大長虫
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落下中、理解すると同時にソレに剣を突き立てた。
突き刺した事もあり、血液を散らしながらそれは離れていった。
空中で、だが
反動でこちらも飛ばされるが、突き刺したせいで剣は持って行かれてしまった。
体がソレから離れると嫌な方向に飛び洞穴に生えている石柱や垂れ流れている滝を貫く。
身体を丸め、衝撃に何度も備えた。
どうやら底は浅い水面になっている様で、ずぶ濡れのまま起き上がる事になった。
「…」
足元には何かの直ぐに崩れる物だった。
ランプを…いや避けるべきか。
道具袋から暗視鏡、本国から支給される旧時代の遺物を解析したというゴーグルを取り出す。
狭まる視界と薄暗い視覚補正に塗り変わる。
ワームは見えない。探しているのかもしれないが、猶予があるのならと目を凝らした。
「インプか」
インプの死体。
なぜかはわからない。だが浅い水の中に浮いている様だった
それに群がるナニカまでしっかりと認識できる。魚だろうか。魔魚の類だろうが
死体がグズグズな腐乱死体で残っているあたり消化能力は低いのか。純粋に主食ではないのか。
悪臭は、残念ながら鼻が麻痺している。
衛生的にはよくないな。
真上は岩盤であり、やはり引き摺り下ろされた淵からは遠くに位置している。
キキ キキキ キキキ
何かが羽ばたく音がする。
さっき見た蝙蝠か。
統率している個体がいるのか。
それから、仲間はこの層に来ているのか。
その時になって、パッと天井の一部分が光った。
シセラリアの魔術か。天井近くに溜まっている。
上の階層にいるという事だろうか。
光に釣られたのか。のっぺりとしたソレが姿を現した。
ソレは長いつるりとした皮を持っている。
ソレは退化した羽根のような鰭を持っていた。
ソレは小さな鉤爪の様な前肢を使い壁や天井鍾乳洞に張り付いていた。
ソレは天井や鍾乳洞を張り付き伝いながら光に近付いていった。
ソレは顔に当たるであろう肉体に複数の孔を持ちそこから蝙蝠の魔物が出入りしていた。
長虫、それも怪奇な形状をした大長虫。
それにしても、巨大な穴はここにあるが殆どが小さな穴が空いているだけの洞窟にある種のデカブツが存在しているものだろうか。原生生物には思えない化け物だ。
よく見ると光の方向に蝙蝠の魔物が集まっている。
魔物を集めるよりも照明を確保する方を選んだという事か。
暗視鏡を顔から剥がす。貸与品だから捨てるわけにもいかないが、視界は狭いし邪魔だ。
迎撃しているのは、ラミリックの武器だろう。
あの変形大槌、というより騎士の武器は特殊な機構を盛り込まれている。
というより騎士であるという事は、特殊な兵士であり、旧時代の遺産を活用した砲撃式と一列に扱う武器を扱う資格を持っている事でもある。
遠距離攻撃で蝙蝠を追い払っているのだろう。
あまり見ない状態だが、こうして見ると便利そうだ。
それより、あの長虫は攻撃に参加してないし二人も手を出していない。
むしろ何かを探しているのか。
おそらく認識はしているが、先に火急の件を処理する方を優先しているのだろう。
引き上げて貰うには邪魔が多い。
つまりは、大長虫を倒すか。
あるいは水の流れがある以上はどこかに出れるかもしれない。
出る時には合図が必要だろう。
装備の一つには信号弾がある。古い時代の遺物を再解析した物で軍隊関係か一部の機関にしか配られていないが、あまり嬉しい消費ではない。
水の流れに手を当てて流水の行き先を探る。
蝙蝠をなるべく避け、岩場を伝って歩くが、水の出口と思われるのは小さい物が多くあるだけだった。
シセラの光も薄くなってしまっている。
…他は、どこに
キキ キキキキキキキキキキキキキキキキキキ
うるさい声がする。
蝙蝠だ。反射的に素手ではたき落とした。
くぐぁ
薄い暗闇の中、壁に張り付いた長虫がこちらを見て、こちらに顔を向けて口を開けた。
中身がこぼれ落ちて、何かの残骸が
いや、インプの羽根が付いた残骸が現れた。
なるほど、考察はさておき、逃げられないか。
どちらにせよ。灯りの外には行きたく無い。
盾はない。
予備の小剣を抜剣すると構えた。
くぐぁぁぁぁ!
勇者とは、蛮勇を示すものでは無い。
勇気をあるものを示すのでもない。
ある理不尽なスーパーマンを示す記号である。
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