第25話 乱戦
始末できないまま撤退するしかない……!
初めて依頼が達成出来なかった。
このまま部隊には戻れないだろう。戻ったとしても粛清されるだけだ。そうなると変化の魔術を解いたのはまずかったが、そうしたらあのまま氷結魔術で殺されていた。
はじめての感情で思考が混乱する。冷静になれ。思考を止めるな、最善の策を探せ。
まずは脱出するべく走りながら逃げ道を模索していると、ふと肌が粟立つような感覚がした。すぐさま床を蹴って飛ぶと、間一髪で氷結魔術が襲ってきた。
「確かに身体能力はかなりだな。今のを避けるとは思わなかった」
あくまでも軽い口調の呑気なセリフだ。
……アッシュ・ウェスタンス。今は逃げるが、絶対にいつか殺してやる。
廊下を曲がると、前方に人影。あれは……やった! ジェシカ・エメラルド! 人質だ!
「ジェシカ・エメラルドさん! 助けてください! 僕、襲われて……」
変化の魔術をかけ直し、叫びながら彼女に近付こうとした瞬間。彼女が消えた。
「え?」
私は一瞬呆然としてしまった。
「――どこを見ているの?」
瞬きをする間もなく後ろに回り込まれ、防御魔術を展開した直後、背中に激しい衝撃を受ける。そのまま吹っ飛んだ。
「部隊ナンバー99、【ナンバー19】ことジェシカ・エメラルドよ。よろしくね」
あでやかに自己紹介されて、瞳孔が開いた。
もしかして、ナンバー99小隊って……メンバー全員が傭兵部隊にいたっていうのか!?
また肌が粟立つような間隔が走り、防御魔術越しに蹴られた背中の痛みも忘れて飛びのくと、私のいた空間に拳がとんできて、そのまま床を破壊した。
私は衝撃波で転がる。
「……確かに、実力を互いに隠していたようだな」
キース・カールトンが、拳で床に穴を開けながらこちらを鋭い目つきで見ていた。
なんだこの化け物の集まりは。
自失する間もなく何度目かの粟立つような感覚を知覚したとたん、もはや反射的に避ける。
今度は燃えさかる鉄パイプが壁に突き刺さった。
「最初ッからその実力を出しときゃ、俺も気楽に始末できたのによ」
左手に鉄パイプを持ったリバー・グリフィンが僕を見下ろした。
…………そうか、君は、君たちは、すでに私の正体を知っていて、だから直情的な君は私に対して当たりがキツかったのか。
逃げられない。
彼らは最初からかわからないが私の正体を見破り、私がどう出るか、どう戦うのかを観察していた。
リバー・グリフィンは私を煽り、ジェシカ・エメラルドは私に優しくし、キース・カールトンは一歩引いた友人枠で油断させていた。
最後の一人、あの彼女はこの戦闘の場にいない。
だがまぁそうだろう。彼女の能力は知らないが、あれほどに小さければ戦うのに不向き過ぎる。VRに特化した魔術だったしな。
つまり、彼女は部隊の補佐、後方支援なんだろう。ならば、それが突破口になるかもしれない。
私は襲いかかる四人をしのぎ続けた。
まるで猛獣が獲物をいたぶるように戦う四人にいらだちつつも、その油断を利用してやると思いながら。
なんとか躱し続けた結果……とうとう見つけた!
私は、隠し球の閃光魔術を使った。
「「「!!!!」」」
連中が目をやられひるんだ隙に飛び、隠れていたクロウ・レッドフラワーに迫った。
無表情の彼女の顔をわしづかみにする。




