日常
怪奇、魔法、超能力。
歴史の中で数多の呼称を得たソレを、現代では神の祝福と呼んだ。
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神立円天学園。
私立でも公立でもない学園。
神の字を冠する理由はただ一つ。
文字通り神と呼ばれる存在が作った学園であるからに他ならない。
季節は春。
といっても、入学シーズンを少し過ぎ、そろそろ校門にも親しみを持ち始め寝ぼけ眼でも通学路を迷わず進めるようになった頃合い。
俺が校門をくぐると同時、氷塊が鼻先をとんでもないスピードで通過していった。
「ひゃっはー、どうだ俺の神の祝福は!」
小悪党のような笑い方をした少年が挑発するように指を立てる。
それは俺に向かってではない。
もう一人、俺を挟むようにして少年と向かい合っている少女に向かってだ。
「あったまきた!覚悟しなさい!」
少女の赤い髪がぼっと灼熱の炎を上げる。
そのまま髪を振り回すと、炎の螺旋が空中を踊り少年へと迫った。
少年は鼻を鳴らす。
「へ、んなのきくかよ!」
少年が何もない空中を思い切り殴りつける。
すると、透明な氷柱が殴ったところからズズズとせり出してきた。
それは少女の炎と激突し、派手に水蒸気をまき散らす。
「はあーあ」
俺はそんな様子を欠伸交じりに眺めながら、ちょうどいいと水蒸気の中を少し屈みながら通過する。
ヒュンヒュンと頭上を何かが通り過ぎていく気配だけを感じたが、いつものことなので気にするだけ無駄なのである。
「今日もこの国は平和だね、と」
なおもバチバチとやり合っている少年少女を尻目に、俺は校舎へと入っていくのであった。
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ごぉーん、とやたらとでかい鐘の音が鳴り響く。
登校時間が終わり、始業時間を知らす音だ。
いつも通り5分前に到着していた俺は、当たり席とされる教室窓側最後列で頬杖をつきながら外を眺めていた。
「皆さん、ごきげんよう」
気付けば、黒板の前にはすらりとした長身の女性が立っていた。
扉を開けたような音はなくいつからいたのかは不明。
「せんせー、あたま。消し忘れてますよ」
クラスメイトの女子生徒が現れた女性に声をかける。
「あら、失礼。恥ずかしいものを見せたわね」
女性はぽっと頬を染め、頭の輪っかを撫でるとすぅーっと輪っかが消えていく。
とんでもない美貌を持つ女性の恥ずかしそうな仕草に、クラスの男子は興奮したような声を漏らし、女子はごみを見るような視線を送っていた。
目の前に立つ女性は人間ではない。
天使の輪っかというのは、どうやら寝起きの髪が跳ねているみたいな感覚で他人に見せるようなものではないらしい。
「今日もいい天気ね」
「せんせー、その冗談何回目?もう飽きたよ」
高度五千メートル。
雲すら見下ろすこの学校で、天気が悪いことなどない。
たまに雲に突っ込むことはあるけれど。
「むぅ~人間のジョークは難しいわね……」
女性はシュンと肩を落としその場で反省し始める。
クラスの男子が優しい言葉を投げかけ、女子が微妙な目でそれを見る。
神が人類を支配して百年。
これが俺たち、与えられし者の日常である。