恐ろしき暗き淵
凍った道は滑りやすくフィジカル自慢のラミリックはともかくシセラリアが何度か足を取られかけたが、盾のあった場所にたどり着くことができた。
問題の盾は何かしらの動物、特に鼠を巻き込んで気味の悪いオブジェクトになっていた。
「ふむ。引きちぎればいいか」
「いや、普通に外すよ」
剣を突き立てて固まった箇所を削ぎ落とした。
「しかし、別になのある品では無いだろう。捨て置いてもいいのでは無いかな」
「いや、確か。旅立つ日にベイが剣と一緒に仕入れてきたやつだ。なんでも竜を刺した槍の穂先を半分ずつ埋めているとか」
「あ…」
「ふむ。聖遺物の類か?」
「さあ」
仮にそうだとしてもどうしても胡散臭い。
と言うか、明らかに僻地にサボりに行ってる奴に渡される品ではないだろう。
「シセラ。悪いけど熱を用意して…、シセラ?」
振り返るとどこにもシセラリアが居なかった。
無言でランタンをつけるラミリック。
何か滑らかな皮で出来た巨大な物に巻き付かれた赤毛の女が地面にしがみついていた。
通じている先は、最も大きな大穴。
恐るべき暗き者ウェール。
「シセラ!」
誰も気付かなかった?
疑問をそこそこに、盾をそのままに素早く剣を抜くと
まずはシセラを掴む。
「私が代わる。化け物を頼んだ」
ラミリックがシセラを支える側に回ったのと同時に剣を閃かせて叩きつけた。
ぐにゃり、と弾性力による反発を剣先が感じる。
押し切れる。
確信した時だった。
ヌメっとした何かが弾かれた様に引っ込められる。
確認するとシセラを手放している。
ラミリックがシセラを確保したのが見えた。
まずは、立て直せる。
確信した時だった。
キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ
「蝙蝠」
急に爆発的な数がやってきた。
シールドバッシュで、いや手元に無い。足元だ。
間に合うはずがない。
両手で剣を構えた。少しでも払うために集中する。
「ディム!」
だから、足元に気づかなかった。
さっき、シセラを捕まえていた物、謎の滑らかなロープが足を引っ掛けていた。
目があった。
ヌメヌメした尻尾を持つその胴長の生物
そして俺は、引き摺り込まれていった。
暗い大穴に