私が勝ったんだから、当たり前だと思うのだが。暗殺部隊は負けた者の言うことを聞くのか? ……それはまた、ずいぶんと甘い部隊なのだな」
ぐっと詰まった。
「いや、今のは『闘いに負けた獣ほどよく吠える』というやつだ」
キース・カールトンが冷静に言い放った。
「……次は勝つ。そうしたら、お前、見てろよ」
睨みながら言うと、クロウ・レッドフラワーがまた『理解出来ない』と言ったしぐさをする。
「次があると思う楽観的な考え方をするのも暗殺部隊の特徴なのか。私は暗殺部隊というのは殺すか殺されるかの二つに一つの選択ばかりをしている連中だと思っていたのだが、勘違いしていたようだ」
いろいろグサグサ刺さることを言うやつだな相変わらず!
私は息を吐くと、クロウ・レッドフラワーを見据えた。
「なぜ、私が暗殺部隊の人間だとわかった?」
クロウ・レッドフラワーが私に向かって手をつきだした。
「まず一つめ。魔術特科を受験した者が防衛特科に転入してくることはあり得ない。――君は魔術がないという設定だから知らずにいたようだが、魔術特科の生徒は防衛特科の生徒を見下している。普通科の生徒よりもだ。バカにし見下しているコースに入る者は理由がない限り存在しないのだ。そしてその理由は生半可では済まされない。親が入ってくれればどちらでも良くなった、などという理由はないのだよ」
チ、と舌打ちした。
それを設定したのは残念ながら私じゃない。依頼主だ。依頼主がバカだったからすぐバレたのか。
「第二に、ブレインの防壁はやりすぎだ。ならば外部記憶に大事な記憶を退避し、シャム・シェパードの捏造記憶のみを入れておくのがベストで、次点でダミーの記憶をわかりやすく表面に出しておき、大事な記憶を奥底に隠しておく、というやり方にすれば良かったのだ。防御壁なんて築いていたら、『見られてはいけない記憶があります』と、宣伝しているようなものではないか。君の偽キャラクターと一致しないにも過ぎる」
…………。
言い返せない。
……だけど、ブレインを覗くようなやつがいるなんて普通は思わないだろうが! お前くらいだ!
他にもいくつも挙げられる。
どこまで手加減していいかわからなさすぎてぜんぜん動けてないと思いきや、リバー・グリフィンに焚きつけられて唐突に動くようになったとか、戦い方が対人間すぎるとか、対人間すぎるのなら『VRで覚えました』という演出が必要だが、VRが初めてなことをジェシカ・エメラルドに尋ねられて再三うなずいていたとか、親の話を振られたときあまりにもリアリティが乏しすぎだった、捏造した疑似家族の記憶映像をいくつか用意しておけとか、いちいちダメ出ししてきて心を折ってきた。
「わかったよ!」
悲鳴を上げたらようやく口を閉ざした。
しばらく私が頭を抱えていると、またクロウ・レッドフラワーが口を開いた。
「リバーを筆頭に、君がアッシュを暗殺しようとしたことに腹を立てていて、最初は君を処分するつもりだった」
私はその宣告に固まる。
「…………だろうね。で、今は?」
「君の生い立ちにも殺した人の数にも興味は無い。かくいう私たちだって、戦争で傭兵として数え切れないほど殺してきた。キースも、リバーも、ジェシカも、アッシュも。ただ、私たちはそういう稼業から現在学生という稼業にシフトしている。だから、おいそれとは殺さない。それが現在の判断だ」
私は鼻で笑った。
「それはまぁ、生ぬるいことで」
ピクリ、とキース・カールトンのこめかみが動く。だがクロウ・レッドフラワーはあいかわらずの無表情だ。彼女はぜったいに表情筋が死んでいると思う。
「傭兵がセントラルの学生や教官になるなど、なかなかに無理があるのだ。平和を享受出来ず、刺激を求めたくなるのが心情らしい。そこに、お前という暗殺者がのこのこ現れたら、舌なめずりしつつ迎え入れるのも心情なのだ。リバーはギャーギャー言っていたが、なんたかんだやつも楽しんでいたしな。一番楽しんでいたのはアッシュだが」
……つまりは、彼らは私をすぐにでも殺せたのだ。今も。
彼らの目に映る私は、面白そうな玩具。コイツらは獲物をもてあそぶ狩人ってわけだったんだな。




