マチェット山脈
この地域には昔、地中に巨大な大蛇とその家来達が住んでいたと言う伝承が残るほどに大量の洞穴がある。
なにが原因でできたのかは分からないが、暗く地元を知っていてもまず触れたがらない暗闇だ。急な穴に落ちたらたらまずは助からない。
今となっては洞窟型ダンジョンの宝庫とでも言える。
危険地帯であるが、どうやら魔物には関係なかったらしく洞窟に適性のあるものが平然と住み着き出した。
そもそも、この地域は魔王の本拠地とされている北の大陸からは遠く。また、第二拠点とされている西大陸の砂嵐の大地からも程遠い。
侵攻は予見されていなかった。そのため王国本土は小さな魔物が住み着き始めたのに気付くに遅れが生じた。幸いなのは大した魔物はいないとされてはいる事だけだろう。
だからと言うことでもないが、元々腕っぷしに自信がある王国の頭脳や勇者連中からすると全く人気がなく調査する機関すらも作られていない
キキぃ
洞窟に適した長さの小剣を振るい蝙蝠の魔物を斬り殺す。
非常に視認性が悪い事に定評のある魔物が多い。
「光の道よ。加護をあたうる光よ。息吹を受け標となれ」
ふぅ。シセラリアの詠唱と共に触媒の粉末を息で飛ばした。
暗い暗闇の中、山刀の様な形をしたマチェット山の洞窟の一つ。今は自然窟に過ぎないが、古代人の道だっととも言われている整った道だ。現代においては見つかっていないが鉱山だったとも言われる。
光る粉の帯が洞窟を照らし出した。
残っているのは鼠の魔物が一匹ほど、小さくて気づかなかったのか
ラミリックが棍棒で殴り殺す。
棍棒、自体は武具屋で売られているが、アイツの棍棒はその辺で渋々作った自然物だ。何故か大槌以外の予備を持ちたがらない。と言うか狭いと扱いに困るだろうに
光源が照らし出す通りに目につく魔物は大体死体になっていた。
低い天井に小さな穴が床や壁に天井に存在している。地元の民から恐れられる場所だが、なるほど特に床の穴が最悪だ。この暗闇で落ちたら出れないし、なんと言っても一見底なしかと見間違える深さが酷い。
身体を動かしづらい場所。何より普段使いの武器が使用しづらい広さの洞窟なのが困る。広間になっていたら心配せずに使えるが
背の高い子供ならちょうど良いくらいだろうか。だが、小さい子供なら床穴にひっかかり転げ落ちていくだろう
鼠、蛇、蝙蝠。魔物の種類は似た様なものだが、やはり多いし、デカいか毒があるか。
小さい動物の様に見えても本来のそれよりも咬筋力だってあるだろう。あと大きいやつは純粋に邪魔だ。
主武器の大槌を使えないラミリックが即席の棍棒の血を拭ってボヤいた。
なぜか携帯武器を持たなっていないのだ。
「しかし、わかってはいたが振りづらいな。そういえば“ケ”イは来ないのか」
「パチンコ、だから神官の仕事も私がやっている」
ディムの近くにやってくると、皮膚や腕に触れて診察する。
シセラリアは簡単な薬くらいなら作れる。
治療に関係する行為も可能っちゃ可能
ベイの奴はまともに働かないからな。
「うむ。いつも思うが資格試験の上位者でかつ敬虔な信徒と聞いていたのに当てが外れてるな」
「?誰の話」
ディムの持つ剣はラミリックの槌よりはリーチが短めでマシだ。周辺の警戒と依頼された例の子供を探すべきだろう。
鬱屈とした気分になるが床穴が特にだ。落ちたとすれば足を折って魔物の食事行き、気分を害する事は言うまでもない。
大雑把には照らされているが、見えない場所は局所的には多くある。
宙を漂い光る粉を片手で掬うと暗闇に撒いてみる。
痕跡を探すが、魔物の死体が覆い隠し仮に何かあっても見つからないかもしれない。
チチ、キキ。キィ
どこからともなく溢れてきた魔物が流れ込むように床穴や壁の穴に流れ込んでいく。
数が多すぎる。根絶は難しいだろうな。当たり前か
光る粉を用いて穴を覗き込んでみると大きな空洞があった。
有名な話だ。暗闇の中に入ってしまうともう脱出できないと言うのは、この辺りでは良く聞く話だ。
洞穴のウェールだったか。
恐るべき暗き者。
自らの領域に入った子供を冷たい水に捩じ込んで嬲り殺しにすると言う民謡だ。
初めて村で多くの魔物を蹴散らして見せた時に歓迎の宴で披露されたのだ。
もう、数ヶ月は前の事だが
頭を振って探索を諦める。一人で探しても意味はない。
暫くするとシセラリアがバッグを手渡してきた。
ラミリックも生臭い戦利品専用のバッグを担いでいる。
男手だから受け取るのはわかりきっている。が十把一絡げに価値は低い。場合によっては捨ててもいいだろう。
「うむ?もういいのか。滅ぼせなくても強いのは殺すのが極まりだろう?」
「ラミリック。探し人に来たの忘れてるの」
シセラリアは呆れ口調だ
「うむ?うむ。そうだったか。まあ私は無駄だし深く考えないようにしているからな」
それでコッチとかにお鉢が回ってくるわけだが、騎士は一応兵器や戦術に精通した王国から寄越される参謀的な役目も持つメンバーだ。パーティを組んだ時にはまさかこんなに頭を使う事になるとは思わなかったよ。
「ん?」
風の音だ。空気の流れ道、なんとなく密閉感から何もないと思っていたが、照らすか
配給品のランタンは燃料が勿体無い。光る粉を掴んで撒く。
すると、先細り的に狭くなった通路があった。そしてその末は人が通れる様なものでは無かった。
形状的に落石だろうか。奥には何かしら通路になっている。
なるほど、古代はどこかに通じていたのかもしれない。
それにしても、他には何か行ける場所はあったか?
「シセラ。地図は」
「入れそうな所は全部見たわ」
杖の先を光らせて地図を示すとなるほど迎えそうな場所はもうないか
「そうか。一度引くか」
「ん?いや、待て話の子供が見つかっていないだろう」
「まあ、そうだが行く場所ないだろう?」
ラミリックは不思議そうに首を傾げて、地面を指した。
「下はまだ見てないだろう」
「いや」
床穴の空洞の事だろうが、天然窟だ。
地下に向かって戻れるかわからないだろう?
反論を切り出そうとした時だった。
「まあ行ってみようじゃないか」
ラミリックは止める間もなく床の穴…人が入れるくらいのものに身を躍らせた。
「…」
「…行こう。バラバラになるのは面白くない」
国に戻れば人は補充されるかもしれないが、失ったとなると怪しいか
人命は安いが、沢山の勇者の命もまた安い。
最悪、登ればいいか。
2人の間でどことなく意見が一致する。
シセラは無言のまま金槌を取り出すと
ディムも踏ん切りをつけて登攀用のロープと杭を出した。
…魔物に切られなければいいのだが