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地下水の洞窟

 穴の一つ、ラミリックの向かったのと同じ場所に身を躍らせる。

洞窟の地下に更に潜ると肌に触れる冷たい湿気がまとわりついた。

上層とは打って変わっての広い空間、少なくとも片手持ちの武器を振るうには十分だろう。

 隣で杖を振る風が肌に触れる。

すると、シセラリアの魔術である光る粉が降ってきた

 降りてきたシセラリアは顔を顰めて言った

「ディム、湿気が酷い。触媒の密閉性を確認するわ。少し待って欲しい」


 ラミリックは、灯りを持って広場状になっている場所にいた。

なるほど上の階よりも広い。ここならわざわざ小剣に持ち替えずとも直剣くらいなら振える。戦槌は難しいだろうが

「“ベ”ム“ト”か。うむ、来たな。ランタンはつけたがよかったよな」

「すまんが、緊急用にとっておいて欲しかったな」

 ラミリックにはあまり道具を預けてないが単独行動に備えて欲しかった。

「では…」

「待てラミリック。湿気で触媒が駄目になってしまうかもしれない」

「うむ?わかった」

 ラミリックのいい所は素直な所だ。

言えばちゃんと待っている。解らなければ素直に従う。言わなければフィジカルに物を言わせて動く。困り物だな。


 取り敢えずは危険のないか哨戒するべきだろう。

引き返す考えはない。猪が突進を止めると思うのは楽観だからだ。

シセラリアが瓶だのなんだのを触っているのを尻目に魔法の光る粉を確保すると灯り代わりに洞窟を照らす。

 照らすと言うより本来暗闇の場所に灯りは持ち込むべきではないのだが、光に過剰反応する生物とかいるなら即死させるしかないだろう。

 ……

 丁度、動いた。

 長めの直剣、古びた中古の主武装。予備で持っている小剣の方が綺麗なくらいだが、どうせ壊すか失うのだから、耐久性はある程度でいい。

 いいいいいいいいぃいイ

抜剣し突撃すると、暗闇の中のソレは声を上げようとしたらしい。

 小さな影だ。それも気付いていた。

一応、首を千切る前に踏みつけ、そして灯りを撒く。

 小さな子犬のような大きさの猿の魔物。洞窟に棲みついたインプ。

確認した瞬間、首を刎ねる。

 本格的な異音になる前に始末できたらしい。


 インプの魔物は仲間を呼ぶ。

小さく這い寄って来て仲間を呼ぶ。

本家大元の悪魔のような知能は無いがひたすらに厄介なのがインプ型の魔物だ。


 加えて、魔王の多い西大陸方面ではこの手の魔物の拠点の外でも、よく見る。研究においては哨戒機かカナリアに近い扱いで使われていると考えられている。

 図鑑で見た限りだが、声で察した。あまりにもうるさいし特徴的だ。

「ディム。何かしら嫌な声だったが、アレは?」

「ラミリック。インプだ」

「ふむ。つまり?」

 シセラリアが近寄ってくると、杖で灯りを払い光る粉が薄くなった。

杖で空気を起こしラミリックのランタンの明かりを消す。

「つまり、斥候よ。もういいわ。安心感を得るために持ち物を見ている場合じゃ無いもの」

 この洞窟に目をつけた魔王がいるのではないか。という事だ。

「ほう?であれば、今やって間に合うものなのか」

「どういう事…」

「たくさん居たではないか」

 たくさん、もしや見つけたのが一匹だけで、他にもいたのなら、それを先に来たラミリックが見つけていたのなら…聞いてないけど

「え…」

「シセラ!灯りだ」

 反射的に、シセラリアは触媒を取り出す。さっきとは違うーー掌ほどの固形物だ。

「光の道よ。かごを …溢れ出す者よ。いかれりあれり、にじりーー奔れフラッシュオーバー」

さては間違えたな。

 思う暇もなく。手の中の触媒が強烈な光を放つ。そしてその後

キィッィィィィィィィンン。と酷い耳鳴りを鳴らす。耳元で鼓膜が破れてないか本当に心配だ。

 閃光だ。目眩しの魔術。

それ、本来は投げるやつだろう!


鼓膜が麻痺する。世界から音が消え去る。

 罵ってやろうかと思う。いや、たくさんの小さな何かが逃げ帰るように動き出す。

褒めるべきなのか?文句を言うべきなのか?いや、解決したのだから褒めるべきなのだろう。何か考えがあったのでは?

下らない事を言ってる場合か!


 インプだ。とてつもない数。過剰な灯りに照らし出されたそれらは散っていった。

 目が光に慣れる間もなくオレ達は動いた。空気を読んでラミリックも動いた。

インプは斥候だ。つまり、次の波がやってくるのではないか。

 緊張から先頭に出る。それに応えて二人も隊列を直す。


暫くしても何もやってこなかった。

「ふむ?。仲間を呼んだわけではないのだな」

「…」

 耳が遠い。

 視界の端で娘は縮こまっている。

だが、別に罵る理由はない。

そりゃそうだ。アイツは別に無能というわけではない。

 対応できない訳では無かったし、そもそも急な戦いなら目眩しを仕掛ける方がいいと判断したのかもしれない。手元で爆発させては意味がないが、

言うまでも無い事なら何を言っているかはわかるが、慣れるまで待つべきだ。

 


「進もう。ここはバレてる。広さは勿体無いけど上層からして入り組んでいてもおかしくはない」


 暗視鏡は、装備品にはあるが既にバレてるなら迎撃する方が幾分かいいだろう。どうせ反響するし聞こえやすい。

手で合図をするとシセラが灯りを付けて薄暗闇になる。

 再び、暗闇に目が慣れると広間の入り口を通るすると、更に広い空間があった。

横に、そして上下に、立体的に広い。

 暗いことを含めても果てが遠い球体状の地下空間だった。

天井はある。穴になっているのが動物の巣のように無数に空いているが、

それよりも下だ。広い。しかし、目に見えて丸い空間は川になっている。

 水源は天井から雫が垂れているのを見つけた。

あるいは音が戻ってきて聞こえる水の流れの音。

 それが中心のぽっかりとした大穴に続いている。

なにかを吸い込んでいるような大きな穴


「洞窟のウェール。恐るべき暗き者」

「インプもいるな」

 横には通路のように歩める足場がある。

それはいい。だが、天井や壁に張り付く無数のインプ。

 こちらを見ても何もしてこない。仲間を呼ばない斥候兵

インプの光る目がまるで砦のように設置されている


かなり不気味だった。


チチ。キキチチ

「…、あれ」

 指を刺したのは円周の縁にあたる道の上。

巨大なネズミが多く乗っている。

 当然とばかりに空中には蝙蝠

「うむ。“ウ”ィム、盾を貸してくれ」

 ラミリックが言う。

ラミリックは馬鹿力だ。つまりこの一本道を“板”で端まで押し込むつもりだろう。

「わかった。シセラ、お前は空中の蝙蝠を撃ち落とせ。ある程度片付いてラミリックの準備が済んだら連中を殺れ。オレは、インプ共を見ている」

「フラッシュカノン。…大技で一掃する」

シセラの呟くような省略詠唱で光の投槍を呼び出しラミリックの周囲に放たれた。

 ディムはというと普段、あまり使う事のない弓を手に取った。

旧時代の武器だが、地面にいないのだから仕方がない。本来の騎士なら多くの武器の扱いを知り普段とは違う武器の対応も柔軟にこなしてくれるらしいが、ラミリックは近接武器しか使わない。いや、拘る傾向があるのだ。

 どちらにせよできる事だからまだいい。

 そもそもラミリック達騎士は戦術と武器のスペシャリストだ。知恵も人類の技術による武器も使用できるようにした兵科であり、本来は役割により能力の分かれる兵士をどこにでも配置できる様に育成された戦い方に明るいのである。要するにエリートであり主な仕事は勇者の援護や王国の兵士隊の統率など大きな責任が伴う。

 ラミリックはどうやって筆記を突破したのかは不明だが、彼女も武器の扱いに関してはおそらく信用していい。


 盾を持っていったラミリックを尻目に矢を番えて張り付く赤い目に狙いをつける。

おかしなことにインプらは狙いをつけられても動かなかった。

 …撃っても動かないのだろうか?

いや、動かないなら触らないのが安牌だろう。警戒はするとして


 蝙蝠を一目見て射落とした。

横目で見ると、シセラリアは堂々とこの場で半跏趺坐…片足だけを組み瞑想している。

 大技の精神統一や訓練に使用される。本来は魔術ではないが便利と言う事で持ってこられた技。ある種の宗教に対する冒涜性も魔術ゆえかもしれない。

 確認してすぐ様、シセラリアが立ち上がると何かを払い。早口で呪文を唱え始める

「足を奪うものよ。意思を挫くものよ。汝は、弾圧するもの。我は神威を借りる巫女なれば、荒々しき力を降ろし給え」

 北の帝王を招来し、怨敵を凍させ、凍死させる事を願う魔術。

なるほど大技だ。曰くは様々、悪魔の契約、何かしらの大災害による凍死者の怨念。魔術自体王国本土の組織編成からははみ出しているので詳しい事は知らないが、性能が凶悪である事は理解している。

 シセラリアは終わりに杖を振るう。ぐるん、ぐるんと振るわれる度に冷気が吹き上がりシセラリアの示す先を凍られる。

 蝙蝠が羽根を潰されて倒れる。盾で押し込まれたネズミが踠き苦しみと動かなくなる。

そして張り付いていたインプの群れもまた、落下を始める。

 いぃいい いぃいい いぃいい いぃいい

 先ほどとは異なる音の声だ。

がんとして動かなかった凍ることから逃れたインプの赤い目が一体また一体と移動を始める。

 行き先は下方に、と言うより大口を開けている大穴だ。


 盾でネズミを押し込んでいたラミリックが戻ってきた。

回収できなかったのか盾は手元にないが

「うむ。上手くいったな」

ラミリックが言い出す。加えて顔を顰めるとぼやく

「しかし、寒いな」

 それは確かに、それ以上に冷気を撒いた影響で床が滑りやすくなっている。

迂闊には動くべきではないし、洞窟の形状からして大穴に落ちることは明白だろう。

「そうか。では休んだら穴の下だな」

ラミリックはいい笑顔で当然と言わんばかりに言った。

「まあ、ここまで来たら放置はできないか」

 せめて魔王じゃなくて先遣隊くらいしにしてほしい。

勝ち目がある相手である事を切に願おう

「それで盾はどこに置いてきた」


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