王国史
王国史によると
魔王が到来する前までは世界は全く違う形をしていたらしい。
王国史元年に植生や食べ物、建築様式など大きく変わったらしく境目から昔を古代文明と呼ぶ。
理由は不明だが、どうやら世界には魔王は一体もいなかったし統一されてなかったらしい。変な話だが。
陰謀論によると魔王達は古代文明の生き残りとか、遺産の兵器とか、果ては昔と今では物理法則が違うとか、くだらない与太話が目立つくらいには謎だ。
そう言うやつから出土した技術は大半が解析不可として国立宝掘院が持っていくが、一部は現代でも活用されて使える様になる。
「姉ちゃん。林檎ジュースちょうだい」
「は〜い。あ、勇者様じゃない。いつもありがとうね」
「いえいえ」
彼女はこの村で一番目から2番目くらいの美人さんだ。
国認定勇者としての特権で授かった古代文明の遺産である端末機械で調べた。
板状のコレは一般人も知っている有名な道具だが、特別な者しか持てない特権だ。
欠点があるとしたら認可された街の外では使い物にならない事だろう。何故かは知らないが
血筋として維持されている勇者として生まれた以上、ハーレムを作るのは当然である。よってナンパは多分義務、であれば口説かないわけが無い。魔王殺しの使命が難しそうな分、オレは次代の勇者を作ろう。
うん、魔王達はアレックスパイセンとかいっぱいいる勇者に任せればいいし
沢山いる魔王はパイセン、種を残すのはオレ、素晴らしい棲み分けだ
さて末端勇者は今日も今日とて軟派の下準備をしますか
「ね。グラディムートさん、あんまり深い意味はないんだけど…勇者アレックス様と知り合いだったりする?」
ミーハーだった。
「…面識はあるよ」
「そうなの!へえ、どんな人だった。今どこにいる?」
…面識はあるよ。でも、あの人の仲間まともじゃ無いよ
「…Rソードの戦線」
「あーる?」
「赤砂の魔王に対する攻勢部隊」
「え、すごいじゃ無い。あの魔の鬨の変の主犯でしょ?」
魔王がいっぱい。なんて時代になっても初めはちょっかいを出して小競り合う程度だったらしいのだ。
実際に北部や東西の端では聞く耳持たずで殺しにかかってきたらしいが、別に殺すのが可哀想だとかそう言う話ではなかった様だ。なぜかそれどころではなかったのかもしれない。
が、そうもいかなくなった。
王国史最初期に起こった“魔の鬨の変”。
一体のそして2番目に確認された大魔王が北の大陸から直接、防衛戦に築かれた要塞と西大陸の一部分を文字通り吹き飛ばし海に変えたのだ。超火力による砲撃と記録されていた。
その後、魔王は単独で大陸に乗り込み、かつてあった平原に住む人を、正確には動植物無生物の類を含むーーー、兎に角目に付く全てを破壊しまくった。
当時の陸軍の半分と義勇軍達が対応したが、それもまた全て殺し尽くされたらしい。
そして血に染まった大地には鼠一匹は勿論のこと草木すらも残らなかった事から恐れられて赤砂の魔王と呼ばれるようになった。
問題は西大陸内部に赤砂の魔王が前線基地を作られた事で人類側は対応を余儀なくされた事で一人目の魔王との小競り合いに大きく侵攻を許す事になった。
なぜか王国本土に向けて来なかったし、二発目は撃たないし、数百年経った今だに飛んでこないが、それもあって脅威だと認識される様になったらしい。
どれだけ離れていても赤い光を観測できたのだから恐ろしい。
「ああ、アレックス様。このロザンナは遠くからお慕いしておりますぅ。願わくば我が身を迎えにきたまえぇ」
ピコン、端末に個人情報更新が来た。
曰く超ミーハー、センセーショナルな情報を鵜呑みにする。
「……」
そんなかんなで、勇者に対して大きな支援が向けられ、ついでに子種を残す事は最重要とされた。で有名なそれは人気もあるしスーパーヒーローだ。上手くいけば狂信者とか出てくる。
だから、勇者がハーレムを求めるのは屑な行為では無いのだ。まあ、この人は無理そうだけど
あとあれだ。タイプじゃないし
「ディム、油を売ってるの?」
「あら、シセラちゃんこんにちわ」
お姉さんが反応して挨拶をする。
小柄な人間、だが眼前にあるのはドデカ三角帽子
澄まし顔でぺこりとお辞儀をするシセラリア。
魔術師の女、背が低く帽子で見えないが分類的には美人…中身は言うまでも無いが
なんとなく林檎ジュースを頼んでからシセラリアに向き直った。
「なんかあったっけ」
「うん。山の洞窟、もう攻略するんだよね」
「ああ、神官様の指示だったな。あと、調査だけど」
「そう。いけすかない人達ね」
準備と調査だよね?
魔王とその拠点こと魔物の巣窟であるダンジョンを破壊するのに何も最初から滅ぼしに行くわけでは無い。
そもそも殺しに行けば、生き残ろうとするので簡単に攻略できるはずがないのだ。というか大陸によっては滅ぼす事を二の次にしている事も多い。
だから、地形条件、気温条件湿度条件による何の魔物が棲息するのかを調べて実際に現地を確認して罠や何が済んでいるのかを調べる。
大きなダンジョンになると斥候専門のパーティが存在するほどだ。
南東大陸の魔物も魔族も弱めだからわざと選んだが、それは比較して弱いでたって、弱い訳ではないのだ。
一方で勇者もグラディムートの一行しかいない。ディム達が来る前は神官団が定期的に周回していただけだったほど東南大陸には危険も無いが功績も無い。
わざわざやってくるのは能力的に怪しい奴がいるメンバーくらいだろう。うちの様に
東南大陸のパタの港から北のカルフの村。グラディムート達はそこを拠点に神官団の占いと指示で動いて回り残った場所がマチェット山脈である。
ここから向かうのに1日以上は削れる。
で、魔物がいなければ別の場所の移送を指示されるまで、と言うより報告を遅らせればある程度の時間をのんびり過ごせるというわけだ。
まあ、最初の目標だ。処理に困る大量の化物がいる訳でもないさ。
「それで、なんの話をしていたの?」
「あら、気になる。シセラちゃん、うふふ。アレックス様の話」
シセラリアは少し黙考するとつぶやいた。
「ああ、なるほど軟派擬きか」
「擬きって何だよ」
「あら、私もしかして口説かれていた?ごめんね勇者様。私魔王とかバッサバッサ倒せる人が好みなの」
いや、アレックスも十把一絡げには倒せない。
誰であれ無理。
「ヘタレ」
「別にヘタレてる訳じゃないんだが」
「でも大丈夫。私ならディム…貴方の子供が欲しいわ」
「勇者の生態を見てみたいから」
「わかっていたが大丈夫じゃねえな」
「興味があるだけよ?解体とかはしないし、貴方に恩も負い目も好意もあるわ」
それにしてもと
軽く軽口を叩いて、りんごジュースを受け取っているのを尻目に仲間の所在を思い浮かべる。ラミリックはどっかにいるとして
「それでカジノ中毒は?」
「パチンコ」
店先に降ろしていた盾と剣を持ち上げた。